11話 帰り道、二人の距離感

「それじゃ皆、お疲れ様でしたー!」


 遊んでいるうちにいつの間にか夕方となり、全員で集合写真を撮った後深玖流の号令で解散が宣言された。

 それを聞いたクラスメイトは各々の集団で散り散りに帰っていく。


「無透さん、帰りはどうする?」

「……寄りたいところがあるから、お別れ?」

「そういうことならそうだね。あ、でも。深玖流が来る……って言うまでもなかった」


 少しは話をしたいだろうから深玖流を待っていてほしと言おうとしたが、そう言いきる前に駆け寄ってくる深玖流の姿が目に入った。

 そして、その数秒後には深玖流の足音が聞こえてくる。


「お待たせー!それじゃあ帰ろっか」

「あー、深玖流。無透さん、帰りに用事があるらしい」

「……ごめんなさい」

「気にしなくていいよ!あ、でも。どこかまでは一緒に行けたりする?」

「……ちょっとだけ待って」


 深玖流の質問を聞いて無透さんはスマホを操作する。

 ちらっと見えた画面には地図アプリが開かれていたから、ここからその用事がある場所までの行き方を調べているのだろう。


「……そういえば、二人はどこに帰るの?」


 スマホの操作を止め、無透さんが俺たちの方を見て聞いてくる。たしかに、一緒に行けるかと聞かれても俺たちがどこへ帰るのか知らないなら答えようがない。


「えっとね」


 深玖流が大まかな場所とそこまでの帰りかたを伝え、それを聞いた無透さんが再びスマホを操作する。

 それから少しすると、無透さんがスマホを操作していた手が止まった。


「……たぶん、学校の近くまでは一緒」

「オッケー!それじゃあ、そこまでは一緒に帰ってもいい?」

「……大丈夫」

「ありがとう、明莉ちゃん!それじゃあ、早速行こっか」


 そうして歩き出して少しした頃。

 三人の中で一番最初に口を開いたのはやっぱり深玖流だった。


「明莉ちゃん、今日はどうだった?」

「……楽しかった」

「よかった~、そう言ってもらえると誘った甲斐があったよ」

「……誘ってくれてありがとう」

「こっちこそ、来てくれてありがとね」

「……これ、大事にする」


 無透さんはクレーンゲームで取ったぬいぐるみを取り出し、ぎゅっと抱きしめる。

 そういう動作は昔からの深玖流で散々見慣れていたはずなのに、誰がやっているかが変わるだけで新鮮に見えて女の子らしいな、なんて感想が浮かぶのだから不思議なものだ。


「今日は色々はしゃいだから、次はのんびりしたのがいいかな~」

「……次?」

「うん!また明莉ちゃんと遊びたいんだけどダメ、かな?」

「……ダメじゃない。私もそうしたい」

「やった!」

「……次も一緒?」


 そう言う無透さんの視線は俺へと向けられていた。

 深玖流と俺がセットのように思われているのなら、そう考えるのもおかしくはないだろう。


「んー、どうだろ?どうせ暇だと思うから連れてくることはできると思うけど」

「お前、当然のように人を暇人扱いしやがって……」

「えー、今は特別やってることもないし事実でしょ?明莉ちゃんが二人っきりがいいなら彩人は置いてくるけど」


 慣れているとはいえ、あまりにも雑な深玖流の俺の扱い方に軽い文句が出かける。

 しかし、それを否定するかのように無透さんが首を横に振った。


「……一緒のほうがいい。今日、楽しかったから」

「よかったね、彩人。そういうことで次も参加だよ」

「俺に選択権はないのかよ……まあいいけど」

「それじゃあ、次は何がいいかな~。今日けっこうはしゃいだから、のんびりスイーツ食べ放題とか?」

「……食べ放題、やってみたい」

「それ」

「それなら二人でもいいとか言いたいのもわかるけど、強制参加だからね」


 俺の言いたいことを言いきる前に深玖流に先回りされ、その上それに対する返答までされてしまう。


「はいはい。わかったよ」

「全然急ぎじゃないし、明莉ちゃんも行きたいところとかやりたいことあったら教えてね」

「……わかった。考えてみる」

「うん!で、それはそれとしてなんだけどね、こことかどう?新作ケーキがおいしいって噂なんだけど」


 深玖流は自分のスマホを取り出しおすすめの場所のページを見せる。無透さんもそれを覗き込み、これが美味しそうやこれもいいといった二人の会話が聞こえてくる。


 二人の会話、というよりはおすすめの場所や行きたい場所のことを話したくて仕方ない深玖流の勢いは止まらず、学校近くの路地に差し掛かって無透さんが足を止めるまでほぼノンストップだった。


「……それじゃあ、私はここまで」

「それじゃあ、また来週学校で」

「……うん」

「またねー!」



 そうして無透さんを見送った後、少し歩き完全に深玖流と二人きりになったことを確認し、俺は話を切り出す。


「なあ、深玖流」

「んー、何?」

「お前、今日途中からちょっと調子おかしかっただろ」

「あれ、そんなにわかるくらいテンション落ちたりしてた?」

「いや、逆だ。高すぎた・・・・


 深玖流はなるほどね、となんともないような言いぐさで続けて俺の質問に肯定の意を示す。


「意識的に上げようとはしたけど、そんなに高かった?」

「あの話をした後に気分を切り替えるためにテンションを上げようとしたのもわかるけど、それにしたってその後も高すぎる」

「私が楽しくなってそうなってた可能性は考えなかったの?」

「あのなぁ、それ考えても高すぎだって言ってるんだよ。何年お前のこと見てると思ってんだ」

「あはは、全くもう。彩人には敵わないなぁ」


 苦笑いを浮かべた深玖流は今までよりも一歩分俺に近寄ってきて、そのまま体が触れるかどうかの距離感を維持しながら歩く。


「特に、プリクラのあれは明らかに何かあっただろ?」

「……らしくなかったってこと?」

「らしくなかったとは言わない。ただ、普通に仲良く写真を撮る以上の何かもあるんだろうなってのはなんとなくわかった」

「あちゃー、そこまでバレてたんだ」


 そこまで言うと深玖流は自分の鞄に手を入れ、昼過ぎに撮ったプリクラを取り出すとそれに視線を向けた。


あたし・・・が同時に顔を出しちゃってたって言えばいいのかな。今振り返っても私がぶれちゃってたなとは思うんだよね」

「……久しぶりに聞いたな、その一人称」

「最近はほぼ私が馴染んでたし、私とあたしは一緒みたいなものだったからね。あたしの出番がなかっただけ」

「それで、同時に顔を出したっていうのは?」


 深玖流は少しだけ悩む素振りを見せたあと、ゆっくりと口を開く。


「私としてはさ、三人で仲良くして明莉ちゃんが楽しんでくれれば良かったんだよね……でも、あたしはそうじゃなかった。心のどこかであたしがそれだけじゃダメだって言ったんだよ」

「それで、あんなことしたのか」

「……うん、そういうこと。あたしがね、彩人と明莉ちゃんと三人で忘れられない思い出を形にして残したいって言うの」

「でも、それは」

「彩人の言いたいこともわかるよ」


 俺の言葉を遮って深玖流が言葉を紡ぐ。

 たぶん、深玖流自身も俺と同じことを思ったのだろう。


「今じゃなくてもいい、でしょ?もっと仲良くなって、例えば夏休みに遊んだりとかそれでいいんじゃないかって。私もね、そう思うよ。でも、あたしはそうじゃない……ううん、そうじゃないって言うと違うかな。それ以上に強い想いがあるの。時間をかけて、もう一度後悔はしたくない・・・・・・・・・・・

「……っ、……そうだな」


 深玖流の言葉は俺の心に深く突き刺さる。

 口に出している深玖流自身も平常心を保つことができていないのだろう、少しだけ写真を持つ手に力が入ってしまっている。


「だからね、あんなことをした一番の理由はそういうことでした、と」

「なるほどな……」

「わっ、な、何するのよ」


 深玖流に言われてそっちを見てみると、俺の手がいつの間にか深玖流の頭に置かれ優しく撫でていた。


「……悪い、無意識にやってた。俺も昔に引っ張られてるみたいだ」

「……ダメとは言ってない。ちょっとだけでいいから、このままにしてて」


 撫でるのをやめて手を離そうとすると深玖流からストップが入る。歩きながら撫でるのは少しだけ難しいがやめる理由にはならないし、気持ちよさそうに気を緩めいてる深玖流を見るとそんなことはできない。


「ねえ、彩人」

「なんだ?」

「これからもたまにでいいからにこうしてほしいって言ったら、どうする?」

「……難しいこと聞くな」

「そこは悩むんだ?」

「当たり前だろ。というか、わざと悩ませたくせに」


 ただ単にお願いするだけじゃなく、わざわざ私と深玖流が口にしたのは俺を悩ませるためだ。

 それを言わずにお願いすれば俺が拒まないことくらい、深玖流はわかっているはずだ。


「まあねー。こういう流れになったならちょっとくらい意地悪しても許されるでしょ?」

「そうだな。お前にはそうする権利があるよ」

「どうしてもって時はちゃんとお願いするから安心していいよ」

「そうしてくれ。というか、今の状況見られたら勘違いされそうだな」


 いくら幼馴染みであるとはいえ、今の距離感はそれ以上のものと捉えられてもおかしくない。

 その上、頭を撫でててもいるのだから余計にその確率は上がるだろう。


「確かにね。って……あ、そうそう。あの時言ってた理由も本心だからね?」

「あの時って、どれだ?」

「プリクラ撮ったときに言ってたやつ」

「あのとき言ってた理由って……ああ、両手に花の話か?」

「うん。乙女としてはあれはなかなか死活問題なんだよ?」

「死活問題って言われてもなぁ……」

「まあ、基本的にそうってだけでちゃんと動揺してくれるっていうのはあらためてわかったしね」


 こんな距離感で接しているから普段の軽いスキンシップくらいなら何とも思わないが、今日のあれみたいにその距離感を強引に踏み越えてくるようなことをされると俺も何も思わないわけじゃない。

 俺だって、基準が多少おかしくなってはいてもその辺は一般的な学生の感性のはずだ。


「ちなみにだけどさ、動揺したのって明莉ちゃんもいたからでしょ?」

「それは……あるな」

「だよねー。私だけであんなことしても動揺したか怪しいでしょ?」

「しない、とは言いきれないけどしたとも言えないな。怪しいってラインがほんとに正しい」

「彩人、ほんとそこは変わらないね」


 深玖流に対するその一定のラインは昔から変わらない、というよりは多少ぶれることはあっても変えてはいけないものだという認識が俺の中には定着してしまっている。


「そこが簡単に変わるわけないだろ」

「ま、それは知ってたけどね。そうじゃなかったら今の私たちこんなことになってないだろうし」

「……そうだな。ほんとに感謝してるよ」

「彩人、いつもそう言うけどこれは私たちで選んだ形でしょ?」

「それでも、だよ。昔も今も俺はその選択に救われてるんだからな」

「それじゃあさ、そのお礼だと思って今から言う独り言を聞くだけ聞いて忘れてくれない?」

「……いいぞ。好きなだけ独り言を言ってくれ」

「ありがと」


 俺の返答を聞いた深玖流はひとつ息を吸い込むとゆっくりと言葉を紡ぐ。


「私があそこで彩人に抱きついたのってね、さっき言った以外にも理由があるんだよね。明莉ちゃんの前で彩人と仲良くしてるところを見せておきたかったんだよね」

「は?」


 深玖流が独り言と言ったのだから俺が反応しないほうがいいのはわかっているが、それでもいきなりの予想外な内容に反応せずにはいられなかった。


「普段でも十分彩人とは仲いいしそんなアピールなんていらないって普段の私なら考える、というかそもそも思いつきもしなかったと思うよ」


 俺の反応を全く聞かなかったことにして深玖流は独り言を続ける。


「じゃあなんで今日はそんなことしたって聞かれたらあたしが出ちゃってたから、って言うしかないんだけどね。なんで出ちゃったからそうなったかは彩人にも言う気はない……は違うね。彩人相手だからこそあたしは言えないし、言わない。はい、独り言おしまい」

「もう独り言はいいのか?」

「うん。それよりも彩人、私の独り言の中身聞いてないよね?」

「ああ。深玖流が急に独り言を言い出したってことしか俺は知らないな」

「よろしい。乙女の秘め事なんて知っちゃいけないんだからね」


 本音を言うのであればさっきの独り言の真意は気になるが、わざわざ深玖流が忘れてくれと言った独り言な上に、わざわざあたしと口にしたのだからなおさら俺にはどうすることもできない。

 深玖流にずっと救われている今の俺にはそのことを聞く資格なんてものはないのだから。


「それで、色々話が脱線したけど結局のところあの話をして少しぶれたから様子がおかしかったってことでいいのか?」

「うん、そうだと思うんだけど……」

「その言い方だと、他にもあるのか?」

「こっちは明確な理由ってわけじゃなくて、感覚的な話なんだけどね。明莉ちゃんといるとちょっとだけ昔の感覚に……うん。あたしの感覚に無意識に引っ張られてる気がするんだよね」

「……珍しいな。昔ならまだしも、今になってそんなことなるなんて」

「そうなんだよねー。ここしばらくは彩人だけの前でもそうなるなんてそうそうなかったのに」


 無透さんと明確な接点を持ったのは新しいクラスになってからという認識は俺と深玖流どちらも同じだ。

 これが小さな時に何度も遊んだことがある、みたいなことになれば昔の感覚を思い出しても驚かないが、今回はそういうわけではない。


 むしろ逆で、新しく知り合った相手にそうなっているのだから俺と深玖流二人揃って首をかしげるしかない。


「ねえ、もしもの可能性の話だけどさ。私たち昔に会ってて明莉ちゃん含めて全員忘れてるか気がついてない可能性ってあると思う?」

「さすがに誰かしらは気づくんじゃないか?」

「でもさ、私たち二人の昔の思い出は良くも悪くも印象に残ってることの中心って一つじゃない?」

「……あー、言われてみるとそうだな。となると俺たち側は抜けてる可能性があるか」


 俺と深玖流の小さい時の記憶は印象に残っていることはいくつもあれど、その中身にそこまで違いがあるわけではない。中心となる大きなものが一つあって、その周りのことばかり記憶に残っているイメージだ。


「だから、それで無意識に忘れてる昔のこと思い出して引っ張られたんじゃないかな、とか思ったんだけどどう?」

「って、今予想を言っても確認のしようがないからな」

「それはそうなんだけどね、いっそのこと明莉ちゃんに聞いてみるとか?」

「聞くならお前に任せるからな。俺が聞いたら怪しい新手のナンパか何かにしか見えない」

「あはは!それはほんとにそう!」


 そのままツボに入ってしまったのか、数分の間ひっきりなしに笑った後。

 深玖流があ、そうだ。と何かを突然思い出した。


「話変わるんだけどさ、GWの間泊まりに行ってもいい?本当はこっちの予定が確定してから確認しようと思ってたんだけど、今日優香ちゃんに呼ばれたし言うだけ言っといてもいいかなって」

「ほんとにかなり話が変わることを急に思い出したな……それで、間ってことはずっとか?」

「たぶん?お父さん出張が入るかもって言ってたから、とりあえずその間はお邪魔しようかなって」

「それはいいけど、泊まりたい理由はそれだけじゃないだろ?」


 深玖流の親父さんが出張で家を空けることはそう珍しいことではなく、その度に深玖流が泊まりに来るということもない。

 だから今回の出張がそれなりに日数がかかるものだとしても他に何かしらの理由があると考えるほうが自然だし、何よりこのタイミングで思い出したからには何かしら関連はあると思う。


