第七話 上がったよレベル

 ゴブリンを殺す度に、ちょくちょくステータスの確認はしていたので、分かってはいたのだが、全くレベルが上がっていなかった。


 生命力の低下以外に能力値も変動は無し。スキルも増えてはいない。

 これはレベルアップというシステムが、俺には適用されないと見るべきなのだろうか?

 十分に有り得る話である。異世界の人間に、この世界からの恩恵があるとは限らない。

 だとしたら、これからの人生はハードモードなんて生易しいものではない。

 絶望感が押し寄せてくる。

 けれども希望は捨てるにはまだ早い。解明されていない、あの力があるからだ。


 創力である。この値だけは随分と上がっていた。

 ゴブリンを一匹仕留める度に、二、三千の創力を得る事が出来た。兎や鳥などの小動物は百前後。同じ種でも得られる値は、大きさやレベルによって違った。

 草木や虫が対象でも創力を得られるのか実験もしてみた。

 選定で生贄に指定は出来ず、簡易ステータスも表示されないので、期待はしていなかったのたが、僅かに創力を得ている感触があった。

 数値は一も増えなかったが、小数点レベルで増加していると思われる。

 考えるに、あらゆる存在から創力は収穫出来るのではないだろうか?

 今や創力は八万以上。しかし、使い方が分からない。

 レベルを上げるイメージをしても無駄だった。しっくり来ない。

 やっぱりスキルに注ぎ込むイメージが正解のようだ。

 でも、相変わらず創力の値も、スキルの欄も変化はしない。

 何が足りない? もっと創力が必要なのか? スキルに注ぎ込むイメージをし続けながら、新たなスキルが欲しいと念じる。

 が、駄目。どうしろと?

 ああ、もう……一つでもいいからレベルを上げるスキルとかくれよ。

 スキル【豊穣の理】に創力を注ぎ込むイメージをしながら、そんな事を思った瞬間だった。

 魂の奥底から膨大な力が湧き出すような感覚。

 次に頭の中に浮かぶそれ。


【創力進化】――創力を使ってレベルを上げる。

 レベルを一上昇させるのに必要な創力は一万。

 一ヶ月で上げられるレベルは百まで。

 成長限界を無視してレベルを上げる事が出来る。(0/100:リセットまで28日)


 ついに新たなスキルを獲得したのであった。

 分かってみれば獲得の方法は単純。

 どうやら創力を注ぎ込むだけではなく、その際に、明確なスキルの方向性をイメージしないといけなかったようである。

 これこれこういう性能のスキルが欲しい、といった感じにだ。

 確かに、これまでは漠然と、レベルよ上がれとか、何かスキル出てこいとしか念じていなかった。スキル創造に関して具体性に欠けていたのは間違いない。

 そして一度スキル創造を成功させたら、魂に何らかの回路が出来たのか? 俺の持つ固有技能に関する細かい情報が頭に入ってきた。

 それによると、必ず望みのスキルを獲得出来るわけではないらしい。

 俺の器と可能性に依存するらしく、ある程度自身を鍛えないと、新しいスキルは生まれないようだ。

 具体的には、レベルとスキルの熟練度を上げる必要がある。

 要は創力をたくさん使えということだ。

 今後は、新しいスキルが獲得出来るようになったら、事前に分かるようになった。

 深層心理で望み、俺にその力があったらお知らせする。そういう仕組みだ。便利だな。是非メーカーの連絡先まで教えて貰いたいものだ。

 現在、創力はスキル獲得に五千使われ、値は77575になっていた。

 まだ創力は十分に残っている。

 出来立てほやほやのスキル【創力進化】の説明通りなら、レベルは最大七つまで上げられるが、どうすべきだろうか?

「おい、サトル? ぼうっとして、どうしたんじゃ? レベルはどうなっておる?」

「あ、はい。そのですね――」

 この短い間に色々と分かって、ミゲルさんを放置してしまった。素早く考えを纏める。

 よし、三つ上げてレベルを4にしてみよう。ミゲルさんもそのくらいだと言っていたし。

 スキルに意識を集中して、創力を三万消費。

 結果、変動した俺の能力値はこれである。


[レベル]4

[名前] 久世覚(サトル=クゼ)

[種族] 人間

[性別] 男

[年齢] 20

[職業] 無


[生命力]119/150

[魔力] 5/5

[創力] 47575


[筋力] 19

[耐久力]14

[精神力]18

[抵抗力]10

[俊敏] 16

[器用度]13


[技能] 【共通語】【可視化】

[固有技能]【豊穣の理】【生贄選定】【創力進化】


 レベル一つにつき、生命力が10上昇で、全ての身体能力値は1ずつ上昇。

 伸び率が、もの凄く低い。が、上がらないよりマシと考える。

 何せ魔力の値は、ピクリとも変化しないのだから。

 これは……魔法関連は諦めろという世界の声か?

