第2話 出会い

 オーフィア帝国歴1230(聖国歴2017)年 六月


「あのお。あのお、すみません! 誰か僕の話を聞いてくれませんか? どうなってるんですか、この事務所」


 到着して事務所に入ってからもうずっと呼んでいるのに誰も返事をしてくれない。


 誰もいないのかとも思ったが明らかに人の気配はあるし何の音楽だかわからないけど何かしらの音楽も聞こえてきている。


 しかし、返事はない。


「ん? あら? どちら様?」


 諦めかけたその時、音楽が止み、一人のひげを生やしたおじさんが近づいてきてくれた。


「やっと、やっと気づいてもらえました。あの、私、アダンと言います。本日付でここモルぺス販売に配属になりました。よろしくお願いします! ってあの、聞いてもらえます?」


「ああ、ごめんなさい。誰ですって? ああ、まあ誰でもいいです。とりあえずお座んなさいな」


「ええっと、あなたは?」


「ああ、私ツワブキと申します。どうぞよろしく」


 ツワブキと名乗った男は口ひげを生やしもじゃもじゃ頭で、ボロい紺のスーツを着ている。


 こんな人が上司だときっとやりづらいだろうな。


「ツワブキさん、ええっとこちらの? 初めまして、本日付で――」


「いいええ、私は時々ここに来て音楽をね、聞かせてもらってるんです」


「ん? 音楽? もらってる?」


「はい。やっぱりいいですねえ、シラトナは! そうは思いませんか?」


「ああ、まあ、よくわかんないですけど。えっと、え? こちらの方ではないんですか?」


「ええ。そうですよ。そう申し上げておりますが?」


 訳が分からない。

 何を言ってるんだ、このおじさん。


「ああ、はい。えっとじゃあここの人は?」


「さあその辺にいらっしゃるんじゃないですかねえ? さて、と。私は地下の部屋に行かせていただきますので、それじゃどーも」


「待って待って待って待って! 待ってください。私は? 私はどうしたらいいんです?」


「そりゃあなたが決める事ですよ。それじゃどーも」


 おじさんは額に手を当て敬礼すると奥の部屋に去って行った。


 どうしたらいいんだよ。

 また、誰か来るまで叫ぶの?


 って、仕方ない、のか?


 だんだんバカらしくなってきた。


 そんな事を考えていると、一人の男性が現れた。


「ん? あれ? 誰?」


「ああ、ええっと、アダンと言います。あのお、こちらの方ですか?」


「んー、そうだねえ、どう見える?」

「いや、そう言われましても。見えるような気がします」


「そうかあ、見えちゃうかあ、オレもまだまだだなあ。んで? アダンちゃん? どしたの?」


「あの、本日付でこちらに配属になりまして、ご挨拶にと思いまして」


「あー、そうなの?」


「はい、あの、お聞きになられていないので?」


「ああ、うん。だいたいのことは聞いてないねえ」


「え?」


「ああ、こっちの話。そっかあ、アダンちゃん、今日からここで働くのかあ」


「はい、よろしくお願いいたします!」


「いい、いい、そんなのいらないよ。んで、なにやらかしたの?」


「え?」


「なんにもやらかしてない奴がここに配属されるわけないじゃん。何やったの?」


 本当に、どこに行ってもこういう嫌な奴がいる。

 わかってたはずだ。

 誹謗や中傷に負けるもんかって決めたじゃないか。


「話したくありません。勘弁願います」


「えー、そっかあ。ま、いっか。ねえクルミちゃーん! なんか今日から配属された、えっと誰だっけ?」


「アダンです」


「アダンちゃんだって! ねえ、クルミちゃーん!」

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