第五話 固有のスキル

 俺は割り当てられた部屋で一人、ベッドに寝転びながら、自分のステータスを眺めていた。


 今日は疲れたので、もう休みたい。だから夕飯はいらないと言っておいた。

 なので、明日まで一人でじっくりと考える時間がある。


「疲れたのは本当だが、このまま、寝るわけにもいかんよね」

 明日、固有スキルと創力の事を尋ねるにしても、可能な限り自分で確かめてからの方がいい。

 スキルとは魂に刻まれた力。確りと認識すれば、性質が理解出来るそうである。

 確かに【可視化】はそうだった。ならば謎の固有スキルの事も理解出来る筈だ。

「そんじゃ、まずはこれ、と」

 気になっていた【豊穣の理】という部分に意識を向ける。

「おお!?」

 すると、その下の部分に、小さなウインドウが現れた。

 考えは正しかったようである。そこにはスキルの解説がなされていた。


【豊穣の理】――生贄が死亡した際に、一定量の創力を収穫できる。

 直接手に掛けた対象か【生贄選定】で選ばれた対象が死ぬことで収穫は成立する。

 収穫した創力で派生技能を獲得できる。


「えーと、つまり……創力とやらを集めるスキルか。選ぶというのがよく分らんが。んで、創力というのは、説明文から察するに、新たなスキルを得るために必要な、エネルギーみたいなもんか? 魔力とは完全に別の扱いみたいだな」

 創力が三万を超えていたのは、ゴブリンを殺したからか。あと、ひょっとしたら妹の仇を殺した分も加算されているかも知れない。

 あの謎の心が満たされる感覚が、創力を得る感覚だったのならそうだろう。

「まさか創力とは、スキルを自由に創れる力ってことか? だとしたら危険視されそうな力だが。いや、派生スキルとなっているから、制約とかありそうだな」

 取り敢えず、創力についての考察は、もう一つのスキルを調べてからにする。

「次はこれを見てみるか。ったく、不吉なスキル名だな、おい」


【生贄選定】――生贄を選定する。対象の姿を視認することで選定は成立する。

 術者が解除するまで効果は永続する。選定出来る数はレベル数に依存する。

 選定した生贄の簡易情報を知ることが出来る。(1/1)


 思いの外、つまらないスキルだった。【豊穣の理】の補助的なスキルである。

 特徴があるとすれば、生贄の簡易情報を知ることが出来るという点か。

「やっぱりこれが原因だったか」

 ゴブリンやミゲルさんの簡易ステータスが見えたのは、知らぬ間に、このスキルを使っていたからで間違い無いようだ。

「最後の(1/1)というのは何だ? って、おわっと!」


 人間:ミゲル=ソートラン(レベル64)


 そこに意識を向けた瞬間こんな表示が現れた。

「うお、何で、今、見える!?」

 勿論、ここにミゲルさんはいない。部屋には俺一人である。

 近くに彼が身を潜めているというのもないだろう。仮に、そうだったとしても、姿を捉えていないのだから、簡易ステータスが表示されるわけがない。

 状況を理解しようとスキルに意識を集中し、答えを求めてみる。

 コツを掴んだのか、スムーズに知りたい情報が頭に浮かんできた。

「ああ、レベル1で選べるのは一人なんだ。で、現在ミゲルさんを選んでいるから(1/1)ってことね。そして生贄に選定している者の情報は、何時でも何処でも見られると……」

 一度、選定してしまえば距離は関係無いようだ。これは使い方によっては、便利な情報収集の手段にもなる。何せ好きな時に、現在レベルや生存の確認が行えるのだから。

「収穫のターゲットに選ぶだけで、特に害は無いみたいだが、取り敢えずミゲルさんを選定からは外そう。ん~と、解除は……出来るのか?」

 念じたら問題なくできた。

 ミゲルさんの情報が消える。選択数を表すところも(0/1)となっていた。

「ふぅ、これで良しと」

 ホッとする。お世話になった人を生贄に選んでおくとか、流石に失礼である。

「これで持っているスキルについては大体分かったが、一番の謎が残っているな。そもそも創力って何だ? 一体どうやって使うんだ?」

 集める方法は分かった。でも、使い方が分からない。使えない力に意味は無い。

「数値を振り分けるボタンがあるわけでもないし、色々とイメージしてみるか」

 しかし、頭の中でどんなに試してみても、創力を使う事は出来なかった。

「スキルに創力を注ぎ込むイメージで合っている筈なんだが……」

 魂に宿る力である【豊穣の理】から伝わる感覚が教えてくれた。

 創力の使い方は、それで間違っていないという確信がある。

「魂由来の力だから、この思いを信じたいが、根拠の無い確信は痛い人のそれなんだよなぁ」

 殺人犯で、自称異世界から来た人間。痛さを否定する材料がないのが辛いね。

「結局は、【豊穣の理】は使えないというのが目の前の現実。ヒントは無し。そう簡単にはスキルを増やせませんよと」

 今のところ、有効な方法は見当も付かない。

「もう少し時間を掛けて検証しないと、駄目みたいだな」

 これからの生活で見付けて行くしかない。

 圧倒的に、この世界についての知識と経験が足りないのだ。焦っても仕方がない。

 スキルの検証は、ここまでにしておく。

 もう寝よう。

「固有スキルについて、話すべきか隠すべきか」

 目を瞑りながら、そのことについて考える。

 いまだ答えが出ない。

 ミゲルさんとラセリアを、どこまで信じて良いのかも分からないのだ。

 どんなに友好的でも、今日会ったばかりである。その人の本質なんて見える訳がない。

「俺の人生経験から見た印象では、見たまんま、気のいい人達だとは思うが……」

 何かに利用してやろうとか、悪い事を企んでいる様には見えない。

 元いた世界では、そんな奴等ばかり相手にしてきたから、どんなに上手く隠していても腹に一物あれば直ぐに分かる。

「けど、今はまだ、だな……」

 固有スキルは隠すことに決めた。

「彼らが善人だったとしても、環境の見極めが必要だしな」

 向こうには向こうの事情がある。状況によっては、やむを得ず俺を騙したり、裏切ったりする可能性だって大いに存在するのだ。

 まずは彼らや、この世界のことを学ぼう。話はそれからだ。

 疑うことこそ相手を理解しようとすることである。


 それを肝に銘じながら、この日は眠りに就くのであった。

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