第19話 小さな雑貨屋さん
ギンゾウさんと金貨百九十九枚を持って事務所に向かうかと思ったら、全然別方向に向かっている。
「ギンゾウさん、どこに向かっているんです?」
「風の向くまま気の向くままよ! アダンちゃん、そんなこと気にしてたらこの先やっていけないよ」
「いや、でも行き先くらい教えてくれても」
「あー、もうわかったよ。ちょっとだけ待って。ほれ、ここだよ」
そこは小さな雑貨屋さん。
「え? なんでこんなとこ?」
「まあまあ、入ってみな。なんでってせっかく聞かれたけどちょっと急いでるからさ」
「はあ」
店内に入ると様々なものが所狭しと並べられていた。
小物から家具、服から食べ物まで多種多様。
でもなんというか全体的に古い感じがする。
よく見ると置いてある商品のほとんどが木で作られている。
木製のものばかりだ。
それになんだか薄暗い。
天井近くに明かり取りの窓がありそこから光が差し込んでいるのだが、店の奥までは届かないようだ。
「ここは?」
「驚くよね。ここ、ツワブキさんのお店」
「え? そうなんですか?」
なんだかいちいち驚くのがバカらしくなってきた。
なんで帝国の魔導技術の第一人者だった人がこんな雑貨屋やってんだよ。
「そうなんですよ、アダンちゃん」
「で? どうするんですか?!」
「んー、しばらく待機!」
やっぱりギンゾウさんは何も答えるつもりはないようだ。
「ギンゾウさん」
「なんですか、アダンさん。って名前で呼び合うオレたち~」
「なんですか、それ。あの、クルミさん、ツワブキさんやコウタロウさんはどうしてるんです?」
「アダンちゃん。それ聞いてどうすんのよ。ってか俺が知ってると思う?」
「あー、クルミさんは言わないと思います」
「いろいろショックだけど、ま、その通りだよねえ」
「それでいいんですか?」
「ん?」
「ギンゾウさんはそれでいいんですか? 何もわからない、言われたまま仕事をこなすって」
「アダンちゃん。ちょーっと昔の話をするね」
「え? は、はあ」
「あれは三年前の夏の日。その当時、オレはしがない詐欺師でさ、個人宅に訪問販売なんかしながら詐欺のカモを探して町を渡り歩いてたの。その時、クルミちゃんに出会ったんだけどさ。なんでバレたのかさっぱりわかんなかったんだよね。それまで一度も失敗したことがないオレがだよ」
「え? そうなんですか?」
「うん。まあその時いろいろあってクルミちゃんに助けられてね。オレが詐欺ろうとしてたのがずいぶんヤバい、まあ裏ボス? みたいなやつでさ。あの時クルミちゃんが助けてくれなかったら命はなかったの」
「そんな事が」
「うん、本当にそんな事があったら驚くよね」
「え? 嘘? 嘘なんですか?」
「どうだろうねえ」
「なんなんですか! ギンゾウさん! いいかげんにしてくださいよ!」
「あははは、まあまあ。アダンちゃん、待ち人が来たみたいだよ」
そう言ってギンゾウさんは雑貨屋の奥を指さした。
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