第九話 お友達代の徴収
早いもので、この世界に来てから半月が経った。
因みにこの世界でも、半月は二週間である。つまり十四日間。
一週間は七日。四週で一ヶ月。一年は一三ヶ月で三六四日。
そこへ年の終わりの一日が加わる。計三六五日である。
これは覚えやすくて助かった。
曜日に相当するのはこれ。円、白、赤、青、緑、黄、黒である。
勿論、漢字ではなく、それを意味するこの世界の文字でだ。
世界の動きを色で表したものだそうだ。円は再生を意味するらしい。
上から順に、日、月、火、水、木、金、土だな。
俺のいた世界との共通項は多い。
偶然とは思えない。いや、そんな世界だからこそ、俺のいた世界と繋がったとも考えられるのか。
俺は相変わらずソートラン家の世話になっている。
こちらでの生活にも大分慣れてきた。
朝はミゲルさんと一緒に森へ入って狩り。夜はラセリアとお勉強。
それを、ひたすら繰り返す毎日である。
他の事は一切していない。
村人との交流もである。
挨拶ぐらいはするが、長々と会話をすることは無かった。
大きな人間関係というのは、自分の生活に大きな変化を与えるものだ。なので、修練の時間を乱されたくはない俺は、あえて交流を絶っているのである。
親しくしているのは、ミゲルさんとラセリア、そして森の生き物達だけだ。
特にゴブリンとは仲が良い。親友といえるかも知れない。
彼らは、たくさんの創力を俺に届けてくれるのだ。
彼らと俺の間で遠慮は失礼というもの。毎日欠かさず、お友達代を頂戴している。
一方的な搾取関係に見える? いやいや、世の中、親友だよねとか口にする奴らの半分くらいはそんなものである。
だから彼らとはこれからも、この関係を続けていこうと思う今日この頃だ。
このように家と森での人間関係のみで、俺の行動範囲も限られている。
なので、半月の間で目新しい出来事はなかった。
平和である分には、それが一番である。
お陰で、順調に力と知識を蓄えることが出来た。
現在の俺のレベルは32である。
というか、そこで止めていた。
レベル上げに消費した創力は二十八万。四十万程度を残すようにした。
まだまだレベルを上げようと思えば上げられるのだが、周囲の目を気にした。
この短い期間でレベルを30まで上げておいてなんだが、これは仕方がないと割り切る。
安全とのトレードである。
生存競争に打ち勝つため、早急に一般人並の力を得なければならなかったのだ。
これで、やっと能力値が、この世界の平均レベルに近づいた。
近づいただけで届いてはいないが……。
俺のレベルは三つか五つ上げて、やっと他人のレベル一つ分に相当する。
相変わらず能力値の上昇は低い。
本当はレベルを50くらいまで上げたかったが、そこは自重した。
それでも急激なレベルの上昇には違いない。
ミゲルさんには『能力値の上昇が少ない代わりに、レベルが上がりやすいのかも?』などと言って誤魔化しておいた。それで大丈夫だった。
これまでの遣り取りで、彼が細かい事は気にしない質なのは分かっている。
ラセリアも、その説明で納得してくれた。
まあ、見逃してくれている可能性が大だが。
兎に角、俺はまだ固有スキルの事を黙っていた。
その固有スキルだが、あれから新しいスキルは獲得していない。
幾つか脳内への、お知らせはあったのだが、念のために保留にしておいた。
獲得したスキル全てが、隠れるとは限らないからである。
危険な常時発動タイプで周囲に迷惑をかける可能性もある。
そして俺は今日、一人で森に入っていた。
ミゲルさんから、もう一人でも大丈夫だと言われたからだ。
これでミゲルさんを安心させるために、能力値を見せたりする必要もなくなった。
周りの目は気にせず、色々と試す事が出来る。
「ということで、保留にしていた新スキルを獲得っと」
さて、どんなものが出てくるか。
【開拓の標:L1】――周辺の地理情報を把握できる。
得た情報は地図として記録できる。
範囲は術者を中心に半径百メートル。視認の必要は無し。
正方形のウインドウが出現して、そこにシンプルな平面地図が表示される。
「おお、マップ機能か! 拡大縮小も自由で、うん便利だな。これはいい!」
確かに、ずいぶんと前だが、森の中で迷わないスキルが欲しいと望んだことがある。それが形になったのだろう。しかもオートマッピング機能付き。これは喜ばずにはいられない。
過酷な世界を生き抜くのに絶大な手助けとなる、絶対に無駄にならないスキルだ。
「ん? L1って何を表しているんだ?」
調べてみたら、技能レベルを表しているのが分かった。創力を注ぎ込むことで上がるらしい。
当然、これが上がればスキルの性能もアップする。
頭に浮かぶ、次のレベルに必要な創力値。
「……二万か。試しに上げてみるか」
創力には余裕があるし、このスキルは強化し過ぎて困るということはない。
迷わず創力二万を注ぎ込む。表示もL2となる。
「マップの解像度が上がった? 見やすくはなったが微妙なバージョンアップだな。うーん、次に必要な創力は……八万か」
スキルの取得に五千。レベル2にするのに二万。その次が八万。おそらく四倍ずつ増えていくのではないだろうか?
検証の意味も含めて、もう一つ技能レベルを上げてみる。
創力八万を消費してL3に。これで残りの創力は三十万程度。
[レベル]三十二
[名前] 久世覚(サトル=クゼ)
[種族] 人間
[性別] 男
[年齢] 20
[職業] 無
[生命力]419/430
[魔力] 5/5
[創力] 302517
[筋力] 47
[耐久力]42
[精神力]46
[抵抗力]38
[俊敏] 44
[器用度]41
[技能] 【共通語】【可視化】
[固有技能]【豊穣の理】【生贄選定】【創力進化】【開拓の標:L3】
「ほう、かなり詳細になったな。種族検索? 検索対象は二種類……人間とゴブリンのみか。登録すれば種類は増えるのかね? で、それは色分けされた光点で表示。距離と座標も調べられると」
次に必要な創力は更に四倍の三十二万。予想通り。
大体理解したので、地図スキルの検証はこの辺にしておく。
これでまた、ゴブリン狩りが捗るな。
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