第十二話 新たなステージへ

 この世界で生活して約四か月。


 いや、そろそろ五か月か?

 同じ作業の繰り返しで、日々の経過を感じる部分が、おかしくなってるな。


「まあいい。大きな怪我も無く、やってこれたしな。さて……」

 今日まで、あえて目を逸らしていたが【創力進化】のクールタイムが勿体無くなった。

 レベル上げの権利を使い切らずに月のリセット。

 周囲の目があるから仕方が無いとはいえ、毎月精神的に、けっこう堪えた。

 時期的にもそろそろ良いかな? ということで、切が良いところまでレベルを上げた。

 次の月は、リミット限界100を、使い切りたいものである。

 無理か。ミゲルさんのを余裕で越えてしまうわ。もしもの時、言い訳がきかん。

 ソートラン家は見逃してくれても、他がそうとは限らん。

 ポンポン無限にレベルアップする、見知らぬ異国の隣人を如何思うかなんてな。

「慎重さは忘れずに強化しないと。俺は、この世界の異物であることを忘れるな」

 強化といえば、その際に気付いた事がある。

 身体能力を表す数値についてだ。

 この数値は、人間の能力を表しているのではなく、補正を表す数値ではないだろうか?

 そう思ったのである。

 例えば筋力の値が10の者と、20の者を比べてみると、その差は二倍である。

 しかし実際には、二倍の筋力差があるわけではない。

 倍の重さの物を持てるわけでもない。

 精々が一割程度、力が上というだけである。

 レベルを上げる際に、ステータスをチェックしながら、自分でどれだけ荷物を持てるか試したので、それは確かだ。

 現在、俺の能力値はこうなっているのだが。


[レベル]50

[名前] 久世覚(サトル=クゼ)

[種族] 人間

[性別] 男

[年齢] 20

[職業] 狩人


[生命力]597/610

[魔力] 5/5

[創力] 1799231


[筋力] 65

[耐久力]60

[精神力]64

[抵抗力]56

[俊敏] 62

[器用度]59


[技能] 【共通語】【可視化】

[固有技能]【豊穣の理】【生贄選定】【創力進化】【開拓の標:L4】【創力変換】


 数値だけ見れば、最初の頃の三、四倍になっている。

 勿論、身体の動きは格段に良くなった。

 だが、三倍の力にはなっていないし、四倍の速さで動ける訳でもない。

 生命力と魔力の部分は抜きにして、体感的にはレベル1の時より、約五割増しといったくらいである。

 このことから、身体の能力値は一につき、元となる能力を約一パーセント上昇させる、という意味で捉えるのが正解ではないだろうか?

 だから筋力値65の俺の場合は、筋力が約六十五パーセント増加となるわけだ。

 体調次第でも数値に変化が現れるらしいので、もっと細かい計算が成されていると思われるが、考え方は間違っていないはずである。

 帰ったらラセリアに聞いてみるか。それが一番速い。

 それに、数パーセントの能力差で、動きに圧倒的な違いが出るのが生物の身体である。

 五割増しでも凄まじい効果だと思うので、特にガッカリはしていない。

 さて、考察はここまでにしておく。危ないので周りに意識を集中しよう。

 俺は相変わらず森の中を活動の拠点としている。

 ただし、今日はいつもと少し違う。森の奥の方まで行ってみるつもりだった。

 実力を付けたからというのもある。

 同じ獲物を相手ばかりして飽きてきたというのもある。

 しかし、最大の理由は別のところにあった。

「ゴブリンがいねぇ……」

 殺しすぎたのである。

 最近、この辺りでゴブリンを見掛けることが殆ど無い。

 ゲームではないのだから無限湧きはしない。

 たくさん殺せば、いなくなるのも当然だった。

 全部【開拓の標】が悪いのである。効率的に見敵必殺してしまうのだから。

 こうして俺は大事な友を失ったのである。

 ここ最近の、稼ぎの効率もガクンと落ちていた。

「増えるまで待つわけにもいかんしな。仕方無い。もう一段先へ進むか」

 以上の理由から、創力を得るためには森の奥へと、向かわざるを得なくなったのである。

 森の奥にはゴブリンの上異種の他に、オークやトロールといった魔物が、それぞれのテリトリーを築いて生活しているそうだ。

 そんな領域へと歩を進めていく。

「地形も生態系の事前知識も十分の筈。いける……」

 何もしていない内から、額から汗が流れる。

 ゴブリンとは比べものにならない強さの魔物。それを相手にしようというのである。

 緊張するなと言う方が無理だ。

 そして遂に遭遇。


 オーク:個体名無し(レベル18)


 二メートルを超える長身に太い身体をした、豚の頭の化物だった。

 太いと言ってもだらしない身体な訳でもなく、人間など簡単に殴り殺せる強靱な肉体の持ち主である。ゴブリンなどとは比べものにならない強さの魔物だ。

 そのオークはこちらには気付いていない。

「よし、先に見付けた。【開拓の標】の検索欄に登録っと」

 マップでオークの数を確認。光点は満遍なくマップを照らしていた。それなりに多い。

 これでオークに関しては、不意を打たれる心配がなくなった。【開拓の標】技能レベル4の力である。直接見た事のある生物を、検索欄に登録できるようになったのだ。

「こいつは見逃そう。他の魔物を登録するのが先だ。それまでは出来るだけ戦闘は避ける」

 オークが遠くに行くまで身を潜める。

 レーダーに敵が写るようにする作業が先だからだ。

 どちらかというと、今日はそれが目的である。

 ミゲルさんから聞いた特徴を思い出しながら、慎重に魔物の姿を探すのであった。

 進みながら次々と、初見の魔物を登録していく。

 初めて立ち入る場所なので、マップの未探索エリア部分も埋めていく。

 そうやって敵を避けつつ数時間。

 森の中を探索して辿り着いた崖の上。

 下を覗き込むと、一番登録したかった相手を見付けた。


 トロール:個体名無し(レベル35)


 でかい。三メートル、いや四メートル以上はあるか。

 ゴブリンに筋肉を付けて巨大化させたような姿だった。

 武器は巨大な木の棒が主。というか巨体に合う武器が調達出来ないのだと思われる。

 素手に木の皮を巻いた奴もいる。それでも人間を遥かに超える巨体。体一つで十分脅威だ。

 この辺りでの最強種である。

 即マップに登録して、位置と数を調べる。

「数はそんなに多くないか。光点が固まってるところは……巣でもあるのかな?」

 ゲームの敵キャラではない。知性を持って森に生きる存在だ。集団で協力し合う生活の場が沢山あるだろう。

 そのような場所にノコノコ近づいたら、後は想像するまでもない。

「巨人の集団に囲まれて面接。こん棒で来世での活躍をお祈りされるな」

 広域殲滅型の攻撃手段を編み出すまでは、近付かないようにしよう。

 創力を適当に一万くらい突っ込んだ火球を、ぶっ放す。という方法もあるが、周囲への被害を考えると使えない。

 俺の目指す広域殲滅型の魔法とは、影響範囲を制御出来て初めて完成である。

 それまではトロールを避けて、他の魔物を相手にするつもりだ。

 この世界に来たばかりの時とは比べ物にならない強さを手に入れた。

 更なる強さを得る道筋も出来ている。

 だから、ここでも戦える自信はある。


 だからこそ慢心はしない。初心に帰ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る