 取り敢えずミゲルさんに報告する。

「無事にレベルは上がってました」

「おお、そうか! それは良かったな!」

「ただ、能力値の上昇率がちょっと……何なら【看破】で見て下さい」

 ついでに新しく獲得したスキルが見えていないか、俺の能力値を見せて確かめてみる。

「これは、また残念な……」

 また残念と言われた。その通りなのだが。

 反応を見る限り、スキルと創力は見えていないと思われる。

「レベル50くらいまで上げれば、人並みになりますかね?」

「あー、その、頑張っていこうな。成長限界値が高いことを願って」

 気まずそうな表情で、頑張れと口にするミゲルさん。

 確かに、そんな事くらいしか言えないだろうけども。

 ところで、また気になるワードが。

「成長限界値とは、ひょっとしてレベルの上限ですか?」

 それくらいの意味しか思い付かない。

「そうじゃ。人間は無限に強くはなれぬ」

「あ~何か夢の無い話ですね。で、その限界値を知る事って出来ますか?」

「わしの知る限りでは限界値を知る術は無い。ただまあ一般的には、平均レベル25から30くらいが限界と言われておるの。限界値に達すれば、自然と分かるようになっておる」

 だとしたらやはり、レベル64は相当凄いのではないだろうか?

「へ~。因みにミゲルさんはレベル幾つなんですか?」

 知っているが、勝手に覗いたとも言えない。ぼろが出ない内に、ここで聞いておく。

「儂のレベルは64じゃ。そしてこれが限界値でもある」

 自慢するわけでもなく、淡々と正直に教えてくれた。

「おー高いですねぇ。この世界で、どのくらいの位置の強さになるんですか?」

「強さの位置じゃと? 国で何本の指に入るとか、そんなやつか?」

「はい。それとレベル幾つで天才と呼ばれるのかとか、どれだけのレベルがあれば世界有数と呼ばれるのかとか、そんな感じの基準も知りたいですね」

 少し考え込んだ後に、ミゲルさんは、適当じゃぞと前置きをして答える。

「儂は精々、村一番の、という強さじゃな。で、まあ、レベルは50の壁を超えたら秀才。80の壁を超えたら天才と呼んで差し支えない」

 ミゲルさんでも秀才レベルなのか。

「だがそれは、あくまでも一般の人間レベルの話じゃ」

「というと?」

「それ以上の領域が存在する。規格外の化け物。英雄クラスの領域じゃ」

 英雄は人間扱いされないのか……。

 本当に人間じゃないのが、いるのかもしれないけど。

「英雄はレベル100とかを超えちゃいますか? 軽く200とかあるんですかね?」

「そんなものではないの。個人差が激しいが、歴史に名を残す英雄は軒並みレベル500を超えておる」

 何それ怖い。想像を二つくらい飛び越えていた。

「なんと、まあ」

「伝説の英雄ロウ=ファストのレベルに至っては、4000以上あったそうじゃ」

 規格外過ぎるだろ。ちょっとでいいからレベルを分けて欲しい。

「……正に桁が違いますね。ええっと、実在した人物ですか?」

「うむ。多くの歴史書に確りと名が刻み込まれてておる人物じゃ。彼の名前を取って付けられた、ファストという名前の都市も存在するぞ」

 とんでもない奴がいたものである。限界値の高さもそうだが、そこまでレベルを上げた労力とは如何ほどだったのやら。

「どんだけ殺しまくれば、それだけレベルを上げられるんでしょうね?」

「数もそうじゃが、獲物の質も高かったのじゃろうよ。日課に竜狩りとか、していたそうじゃからな。その所為で滅んだ種もいるとかなんとか」

 竜も災難である。最強生物の代名詞の筈が、まだ遭遇していない内に、俺の中で世界ランクが一つ落ちた。

「やっぱり強い敵を倒した方が、たくさんレベル上がりますか?」

「当然じゃ。存在値の喰らい合いは、強き存在を倒した方が、得られる力も大きくなるのが道理。それにレベルというのは高くなればなるほど、次のレベルまで上がり難くなるからの。なのでレベルを求める者は、自然と強者を求める事になるんじゃよ」

「弱いゴブリンばかり相手にしていても、頭打ちになるってことですね」

「そういうことじゃな」

 俺に限って、それは当て嵌まらないのだが。この場は、こう言っておく。

 レベルの限界値と、必要経験値の増加。

 俺の【創力進化】には、それらの枷がない。

 これを早めに知れたのは大きい。不自然に見えないようレベルを上げて行くことが出来る。

「大変参考になりました」

「レベルだけで強さを語るのも、あれなのじゃがな。ま、そんな事はおぬしも分かっておるか。それじゃ、そろそろ帰るぞ」

「はい」

 本日のレベル上げはここまで。

 俺達は村に戻ることにした。


 この世界を生き抜く希望が見えて来た。

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