第39話
「いやー、にしてもどうしようかな、これ」
信幸は半壊した自身の家を見上げて苦笑した。今回の戦いで信幸の家と祖母の家の間に立っていた大きな木は薙ぎ倒され、信幸の家を破壊していた。
「陰陽術ってやつでぱぱっと直せないの?」
「いや、むりかな。そんな術ないし。普通に修理を頼むしかない」
「そっか」
「俺のお気に入りの居間もめちゃくちゃだ」
普段雪丸たちが寛いでいた居間は天井が一部なくなり、もし雨が降れば雨ざらしになってしまうだろう。机や床の上には木から落ちた葉っぱや木片ががたくさん散らばっていた。
「区長さんの知り合いに大工がいたな……融通を効かせてもらうか」
「にわもめちゃくちゃ」
晴暁の言う通りだった。傲慢天狗の親分を捕縛するべく、雪丸が犬神と共に争った庭も土がえぐれたり、生垣の一部が破壊されている。
庭の隅にひっそりとあった小さな花壇の周囲に積まれていたレンガは崩れ、植えられていた花は天狗の下敷きになってぺしゃんこになってしまっていた。
「ごめん……俺がもっとはやく、器用に捕らえられたらよかったんだけど」
もっとうまくできたのではないか、そう悩む雪丸に信幸は笑いかけた。
「いやいや、雪丸くんは悪くないさ。この庭も直していこう」
「どうせなら、いけがほしい」
「なんだ、晴暁。鯉でも飼いたいのか?」
信幸の問いに晴暁はコクコクと頷いた。
「そうか、なら小さな池も作ろう。どうせぼろぼろになってしまったしな」
「庭はぼろぼろ。家なんて半壊しちまったもんな。ほんとごめんな」
「気にするなと言ってるだろう。家は……俺の寝室や晴暁の部屋は壁にヒビが入っていて使えそうにないし、いちおう無事な部屋もあるみたいだが、あそこはほとんど物置にしていて埃も被っているから掃除をしないと使えないな……ということで雪丸くんに頼みがある」
天井に穴の開いてしまった居間に、壁に亀裂が走り、今にも崩れてしまいそうな信幸の寝室と晴暁の部屋。無惨な姿に成り果てた家の様子を見ていた信幸が雪丸に向き合ってにこりと笑う。
「えっ、なに?」
「この家が直るまできみの家に泊めてくれ」
「おねがい」
雪丸が困惑しながら首を傾げると、信幸と晴暁から家に泊めてくれとお願いされた。
「えっ、でも、俺に言われてもな……」
雪丸が住んでいる家は祖母の家だ。雪丸が勝手に泊めていいものか判断に迷う。
「松子さんに聞いて?」
「わかったよ、もう……」
信幸に言われ、雪丸は祖母に電話をかける。妖怪などの詳しい説明はしなかったものの、木が倒れて信幸の家が半壊したことを伝えると二つ返事で泊めていいと許しがおりた。
「いいってさ」
電話を切り、雪丸は信幸たちの方を振り返る。
「やったな、晴暁」
「あたらしいおうち」
信幸と晴暁は嬉しそうに拳をコツンと突き合わせた。
「さっ、雪丸くんの部屋で雑魚寝しようか!」
「空いてる部屋は何室かあるからそこで寝てくれ!」
「疲れてるんだよ、こっちも。新しい部屋って掃除しないといけないんだろう? 正直、今は掃除とかしたくないんだ」
「それは……そうだな」
「ざこねー」
太陽がのぼりゆく空の下、三人は仲良く家の中に入っていった。
ご近所さんは陰陽師でした 西條 迷 @saijou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます