〈49〉悲痛なる叫び

 ジーパ王国への帰路についたボクたち。


 ボクもナデシコも、行きは焦ってナーチャ王国まで向かった訳だけれど、帰りはそんなに焦ることもないだろうと思い、三人並んで、ゆっくりと歩いて帰っている。

 ゆっくりと……道草をしながら。


「しーちゃん、スーちゃん…………ごめんね」

「何がだ?」


 ボクが反応する。

 するとナデシコは、少し苦笑しつつ言葉を繋げた。


「あのクズ……コホン……キーグン様が、酷いことを言って……人類を代表して、二人に謝罪するわ……。本当に、ごめんなさい」

「今、チラッと本音が見えなかったか?」

「何のことかしら? そんなことはともかく……本当に、ごめんなさい……」


 深く深く頭を下げるナデシコ。

 ったく……何を気にしてんだか……。


「むしろ……酷いことを言われたのはお前の方だろ? 役立たずとか何とか……」

「ま、まぁ……それはまぁ、そうなんだけどさ……なんか、謝っておかなくちゃいけない気がして……」

「……と、いうと?」

「えっと……しーちゃんとスーちゃんは、人間じゃないんだよね……? アンドロイドっていう、人間とは違う生き物なんでしょ? だったらさ……私たち人類は、あなた達に、人類を救ってくださいって、お願いしてる立場だもん……それなのに、アレはないなぁ……と」

「まぁ……ありかなしかでいえば、なし、だったな」

「でしょ? だから、そのことについての謝罪。人類の一人が、救世主様に無礼を働いてすみませんでした、っていう」

「なんだそりゃ」

「んー! 私だってわかんないんだよぉ! でも、なんかこう……謝っとかなきゃ……いけない気がして……」

「わかったわかった。ちゃんと謝られてやるから、どうぞお構いなく」

「う、うん……」


 すると、少しナデシコが顎に手をあて、なにやら思考したのち、こんな言葉を続けた。


「…………人類を、見限らないでね? しーちゃん……そして、スーちゃん……」

「あん?」


 何を言い出すんだ? 急に。


「世界は広い……だから、世界には色んな人がいる。あのクソ野郎キーグンみたいな人間も、探せば沢山……いえ、探さなくても沢山、現れるはずだから……」

「ついに隠さなくなったな」


 クソ野郎にキーグンってルビ振りだしたぞ? こいつ。


「でも、そういう人に出会った際には、必ず思い出して欲しいな……私やお姉様……ジーパ王国の優しい皆みたいな人間も、いるんだということを」

「…………分かってるよ、それくらい……人間がクズで身勝手で醜いことくらい……ボクがどれだけ人間嫌いやってきたと思ってんだ。舐めるな」

「一応、確認のために言っておこうと思って……ほら、私たち人間って、悪いイメージほど、心に残っちゃうからさ。良い人よりも、悪い人の方を心に刻んじゃうから……アンドロイドも同じかなぁーって……うん、分かってくれているのなら、それでいいんだ」

「……………………」


 良い人よりも、悪い人を心に刻んでしまう……それは、アンドロイドも同じかもしれない……。

 自分のこととなると、弱い部分――つまり悪い部分から目を逸らしがちなのに……他人のこととなると、悪い部分だけに注意が向いてしまう……。

 何を隠そう、ボクはそうやって、スーとの関係を拗らせてしまったのだから……。


 アンドロイドも、人間と同じ…………なのかもしれない。



「スーちゃんもごめんね!? さっき、あんな風に凄んじゃって!」

「…………別に……」


 ん? ボクが思考している間に、ナデシコとスーが会話している。

 そういえば、この二名が会話するのって、あの時のやり取りがはじめてだったよな?

 どんな感じなのだろうか? ちょっと耳を傾けてみよう。


「てゆーか! スーちゃん可愛いね! 髪とかまっ金金で可愛らしい! 素敵!」

「ちょ、ちょっと! 触らないで!」

「良いじゃん! 減るもんじゃあるまいしぃー」

「減るわよ! あんたみたいなバカにさわられたら!!」

「がぁぁああーんっ!!」


 とぼとぼとこちらへ近寄ってくるナデシコ。


「しーちゃん……スーちゃんに、バカって言われた……」

「ど……どんまい……でも、バカなのは間違ってないから……その辺はちゃんと受け止めような……?」

「酷いっ!!」



 ……とまぁ、こんな感じで、ボクたちはジーパ王国へ向けて歩みを進めている。

 雑談をしながら、仲を深めながら。

 そんな中で、ボクはふと思う。


 さて、これからどうしようか……? と。


 ナデシコが掲げる、全ての人間を守る――――という目標を達成するためには、残り十体の【原種】を倒さなければない。

 それに、【原種】が持っているという星型水晶の中には、ボクの兄姉きょうだいが封じ込められているというではないか……それらを全てそのままにしておく訳にはいかない。

 いずれにせよ、【原種】の獣人との激突は必須……それは分かっている。


 分かっているんだが……これからどうする?


 キング・マウスやクイーン・スネークの時のように、宣戦布告など戦う理由がある訳でもない……いっそ、こちらから戦争を仕掛けるのも、悪くないのかもしれないな……。


「ほらっ! しーちゃん、もうすぐジーパ王国だよ! 早く早く!」

「はいはい……分かってるから、引っ張るな」


 ナデシコに腕を引かれ、間もなくジーパ王国へと到着といったところらしい。


 まぁ……戦争だのなんだの、物騒なことは、ジーパ王国に着いてから考えよう。

 そうだな、ゆっくりと湯船にでも浸かりながら……――――





 ――とは、いかなそうであった。



「え? ちょっとまって……なに……? これ……?」


 を見て、まず最初に声を発したのはナデシコだった。

 というより、ボクもスーも、声を発することができなかった。

 いや、スーは発したか。


「ジーパ王国? ないじゃん…………


 ……と。


 そう…………ジーパ王国はなくなっていた。


 真っ赤に燃え盛ったのであろう……焼け野原が、一面に広がっているのみだった。

 恐らく受けたのだろう――――敵襲を。



 【原種】の誰かによる――――襲撃を。



 焼け野原と化した、元ジーパ王国跡地目掛けて、ナデシコが叫ぶ。


「お姉様ぁーーっ!! 皆ぁー!!」


 …………。

 ナデシコの、悲痛なる叫びだけが、焼け野原にこだました。

 残念だが……。

 どうやら……ゆっくりとできる時間は、なさそうだ。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


作者です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

いいねやレビュー、コメントには、いつも励まされています。本当にありがとうございます。

さて、このページで第二章『ナーチャ王国編』が完結致しました。

今後、第三章がはじまる訳なのですが、少し準備時間をいただきたいなと思っております。

というのも、公開前に溜めていたストックが尽きてきたことと、話を練り直したい気持ちと、あと仕事が忙しいという三つが要因です。

再開時期は未定ですが、いつか必ず再開致しますので、少々お待ちくださいませ。

そんな訳で今後も、『最強アンドロイドの異世界英雄譚』及び私めをよろしくお願いします。


以上、作者でした。

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最強アンドロイドの異世界英雄譚 蜂峰文助 @hachimine

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