「うん。お姉ちゃんのところ一緒に行きたいなって思って」

「なるほどな、思い出したのはそういう理由か。でもお前、今年はもう行ったって言ってなかったか?」

「それを言うなら彩人もでしょ」

「それはそうなんだけどな」

「今日余計にそう思うようになったところはあるんだけどね、新学期に入ってからお姉ちゃんのこと考えること増えたから彩人と一緒に行きたくなっちゃってさ。泊まれるタイミングで連休なら丁度いいかなって」


 たしかに、深玖流の言う理由ならまとめた休みになっているGW中に泊まりに来るというのも納得できる。

 連休でもない普通の日に行くこともできるが、二人揃って行った後どうなるかがわからないから連休中に行く判断は正解だろう。


「わかった、帰ったら聞いてみる。たぶん断られないし、歓迎されるだろうけどな」

「よろしくね。優香ちゃんにも楽しみにしててって言っといて」

「了解……っと、優香で思い出した。お使い頼まれてたんだったな」


 周囲を見て現在地を確認してみると幸いにもまだ引き返したりをすることもなく、寄り道をして帰るで済む範疇だった。


「お使い?何買うの?」

「見せた方が早いか。スーパーで済むんだけどな」


 スマホを取り出し、優香から送られてきたメッセージを見せる。そこには日用品や食材のリストが書かれた簡単な買い物のメモがあった。


「あ、それなら私も一緒に行っていい?いくつか買わなきゃって思ってたものあるんだよね」

「いいぞ。いつも通りに利用できるならしてくれ」

「ありがと、それじゃあよろしくね」




 買い物を終えて深玖流と別れ、帰宅後。


「ただいま」

「おかえりー。それでそれで、みく姉に伝言してくれた?」


 玄関を抜けてリビングへと入ると優香が駆け寄ってくる。しかし、俺の手に持つお使いの荷物は一切目に入っていないあたり純粋に深玖流のことしか頭にないのだろう。


「伝えたけど……ああ、そうだ。それの話で伝言があるんだけど母さんは?」

「飲み物取りに行ってるから、すぐに戻って来るんじゃないかな」

「あら。おかえりなさい、彩人」


 優香がそう言った直後、俺の後ろから声が掛けられる。

 振り返ってみればそこには母さんの姿があった。


「ただいま」

「おかあさーん。お兄ちゃんが何か伝言があるんだって」

「伝言?何かしら」

「深玖流がGW中に泊まりに来たいって」

「え!みく姉泊まりに来てくれるの!?」


 嬉しさが限界突破したのか、偶然近くにあった俺の手を掴んでブンブンと振る優香。もう片方の手に荷物を持ったままそんなことをされるとかなり辛いのだが、今はやめてくれと言っても聞いてくれそうにない。


「優香の伝言の影響も多少はあるだろうけどな。深玖流の親父さんが出張になるかもしれないから元々考えてはいたんだとさ」

「わかったわ。いつでも来てくれていいって伝えておいてくれるかしら」

「了解」

「やった!みく姉何作ってくれるんだろ!」

「先に教えてくれたらそれ作るって言ってたぞ」

「ほんと!?何にしようかな~」


 俺の言葉を聞くと急いでスマホを取り出し、料理サイトを眺め始める優香。そんな様子を見て母さんはあきれたような笑いを浮かべていた。


「まったくもう……深玖流ちゃんに無茶は言わないのよ」

「はーい!」

「あの子ったら、ほんとに深玖流ちゃんのこと大好きね」

「深玖流もだけど、姉みたいな存在の影響力は大きいんだな」

「あら、それは彩人もじゃない」

「母さん……」


 悪びれもせず俺のことを指摘してくる母さん。

 それは何も間違っていないし、俺自身も自覚していることだから反論もできない。


「それじゃあ、私は夜ご飯の準備してくるから優香のことお願いね」

「……はいはい」


 そして母さんは俺が持っていたお使いの荷物を持ってキッチンへと消えていくのだった。

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