恋人アルマ
司忍
第1話 恋人アルマ
アルマは<十二羽の白鳥の湖>からほど近い森の中にある、小さな家に住んでいた。すぐ近くには、どこまでも透き通った水の湧くクリスタルの泉があり、そこへ水を汲にゆくのが彼女の日課だった。
暗くなる前に、夕食に使う水を汲にいかなくてはならない。橘を抱えたままでドアを閉め、振り向いたところで、彼女は遠くから駆けてくる若き騎士の姿を見つけた。
若き騎士は彼女の肩を抱き、泉まで一緒に歩きながら、その日、城で起こったことを話して聞かせた。
これからマンルスに意見を求めに行くつもりだ、と告げて彼が話を終えると、それまでじっと聞いていたアルマが、彼の顔をまっすぐに見据えていた。 [・・・・怖いのね。そうでしょう?]
[自分を信じて]アルマが続けた。 [王様だって、もしあなたには無理だと思っていたら、そんな試練を受けさせたりはしないはずよ]
[ねぇ、おぼえてる?] 彼女は、騎士の手をぎゅっと握りしめた。 [うん、おぼえてるよ]
アルマは騎士がうなずくのを見ると、自分の首からさげている金色のロケットを手に取り、それをパカリと開いた。彼女は種を若き騎士の手の平にそっと置くと、両手で包みこむようにして、手を閉じさせた。
[これをもっていれば、きっといつかあなたを護ってくれるはず。どうか、いつも首からさげていて]
彼女は若き騎士の手を取ると、付け加えた。 [王妃様はいつもおっしゃっていたわ。どんなに小さな種でも、自分がいつか美しい花や、大きな木に成長することを知っているんだって]
[ぼくがいない間、シドの面倒を見てやってくれないか]騎士たちは言った。 [もちろんよ]アルマはそう返事をすると、彼の耳元で囁いた。 [あなたがどこにいようと、いつもあなたのそばにいるわ]二人の最後にもう一度抱き合うと、キスを交わした。
山の向こうに大きな月がのぼって森を照らせ、木々の影がくっきりと地面に落ちていた。振り向いた彼の目に、地面に長く伸びるアルマの影法師が見えた。
マンルスの家の光が見えてきた。騎士は自分の内に響く言葉に、黙ったままうなずいた。[自分が何者なのかと問うことは、たぶん、自分にとって一番の壁になるのだ
・・・・]騎士は胸の中でそうつぶやいた。
恋人アルマ 司忍 @thisisme
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