これほどまでに趣向の凝らされた短編は、数多の作品が犇めくWeb小説の世界でも、そうそうお目にかかれないのではないでしょうか。少ない文字数で、長編のそれに匹敵する考察の深みと感動を生み出してしまうとは。その技術力と感性にはただ慄くばかりです。そんなたしかな実力に裏打ちされた作品なのですが、その中でも特筆すべき部分は異色の世界観にあります。これは作中世界の舞台ではなく、作品の根底にある哲学のことです。
一見すると「ありふれた考え」に思えてしまうのですが、その第一印象をいとも簡単に覆してしまう哲学の深層はまさに本作の醍醐味といえます。理性の箍を破らんとする渇望と、本能の奥底で鈍い光を湛える希望。両者のせめぎ合いは、最終的に作品タイトルの考察に貴方を誘うことでしょう。人によっては受け付けないであろう描写も多分に含まれる作品ですが、刺さる人にはとことん刺さることかと思います。
村上龍やチャック・パラニュークを彷彿とさせる材料に、ハヤシダノリカズで大胆に味付けされた逸品をどうぞ心ゆくまでご堪能ください。