第11話 クラスメイト

教室の中に入って扉を閉めると反転し、まずはその場から教室内を見渡した。

教壇のある方を前とすると、それに対面する形で机が前後に並べられている。なんだか懐かしい光景だなと思いながらも、その景色内にいる4人を視認した。


一番前の席で分厚い本とノートを広げて、ノートに何かを書きこんでいる少女、一番後ろの席で、服のフードを被りながら寝ているのだろうか、組んだ腕を枕のようにして机に突っ伏している人、真ん中の方の席でおしゃべりしている男女2人組の4人だ。


前世のように数十人単位で1つのクラスが形成されると想像していたので、予想外に少ない人数ではある。この人数から増えるのか?だが、もうすぐ指定の時刻になる。


歩みを進めて教壇に近づいてみる。教壇やそのまわりを見ても、席については特に指示がないようなので、どうやら自由席のようだ。無意識にいつものように後ろの方の席に向かっていると、ウィルから、「なんで後ろに行くの?せっかくなんだから前に座ろうよ!」と純真な瞳を向けられ、お前はそっちのタイプの人間か、と思いながらも仕方なく一緒に前の方の席に座ることにした。


前の方に座ったので、物を広げている少女との距離が一番近くなった。

ウィルがその子に話しかける。


「初めまして!僕はウィリアム=アスラ。こっちにいるのはルイズ君だよ!よろしくね!」


ウィルの屈託のない笑顔でいちころだろうと思っていたが、声をかけられた少女は、身体をぴくっとさせた後、こちらを向いて軽く会釈だけをすると、すぐにまたノートに向かって筆記作業を再開した。


ウィルは負けじと声を出して再度の挨拶をしたが反応は変わらなかった。世の中には色んな人がいる事を説明しても、しつこく挨拶をするので、どうやって諦めさせようかと思案していたが、タイミング良くそこでチャイムが鳴ったので、ウィルも乗り出していっていた身体を元の位置に戻した。


そのチャイムが鳴り終わると、俺達がさっき入って来た扉が開き、ザ・魔法使いという黒の服と帽子を身にまとった40代位の小太りのおじさんが入って来て教壇の後ろに立った。


「初めまして!私は君達のクラスを受け持つことになった、ムング=ガザフスだ。これからはムング先生と呼んでくれたらいいからな。えっと、もうすでに6人揃っているようだね。今期の入校生は君達6人だ。この6人がこれからクラスメイトになるので仲良くするように。そして初日はいつも、この学校の創立者である聖母魔術師(マザーウィザード)のお話を聞いてもらうことになっているんだが、聖母魔術師に急用ができてしまったので、それはまた今度となる。それで、じゃあ早速なんだが、みんなも他のみんなのことを知りたいだろうと思うので軽く自己紹介から始めようか。前に出てきて、名前と年齢、後はそうだな、このエレメンタルに入って来た理由と、魔法を扱える者はどの属性の魔法が得意なのかを教えてもらおうか。えーっと、お、手を挙げてくれたか。じゃあ君から」


俺の隣から教壇の前に出ていった。


「僕はウィリアム=アスラ、12歳です。そこにいるルイズ君からはウィルって呼ばれてるので、みんなもウィルって呼んで下さい。この学校に入って来た理由は、友達が欲しかったからです!後、僕は土属性魔法が得意です。よろしくお願いします!」


そう、ウィルは、最初に聞いたときも友達が欲しくて入って来たと言っていたのだ。だが、さっきまでの行動でも分かるようにウィルはどちらかというと陽キャである。なんでここに来るまで友達ができなかったのか?俺はまだ、さすがにそこまでは聞けていなかった。


