第48話


 将に壱が声をかけたのと同時に、振り返った僕は将と目があった。


「壱の友達?初めまして佐藤将です」

軽い調子で僕に声をかけてきた。


 壱が僕に(昔の知り合いだから)と声をかけた時、

「壱、もったいぶるなよ。隣のイケメン紹介してよ」

と、将が僕の目を見ながら壱に声をかけた。


「はぁ、何で紹介しなきゃぁいけない?俺のパートナーだ、関わるな」

壱は、少し声を荒らげて言った。


「パートナー?モテまくっていた壱に?冗談だろう、滅多にお目にかかれない顔だ、紹介しろよ」


「だから俺のパートナーだ。紹介はここまでだ」

壱が言った。僕は可笑しくて苦笑いした。


「成、笑っている場合じゃないぞ、将は虚言癖で無い事をさも本当の事の様に言いふらす奴だ、俺はいい迷惑を受けた」

壱が、将を睨みながら僕に説明をした。


「酷い言いようだ、10年くらい前の勘違いの事だろ、壱はしつこいよ」

将はなんでもないように軽く壱に言い訳を言った。


「俺のピアノがテープの伴奏で、手元のアップはそこだけ生伴奏だって、言いふらして殆ど聞いた奴は将の話を信じてた、ふざけるな…中坊のいじめだな性格どうなってんの、勘違いだと…よく言えるな」

壱が、当時を思い出して顔を歪めた。


「この世界じゃ、可愛い会話だよ」

将は負け時と言い返す。


「将、今どうだ仕事順調か?、人の恨み買い過ぎて息苦しいだろ」

壱は嫌味たっぷりと揶揄って言った。


「昔から生き馬の目を抜く世界にいるからね」

なんでもないようように、スマートに答える将も凄い。


「思い出したくもない、あっち行けよ」

壱が言うと、


「隣に座ってもいい?」

将が、僕に言った。


急に会話が僕に振ってきて慌てて

「えっ、ああ」

と、僕が言うと、


「成!」

壱が、呆れてたように言った。


ちゃっかり僕の隣に、将が座って

「成くんって言うんだ。

…なんか昔に壱から聞いたような気がするなあ。壱とは昔から?それとも最近?」


「将の調子良い会話に乗るなよ、成、何も答えなくていいぞ」

壱が身を乗り出して僕を通り過ぎて、将を見ながら言う。


「まぁ良いよ、それより壱、また仕事頼んで良い?」


「おまえとは、やらない。それに仕事、変えた」


「えっ、今は何をしてるの?」


「無職」


「教えたくないんだ。まぁ良いよ、機会があったらピアノ宜しくな」

将は、会話が進まないと判断して席を立って自分の席に戻って行った。


「嫌な奴に会った」

壱が僕に囁いて、ため息をついていた。


「だいぶ嫌な思いをした相手なんだね」


「ああ」


「壱と似ている所があるから、嫉妬されたのかな?」


「知らない、けど当時一緒の仕事してた時よく兄弟かって聞かれてたな」

壱が、何かを考えるように言った。


「あの人燻んでたから行き詰まっている、自分の蒔いた種だから仕方がないかも」

僕は手に持っていたグラスを見ながら、何気なく呟いた。


「あれ?、成。見えなくなったんじゃないのか?」

慌てて、隣の壱が僕の顔を覗き込んできた


「うん…。そう言った。正確には見ないようにしている」


「そうか…」


「うん」


「もしだよ、燻んだ時はどうすればいいんだ?」


「人の恨みをかわない事それに尽きるね、

生きている人が一番怖いから」


「相手が勘違いの場合はどうするんだ?」


「勝手に思いが来るから厄介だ。けどそれも運命なんだと思う」


「やはり恨まれるのか?」


「そうだね、波長の合わない人とは付き合わない事だよ」

 

「わからない、難しい」


「最初は奥に入らないで表面で付き合って行くうちに、わかるかな?たぶん」


「それでも分からない時は?」


「それが普通だよ、まず合う人間がいる事が稀だし、親子、兄弟でも合う合わないあるだろう」


「ああ、まあな」



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