第49話


 会話が止まり僕と壱は黙り込んで各自、自分の手に持っているグラスと睨めっこを初めた。


「今、考えたんだけど、恋は盲目っていうだろう。それって怖いよな、相手が嘘つきでも全部信じてしまう。

 結婚詐欺とか国際ロマンス詐欺とかさ、ピュアな心の持ち主を傷つけるんだぞ、宝のやっている事も詐欺だし…。

人を信じたいと思っても難しいなあー。

 俺は、やっぱり修行が足りないな」


「人を見たら泥棒と思えって、昭和の言葉であったよね、今でもその通りだと思う」

僕が、言うと、


「えー、成って人に興味ないと思ってた」

壱が、冗談ぽく茶化して来たので、


「そろそろ帰るか?」

と、隣に座っている壱の顔を覗き込んでいうと、いきなりキスを頬にしてきた。


「おい、壱、飲み過ぎだ。帰ろう」


「そんなに飲んでないけど、眠いから帰るか、俺が払う」

壱が、言いながら立って歩き出した。


 僕も後を追って立ち上がったら、尽かさず将が寄って来て紙を僕に寄越して口に指を当ててナイショの仕草をして去って言った。

 前方の壱は全く気付いていない様子で、僕はとりあえずポケットに紙を突っ込みながら壱を追いかけた。


 外は昼間と思うくらいに人が多かった。地下鉄はまだ動いている時間だったが、タクシーで帰る事にした。


 家に着いた途端に、

「土曜日なのに、1年分の出来事があった気分だ。疲れた寝る」

って、言って壱は上着だけ脱いでベッドに横になった。


 僕もこのまま寝るか迷ったが、シャワーを浴びて寝る事にした。


 次の日の日曜日は昼頃までベッドで僕だけゴロゴロした。

 朝方、ダブルベッドの端の方で寝ていた壱が僕の方に来てあっちこっち僕の体を触り始めて、目が覚めてしまったが、余り気分は良くないが、快楽に負けてしまい何回も体を繋げ、何回目かの時に、


「久しぶりに朝一で、気持ちいいな大好きだよ」

壱が、僕に繋がりながら言って動きを止め

「成は?」


「飲んだ後の寝起きに直ぐは、頭が回らないよ」


「良いだろ」


「ああ、続けて」


「一緒に気持ち良くなろう」

壱は、やけに機嫌が良かった。


 昼頃に、

「成、パンケーキ焼いた、食べるだろう」

と、ベッドでゴロゴロしていた僕に声をかけてきた。


「ありがとう、今起きる」

さっきから部屋中に甘ったるい焼き菓子の匂いがしていたので納得した。


「宝から連絡きて、明日から休むって」

壱が、テーブルに座った僕に言った。


「ふーん」

とだけ言って、何かを聞きたいような気がしたが、何を聞いたら良いかわからないので、黙っていたら、


「たぶん辞めると言うか、逃げるんだろうな」

壱が言って聞た。


「本郷先生に連絡したのかな?」


「たぶん、しないな」


「ふーん」

僕は考えるのが面倒になった。


「自業自得だ」


「ああ、このパンケーキ美味しい」


「そうか、良かった。たくさん焼いたからな」

壱が得意気に言った。


 なんだか勝手にニヤケた顔になったらしいく、

「成、そんなに嬉しいか?パンケーキ好きだったか?」


「えっ、僕?」


「今たくさんあるって言ったら、喜んだだろう」


「そうだっけ、パンケーキ好きだよ」

僕は壱の得意気の顔が可笑しかったくて顔に出たらしいが、説明が面倒なので話を合わせた。


「じゃあ、もう少し頻繁に作るな」

壱は満足気に言ったので、宜しくと答えておいた。


 午後から一週間分の買い出しに行く事にした。

 

 僕は昨日の夜ソファに脱ぎ捨てた上着を着て何気にポケットに手を入れたら紙が入っていた。

 昨日の帰り際に将が寄越した紙だった。電話番号とメールアドレスが書いてあった。

 僕が眺めて捨てようとしていた所に壱が、

「どうした?」

って目敏く気がついた。


「これ」

って紙を壱に渡すと、


「はぁ、誰に渡された?」

壱が、怒りかけた。


「将」


「あいつ、捨てるぞ」


「宜しく」


壱が、細かく破ってゴミ箱に捨てた。







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僕が僕である事が、人生のオプションなのか みわ @miwa5422_0524

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