第十四話 村の空気
俺は村人との対話を増やしていた。
それなりの生きていく力もつけて、生活も落ち着いてきたからである。
今の俺なら、ある程度のトラブルにも対処出来る筈。
そろそろ、関わりを増やしても大丈夫だろうという判断だ。
まずは森に籠もりっぱなしの俺の事を、どう思っていたのか探ってみた。
すると、村の人達は殆ど気にしていなかった。
興味が無いとか、無視しているとかではない。大らかという理由でだ。
悪い人には見えない。だったら問題ない。
ゆっくりとお互いを理解していこう、というスタンスであった。
村長である、ミゲルさんの力も大きいのだろうが、思っていたよりも、すんなり受け入れられていたようである。
力の獲得を優先させ、信頼関係の構築に不安があった俺にとっては、嬉しい誤算だった。
以前に、閉鎖的で排他的な村かもとか思ってしまって、ごめんなさい。である。
ここいらのゴブリンを殲滅したのも、信用に大きく貢献したらしい。
家畜や畑などの被害が、目に見えて減ったとのことだ。
森が近いから当然なのだが、前までは結構頻繁に荒らされていたそうである。
俺は毎日ゴブリンを何十匹も狩っていた。
つまり、ここ数ヶ月で数千匹も数を減らしたということである。
これだけ狩られ続けたら、頭の悪いゴブリンも学習する。
数が元に戻っても、暫くは人間の領域に近寄らない。
安価で創力を提供してくれる、お友達との再会は叶わぬようだ。
個人的には残念だが、村にとっては良い事である。
そのような事を、ミゲルさんが、村人にそれとなく伝えてくれていたようなのだ。
どんな世界でも、仕事してるアピールは、大事という事か。
「というか、数の激減が俺の仕業だと知っているってことは、色々と気付いているよな。恐らくはラセリアも」
離れているとはいえ、同じ森の中にいるんだ。気付かない方がおかしいか。
何も言ってこないのは、能力を隠すのは当然の事だと思っているから?
いや、よくよく考えてみれば、それが普通か。
他人に自分の能力を、全てさらけ出す必要なんてないのだ。
女性がスリーサイズや体重を隠すようなものである。
創力や固有技能について隠しているのも、なんら悪い事ではないのだ。
黙っているのを、こちらが勝手に、気にしすぎていただけである。
俺だって、ミゲルさんやラセリアの持つ能力を知らない。
全部教えてくれないのかと怒ったりもしない。何様だという話だ。
もしも向こうが何か聞いてきたとしても、答えられる事だったら答えて、そうでなかったら堂々と断る。それで問題ないのである。
それが分かって気が楽になった。
気分がさっぱりしたところで、村の様子を見て回る。
何か月も関わりを避けていたこの村が、どのようなところなのかを把握していく。
結果分かった事、それは――。
「なんもないな……」
田畑と民家。あとは雑貨屋が一軒ある以外は、何もない村だということだった。
その雑貨屋も、老夫婦が開いている小さな店で、変った商品を置いているわけでもない。
「若い奴が出ていくわけだ」
刺激のない村。それが、この村を回って見て、出た感想だった。
悪い所ではないのだが、それを理解するには時がいる。
まさに、最後に帰ってくる故郷。
村人が高齢者ばかりになる筈である。
そういう老成した人達ばかりだから、俺みたいなのが、いられるわけだが。
「引っ張った割に、村デビューは直ぐ片づいちゃったし、刺激のあるところにへと出掛けるとしますかね」
今日も若者である俺は、森へと出掛けるのであった。
うん。やる事は変わらん。
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