第4話 僕の失態

「落ち着いた?」


「申し訳ありません。取り乱してしまいました。あの、クルミ室長」


「なに? あ、室長いらないわ。クルミって呼んでもらえます?」


「ああ、はい。ではクルミさん。説明していただけますか?」


 少し冷静になった僕はもう一度事務所内を見まわしてみる。


 事務所内には机が数台。机の上には通信機が数台と音楽を再生するデッキが一台あるだけだ。


 いったいみんなどうやって仕事をしているんだろう?


「申し訳ありません、アダン君。私の言い方が悪かったですね。まず、私たちの仕事、わかってますか?」


「ええ、モルぺス販売発掘事務所では、魔獣の魔石や化石の発掘を行います。そしてそれらを加工等行い販売するのが仕事です」


「そうですね。で、発掘事務所では実際に発掘を主に行っているわけです。ですので我々はエクスカベーターと呼ばれています。そしてアダン君、あなたは今日ここに配属されました」


「はい、その通りです」


 当たり前だ。本社でエリートコースの階段を登っていたはずなのになんでこんな所に。


「あ、今、なんで俺がこんな所に、って思いましたね?」


「い、いえ、そんな」


「いいんですよ、事実ですから」


「え?」


「それが事実なんです。いいですか、ここ。このモルぺス販売発掘事務所は


「え? なに? どういうことです?」


「ないんです。発掘事務所なんて」


「わかりません」


「発掘事務所自体は存在します。ここに、こうやって」


「ええ」


「ただし、実際にはよ。実はここ、モルぺス販売のナワシロ会長の税金対策のために作られた会社なんです。ですから会社は存在しますしここにあるんですけれど、ないんです、モルぺス販売発掘事務所」


「すみません、ちょっと理解が追いついてないです」


 まあそちらでゆっくり休んでください、奥のデスクに座っているので落ち着いたら声をかけてください、と去って行った。




 自分が犯した失敗が頭をよぎる。


 今の自分の置かれている状況は、アラクサ社長から領主に届けろと言われた金貨二百枚を盗まれてしまった事への罰としか思えない。


 こういう事業をやっているのだ、清廉潔白に事業を行ってという訳にもいかない。

 ライバル企業も多く、しのぎを削っている状況だ。



 先月、アラクサ社長から直々に領主であるシオザキ十三世への裏献金、金貨二百枚を預かり宿に泊まった。そして翌日、朝起きてみると金貨がなくなっていた。


 こんな失態は初めてだった。

 そもそも表に出せない金だった。


 なので首という訳にも行かず俺はここに飛ばされた。


 左遷だろうとは思っていたが、まさかこんな税金対策のゴーストカンパニーに飛ばされるとは思ってもみなかった。


 僕はこの先、どうしたらいいんだ。

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