ウィルの挨拶が終わると、さっき手を挙げていたのがウィルだけだったので、そこから手は挙がらず、ムング先生が適当に当てていくことになった。


次はさっきの少女だ。

会釈の時に顔は見れていたが、おかっぱの髪型に丸眼鏡をしている。


「ラーナ=フォガード、12歳。魔法が好きだからです」


それだけ言うと足早に自分の席に戻って筆記を再開した。

彼女はぶれないようである。


「えっ!フォガードって、まさかラーナはガイア=フォガードの関係者じゃないよね?」


この年代なら、すぐ呼び捨てでいいんだっけ?とか思い出しながらラーナの方を見ると、ラーナは何も答えなかった。


「ラーナ君は、あのガイア=フォガードの娘さんだよ」


ムング先生が代わりに答えた。


「有名な人なのか?」


「えぇっ!!ルイズ君、なんで知らないの!?ガイア=フォガードっていえば、魔法に興味を持ってる人なら誰でも知ってるこの大陸一番の魔術師だよ?数年前まではエルフ族の魔術師が大陸一番だったんだけど、今はエルフ族でもないガイア=フォガードが一番だと言われているんだ」


冗談でなく本当に知らないんだともう一度びっくりされたが、でもそんなにすごい人の娘ならこの子もきっとすごいんだろうなとラーナの方を眺めた。

本人は他人事の様にしているが。


次は、真ん中の2人組。


センター分けの長い赤髪で目がきりっとしていて見た感じは気が強そうだ。


「うちの名前はアイル=ラングラー、15歳。そこにいるフィンの姉や。入ってきた理由は魔法がビジネスチャンスやと思ってここにそのヒントを掴みにきた!火属性魔法が得意やから弟共々よろしくな!」


この口調が気になるなと思いつつ、

弟らしき方は、両目が青い前髪で隠れてしまっている。


「僕の・・・名前は・・・フィン=ラングラーです。10歳・・・です。水属性魔法が・・・得意です。よろしく・・・お願いします」


これはまた両極端な姉弟なことで。

おっ、次はいつのまにか起きていたフードマンだ。


「18歳のシュメル=ソラシドだ。得意魔法は風属性魔法。強くなりたくてここに来た。まぁよろしく頼む!」


シュメルがここでの最年長のようで、フードをとって挨拶していたが、中身は薄い緑色の短髪のお兄さんだった。


そして最後は俺の番だ。


「ルイズ=ラーモンド、12歳です。僕は魔法が使えません。けど、魔法のことが勉強したくて入ってきました。よろしくお願いします!」


今もラーモンドの家名は人前で名乗って良いかわからないのだが、家名を言わないと色々聞かれそうでとりあえず名乗ることにした。また、魔法の事についても、少しトラウマになってしまっているのか、シャルのところで魔法を使ったらあの日の事をフラッシュバックしてしまって、それから魔法を使うと気分が悪くなってしまっていたので、こっちも聞かれたら説明が面倒くさいと思って、いっそ使えないことにしておこうと決めていた。


お辞儀をして席に戻ると後ろの席から声が聞こえてきた。


「まさか、エレメンタルにほんまに魔法を扱えないのが来るなんて思ってもみんかったわ。あいつからはビジネスのヒントも出てこなそうやな」


「・・・お姉ちゃん・・・ダメ・・・。・・・聞こえる」


「え、なんで?聞こえてもかまへんよ」


「そんなこと聞こえるような声で言わない方がいいんじゃないかな?」


ウィルが立ち上がる。


「ウィルありがとう。でもいいんだ」


制止して座るように促した。


ウィルにはここにくるまでの俺の事情は軽く説明している。怒ってくれる気持ちはありがたいが、でもそんなの無視しておけばいいだけだ。せっかくの転生したこの世界で、わざわざ絡みたくない奴と絡む必要なんてないんだから。


少しピリピリしてしまったが、全員の自己紹介が終わると、ムング先生からこれからの話があり、最後にくじ引きを引くことになった。1班3人で2つの班を作るとの事だ。授業で討論があるから、意見が同数になるかもしれない偶数じゃなく、奇数の班にしたいというのが理由らしい。


こんな時のくじ運は前世から最悪だったので、嫌な予感はびんびんしていたのだが、見事にアイルと同じ班になった。ちなみにもう1人はラーナだ。


大人の対応でさっきの事は聞かなかった事にして精一杯の笑顔で、


「よろしくね!」


と手を差し出したが2人とも俺の手を取らなかった。


はぁ・・・。


こんなんでこれから上手くやっていけるのだろうか。

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