第十話 念願の力

 地図スキルという当たりを引いて嬉しい一日。


 喜びの再来なるか、あと一つの新スキルが保留になっている。

 こちらの確認をしなければならない。

 サクッと取得する。

「んん?」


【創力変換】――創力を魔力に変換し放出する。変換効率は創力1に対して魔力10。


 説明を見て眉をひそめる。

 創力を使って魔力を補充出来るスキルなのか?

 いや、魔法習得のために、少ない魔力をどうにかしたいと思ったことはあるが、これはどうなんだろうか?

「俺の魔力限界値は5だぞ」

 小さな器に大量の水を注いでも外に溢れるだけだ。

 だとしたら完全に死にスキルである。

 まさかスキル創造に失敗したか?

「過回復で体に悪影響が出そうで怖い。変換効率は魅力的なんだが。所持魔力5の人間が使えるのは、小さな火を起こす術くらいしかないって、ラセリアも言っていたしなぁ……」

 先の【開拓の標】が使えるスキルであった分、この【創力変換】にガッカリする俺。

 魔術師にとっては垂涎のスキルだとは思うが、残念ながら俺に魔術の才能はない。

「ああ、そうか。他人に施せたりするのなら、使い道があるか。そこのところは、どうなっているんだ?」

 安易に答えを出さずに、もっと丁寧に深くまで調べてみよう。損にはならない筈だ。

 結果が良かろうが悪かろうが、自分の持つ能力は十全に把握しておくに限る。

 持っている力を活かせないなんて事態は避けたい。

 意識を集中して【創力変換】の理解に努める。

 そして、それは正解だった。

「危ねぇ、勘違いしてた。放出って説明が重要だったのか。直接、好きな量の魔力を撃ち出せるってことね」

 俺の所持魔力は全く関係無かった。最大出力が5というわけではないのだ。

 言わば直通。

 使うのは、あくまでも創力。

 難しく考えない。創力を一使って、魔力量十の魔法を放出するのである。

「死にスキルなんてとんでもない。課題だった魔法関係の突破口になる優良スキルだった。これは夢が広がるな」

 しかも魔法の理を習わなくても、イメージ次第で様々な現象を生み出せるみたいだ。

 大助かりの仕様である。

 正直な話、俺の魔力以前の問題があった。どれだけ勉強しても、この世界で使われている魔法の術式とか、全く理解できる気がしなかったのだ。

 魔術は、この世界でも歴史のある高度な学問の一つ。そう簡単に、ぽっと出の異世界人ごときに理解出来る訳がなかった。

 その悩みにスキルが応えてくれた形なのだろう。

 試しに創力を一使って、指先に火の玉をイメージする。

 するとピンポン球ほどの大きさをした、青い火球が生まれた。

「おおーっ!! 祝、初魔法っ!」

 唯々、感動である。

 じっと炎を眺める。

「おー」

 揺らめく美しい青に暫し見入る。

 青い炎ということは相当な熱量の筈。

 なのに、指先に熱は一切伝わってこない。

 完全に力の制御がなされているということか。

 消えろと念じたら、火球は一瞬で跡形もなく消えた。

「えっらい簡単に魔力を扱えたな……ここまでくると、恐ろしいな【創力変換】」

 だが、これだけ扱いやすいのなら、直ぐにでも実戦で使えそうである。

 問題は、無駄遣いに気を付けないといけない、ということだ。

 創力は魔力のように、休めば回復する類のものではない。

 随時補充しないと枯渇するという欠点がある。

 魔力変換で強い敵を倒しても、使用した創力より得られる創力が少なかったら、創力で全てを賄う俺にとって、収支はマイナスなのである。

 適切な変換量を見極めないといけない。

「こんな時こそ、ゴブリン先生に、ご協力をお願いしよう」

 その身をもってな。

 友達からの格上げに、彼らも声を上げて喜んでくれるに違いない。

 早速活用する地図検索。

 検索対象は勿論、ゴブリン。

 一匹で行動している奴を発見。距離五十メートルまで近付く。

 そこから【創力変換】で魔法攻撃。

「小手調べに創力一で、さっきの火球をぶつけてみようか」

 こちらには全く気付いていないゴブリンに向かって、指先から青い火球を発射する。

 結構な速度で、火の粉を残しながら直進する火球は、しかし外れる。

 ゴブリンがいる横の木にぶつかって爆発するのであった。

 当った部分は黒く焦げ、大きく削れているが、木をへし折る程の威力はないようだ。

 驚いたゴブリンはきょろきょろと辺りを見回しているが、こちらに気付くことは出来ない。

「流石にこの距離を簡単には当てられないか。けど、割と思ったところに飛んだし、練習すればいけるな。それに創力一にしては威力がある」

 頭に当てれば、ゴブリンなら一発で殺せそうだ。

 これが魔力量にして十相当、火属性魔法の威力なのか。

「お次は水属性を試そう。うーん、圧縮してぶつけるってイメージでいくか。ウォーターカッターや氷の矢も考えたけど、研磨剤とか熱操作の要素が必要な気もするし、複合系ぽいのは後にしよう」

