第三十五話 調査結果

 迷宮探索を終了。村へと戻ってきた、その晩。


 当然のように俺の部屋で二人。

 ラセリアから、例の宝石の調査結果を聞いていた。


「座標を定める装置?」

「はい。この玉が召喚装置で受け持つ機能はそれです」

 それとか言われても、知識がない素人には全然分からない。

「すまないが、素人にも理解できるように、噛み砕いて教えてくれ」

 そもそも、どのような手順で、召喚魔法とやらが成立するのかも分からないのだ。

 俺の要望を聞いて、人差し指を顎。そうですねぇと、上を向きながらラセリア。

 暫し黙考する。三秒くらいの間で、考えが纏まったのか口を開く。

「ちょっと遠回りになりますが、まずは召喚魔法について説明しますね。その方が理解しやすいでしょうから。よろしいですか?」

「ああ、構わない。というか、それに関しては、俺も知っておかなければならない事だ。こちらからも頼む」

「分かりました」

 それでは簡単に、と前置いてから、ラセリアの講義が始まった。

「召喚魔法というのは、基本的には五つの行程から成り立っています」

「ふむ」

「一、干渉する場所を発見する」

 ターゲットのいる世界を探すって事だろうな。

「二、その場所への穴を開ける」

 こちらと世界を繋げるって事かな。

「三、開けた穴を安全に渡れるように道を安定させる」

 逆に、考え無しに通すのは危険と。

「四、その場所にいる者を招く。もしくは引き込む」

 目的達成だな。

「五、最後に穴を閉じる」

 後始末ね。

「以上の五行程です。分からないところは?」

「大丈夫。分かりやすかった。ありがとう」

 本当はもっと細かいあれこれがあるのだろうが、大雑把には理解した。

 迷宮で見つけた宝石は、一の行程に対応するのか。

「なお穴を開けるというのは勿論、空間に、という意味です。つまり召喚魔法とは空間魔法の一種ですね」

 彼女の得意分野である。

「ということは、ラセリアも召喚魔法とか使えるのか?」

「そうですね。やろうと思えば。手間は掛かるし、好みではないので使いませんけど」

 彼女には珍しく、その言葉に忌避の感情が見えた。

 召喚魔法に、何か思うところがあるのだろうか?

「手間の部分は分かるが、趣味に合わないのか? 何が気に入らないんだ?」

 気になったので無思慮に聞いてみた。

 余計な事を聞いて後悔するよりも、大事な事を聞かずに後悔する方が嫌いなのだ。

「代価を以て、納得の上で契約する形もあります。ですが、召喚魔法とは基本的に異世界の存在を誘拐し、逆らえないように縛って、言いなりにさせる魔法なのですよ」

「言われてみたら酷い魔法ではあるな。けど、代価だかなんだかを払って、穏便に済ます方法もあるんだろ? 話を聞いている感じでは」

 若い乙女の生贄とか求められない限りは、それを選択すれば良いのでは?

「穏便にというか、誠実な方法と言った方が正しいかもしれませんね。但し、その場合は手間が掛かる上に、力の強い存在になるほど力を借りるのは困難になります。そして契約が上手くいかなかった場合は、召喚主に襲い掛かってくる事も珍しくありません」

 交渉失敗が死に繋がるのか。

「でも、当たり前ではあるのか。無断で勝手に引っ張って来て、我に力を貸せとか寝ぼけた事ぬかされたら、誰でも怒る」

 交渉へと入る前に、既に礼を失しているのだ。

「意志のある存在ならば当然ですね。で、それが主流にならない理由です」

 これじゃあ怖くて誠実な方法は選べないよな。心証マイナスから始める交渉なんて。

「逆に主流は……襲われないよう身体を縛り、確実に働かせる為に心を縛る、か?」

「はい、相手側の全ての自由を奪う形になるわけですね。といった理由で、召喚魔法はあまり好きになれないのです」

 確かにそう考えると、あまり気持ちの良い魔法ではないな。

 俺の場合はどうなんだろうな。特に何か縛られている訳でもないし自由だからなぁ。

 もし、仮にだが、何者かに召喚されたのだとして。うん、恨みは無いかな。

 それどころか都合良く助かった部分の方が多い。だから感謝しても良い。

 本当に、そんな存在がいればだけどね。

「にしても、五つの行程ね。それは全て遵守しないと召喚が発動しないとかあるのか?」

「いいえ。求める術式の精度次第では、行程を省いたり、付け足したりしますね」

「出来るんだ?」

「相手のことを考えない方法ですけどね。行程を少なくしようと思えば、穴を開ける、招く、閉じるの三行程だけで済みます」

 それ以外が、無事に済まなそうだが。

「手順を四割も削るとか怖すぎる。大丈夫なのかそれ?」

「召喚される側は大丈夫ではありませんね。相手に負担を強いる事になるので。でも主流派の方々は支配下に置いた存在を、そうやって手軽に呼び出しているようですね」

 うん、奴隷だな。これ。

 召喚における五つの行程は、あくまでも基本であって、絶対的な形式ではないようだ。

 行程という名の、安全性の足し算と引き算か。

「将来、俺が召喚装置を使う場合は、行程増し増し安全第一で行くよ」

「当然です」


 命大事には当然だよね。

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