第十三話 新作魔法

 初心帰る。

 というわけで、一番弱い奴を徹底的に狙います。


「んじゃ、豚さんの強さを確かめてみるか」

 標的はオーク。

 数が一番多いので、ここらでは最も戦う事になるだろう相手だ。

 雑食で生活形態は多種多様。様々な上位種や亜種も存在するそうだ。

 そしてゴブリンに匹敵する繁殖能力を持っている。

 でもって異種間交配も可能な困ったちゃんである。

 人間や、他の種族の雌も攫って、苗床にするそうだ。

 様々な種類のオークがいるのも、これが理由だね。

「うん。個人的に、滅ぼしても良い種族に認定した」

 種を残すため? 自然の摂理? 知るかボケ。だったら同族内で乳繰り合ってろ。

 容赦なく、新魔法の実験台にしてやる。

 一匹でうろついている奴を探すと、気付かれないように接近。

 念のために距離は百メートルくらい空ける。

「バースト・ランス」

 俺の声と共に黒曜石の長い槍が出現する。

 格好を付けて技名を口にしたわけではない。

 こうした方が、素早く魔法を構成出来るのである。

 以前、勉強会の時にラセリアから聞いたのだが。

 魔法に名を与えるというのは、重要な意味を持つのだそうだ。

 形を縛ると同時に、力を与える事になるのだと。

 それを思い出して、試しに編み出した魔法に名前を付けてみた。

「正直、攻撃の情報を与えかねない技名を口にするのは、どうかとも思ってたけど……」

 効果は絶大だった。それまで使用する際には、その都度、細かにイメージしないと形にならなかった魔法が、名前を口にするだけで発動するようになったのである。

 魂に刻まれる形なのか、付けた名前を忘れることもない。

 気を付けないといけないのは、名前の変更は出来ないということくらいか。

 一応、名前を思い浮かべるだけでも魔法は発動はする。

 だが、その場合は若干、魔法の性能が落ちてしまうのが分かった。

 だから余裕がある時は、魔法の名前を口に出すようにした。

 あと何だかんだで、名前を付けておくと魔法の管理がしやすい。

「肩の辺りを狙って、発射」

 敢えて急所を外すようにして放つ。

 石槍は熱噴射を推進力に、もの凄い速度で飛んでいく。

 空気抵抗を緩和する風を纏っているので、狙いがぶれる事もない。

 石槍はオークの左肩に命中して、そして破裂。

 爆焔と共に飛び散る黒い破片が、オークの左半身をずたぼろに破壊した。

 即死である。創力が一万近く入ってきた。

「期待通りの効果がでたな。後は、同時発動出来る数を増やしていけるように特訓だ」

 急所を外しても、身体に刺されば大ダメージを与えられる。バースト・ランスは、そんな効果を目指して作られた複合魔法だ。

 地、火、風の三属性を組み合わせた、現時点で最も複雑な魔法。必要創力は二十三。

 これ一発でオークから一万の創力を回収できる。だから迷わず使っていく。

「バースト・ランス連続発動」

 待機状態も可能。

 周りに三本の石槍を浮かべたまま、新たな獲物を目指して森の奥へと進む。

 次は複数同時に相手する。

 マップ検索で五匹の集団を発見。


 オーク:個体名無し(レベル15)

 オーク:個体名無し(レベル15)

 オーク:個体名無し(レベル17)

 オーク:個体名無し(レベル15)

 オーク:個体名無し(レベル20)


 レベル以外に変化がないと目が滑るわ。

 ステータス表示は便利なんだけどね。

 アルファベットか数字を付けて、個体別に見分けが付くようにならないものか。

 同種族で同レベルの奴が出ると、どれが、どいつのデータなのか分からなくて困る。

 俺に豚の顔の見分けはつかないのだ。

「いや、困らないか。まとめて全員殺すだけだし」

 わざと大きな音を立てながら近づき、俺の存在を気付かせる。

「ぴぎぃぴぎぃ! ぴぎぃぴぎぃ! ぴぎぃぴぎぃ!」

 オーク共は喚きながら、全員がこちらに向かってきた。

 約十五メートルの距離まで接近するのを待つ。

 少々危険だが、ここらで多対一を経験しておくためである。

「ま、近付かせるだけで、攻撃はさせんがな」

 あくまでも、近い距離で多数に囲まれた時に、慌てないようにするための訓練だ。

 俺の目指す戦闘スタイルは、相手に何もさせない、である。

 殺し合いというものは、たった一回の攻撃で死ぬか、一生の影響を与えるような傷を負ってしまう事があるのだ。

 バトル漫画よろしく、敵と互角の死闘を演じる、だなんてのは論外である。

 一度の勝利を得るために手足を失うとか割に合わない。

 回復魔法が存在する世界だが、どのような傷でも気軽に治す万能さはない。

 特に四肢の欠損などを治せるような術師は希だ。この辺の村にはいない。

 例え、いたとしても高額な治療費を支払わないと、治療は受けられないそうである。

 俺には、そんな伝手も金もない。

 仮にあっても、常に無用なリスクを抱えるとか、意味の分からない真似はしない。

 なので相手が実力を発揮する前に潰す。これは基本である。

 まずは正面の一匹に向かって、バースト・ランスを三本全部発射。

 オークは槍と盾を装備していたが、それを使う間もなくその一匹は挽肉と化した。

「ほう、止まらないか」

 しかし残りの二匹は、仲間の惨状を気にすることなく、こっちに向かってくる。

 連携を考えるような知性がない代わりに、躊躇するという思考もないのかもしれない。

 ただ、そのオーク二匹の行動は正解であった。

 距離が近すぎると自分にも破片が当るので、バースト・ランスは使えないからだ。

 そして五メートルの距離まで接近される。

 想定内だ。既に次の準備は整っているので構わない。

 焦らずに、それを発動。

「エア・ブレード」

「「ぷぎぃ!?」」

 必要創力五。横に広がる風の刃をぶつけて、二匹の足を止めた。

 俺はその間に、後ろに飛んで距離を取る。

 同時に次弾を発射。

「これでしまいだ。チェイン・ボム連続発動」

 でっぷり突き出た腹を風の刃で切り裂かれて悲鳴を上げる二匹に、火属性の魔法を放つ。

 必要創力三十五。無数の煌めきが周囲を漂う深紅の火球。

 それが二つ、オークに向かって飛んでいく。

 二匹は避けられない。直撃する。

 深紅の火球は、巨大な爆竹を鳴らすかの如く、計十回の爆発を起こした。

 これは見たまま、爆破の火種を十個内包した火球である。

 一度にではなく、連鎖爆発で相手を包み込む魔法だ。

 ドココココーンと爆発に嬲られ、二匹のオークは肉片をまき散らしていく。

 無駄なく爆破のエネルギーが対象に纏わり付く。そんな魔法である。

 爆発が止むと、そこには黒く焦げた、何かの残骸だけが残っていた。

「魔法の連続使用も問題なし。この距離での戦闘なら、あと二、三匹増えても大丈夫そうだな。まあ、試さんけど」

 安全マージンは取っておくものである。

 何はともあれ確かな感触。ここでやっていけるという自信も付いた。

 レベルも今は50で十分いける。

 急激に能力値を上げても、身体が付いていかないからだ。

 確りと身体を慣らしていきながら、必要に応じてレベルは上げていこうと思う。

 技能レベルをアップさせるために、創力を確保しておきたいというのもある。

「もうちょっとで新スキルも獲得できそうな予感がするしな。よし、頑張っていこう」


 俺はこの日からオーク狩りに勤しむのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る