 最初は全てシンプルにいく。ということで水の球を生み出した。

 手のひらの上に浮かぶスイカ大の水球。

 それを放つ。速度は火球よりも遅い。

「……届かないか」

 しかも水球は、三十メートルくらい進んだところで、水飛沫となって消えてしまった。

 仮に届かせて当てたとしても、痛くなさそうである。

 無理に攻撃へと転化させずに、飲み水とか、そういう使い方を考えた方が良いかもしれない。

「まあいいや、次にいこう。風属性。奇は衒わない。ゲームでもよくある、風の刃を飛ばすイメージで、いけっ!」

 半月形の風の刃が飛んでいく。

 空気の刃は本来不可視の筈だが、うっすらと緑色の形で見える。

 魔力の影響だろうか? それとも不意に浮かべた、ゲーム的なイメージのせいかな?

 見栄えは良いかもしれないが、色が着いて相手も視認出来るのは欠点でしかない。

 後で修正出来るかな?

 攻撃が撃ち出される速度は、これまでのもので最速。狙いも悪くない。

 そして風の刃はゴブリンに命中した。

「速いが軽い。威力が弱い。ま、だろうとは思ってたよ」

 風の刃を受けて悶えるゴブリンの身体には、深い切り傷が刻まれている。

 だが致命傷にはなってはいない。一撃で殺すには明らかに威力が足りなかった。

 首筋とかに当れば、また話も違ってくるのだろうが。

「地属性。これは土を固めた槍をイメージ」

 目の前に長さ一メートくらいの、黒曜石で作られたような石の槍が現れる。

 材料はどこから持ってきたのだろうか? 地面からでないのは確かだ。

「水もそうだが、魔力による物質化と解釈すればいいのかね? まあいいや。発射!」

 槍の速さは火球と水球の中間くらい。

 それなりの重さがあるのか、ほんの少しだけ弧を描いて飛んでいき、ゴブリンの胴体に突き刺さった。ゴブリンはそれで息絶える。

「攻撃の質でいえば一番だな。質量があるから防御が難しそうだ」

 威力は火球が最も高いが、純エネルギー系の攻撃は、無効化される可能性が高い気がする。

 魔力での攻撃手段があるのなら、当然魔力での防御手段もあると考えるべき。

 特に攻撃に適した火属性への対抗手段など、最も多く考えられていてもおかしくはない。

「残るは、光と闇の属性か。うーむ。いざ形にしろと言われても困るなこれは。取り敢えず球体をイメージして試すか。出来るのかこれで?」

 出来た。が、微妙な結果。

 光属性は一瞬だけ小さな光が出て終わった。闇も同じである。

 それを木に当ててもみたが、木には何の影響も与えてはいなかった。

「創力を増やしていってみるか。ある程度試して効果がなかったら、帰ってから考えよう」

 まずは光属性を試す。一回一回よく見ながら木に当てていく。

 最初の内は何の変化も無かったが、創力十で生み出した光球で変化が現れた。

 木の表皮を弾き飛ばしたのだ。皮の捲れた部分を触ってみるが熱くはない。

「光を凝縮させたら熱になりそうなもんだけど……それだと火属性と一緒か。完全に別物と考えておくべきだな。これこそが純エネルギーなのかもしれないな」

 今度は木に当てずに、浮かべたままにしてみる。

「自然消滅するまでの時間を計ってみよう」

 二十分程様子を見ていたが、創力十で生み出した光球は消えなかった。

 一向に消える気配が無かったので、光球は放置して闇属性を試すことにする。

 同じように木にぶつけていく。

 これも創力十で効果が現れた。木が枯れ出したのである。

「闇属性は生命力を奪うって性質なのか。防御力が高い奴とかに有効なんだろうけど、大ダメージ出そうと思ったら、創力をかなり使うだろうな、これ」

 光球の時と同じく、闇の黒球を浮かべて持続時間を調べる。

 黒球は丁度、一分で消えた。設置罠にも使えそうにないし、使いどころを選びそうである。

「光球の方は、まだまだ持ちそうな感じだな。暗いところでは光源として利用できそうだ」

 持続時間を計り終えてないが、何時までも、そうしてるわけにもいかない。光球を消す。

「大体、各属性の性質は分かったな。後は数をこなして馴れるのみ」

 俺は浮かれた気分で森の中を進む。

 費用対効果が悪くないのも分かった。

 これから遠距離攻撃をメインに出来るのが嬉しい。

「延焼が怖いから火属性は控え目、地属性と風属性を多めに使っていこう」

 そして俺は今日も、ゴブリンを大量に狩るのであった。


 ゴブリンさん、これからもよろしくね。

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