序章・〜使者たち〜(四)

静寂が満ちる中で、コツ、コツ、コツとロングブーツの足音が鳴り響く。

居候、もとい《悪魔》に促され大人しく近場に置いてある半径三メートル程の丸い机と時計周りに偶数で配置された椅子の一つに座る優花。彼女は六に位置する席に着き、妹の優奈とは一つ分間を空けた席を選んだ。一方、優奈は二の位置で九条に対し追加でクッキーをオーダーして緑茶とともに満足そうな表情で咀嚼している。


「それで、私たち一族に関する系譜の人たちを呼び戻すとは一体どういう意味なの?」と素朴な疑問を鋭い棘の様に芯のある口調で、説明を求めた。


「そのままの意味だ。

君たちの一族に関する者たちなら、この世界に呼び戻せる」


より一層、眉を顰め険しい表情をする優花、彼女が向ける訝し眼に対し、そのまま解説を続ける事にした居候の《悪魔》。彼は自分が突拍子もない対処法を口にしたのにも関わらず、最後まで訊く姿勢で居る彼女らに律儀で有難い限りだと胸の内で思いながら、静かに語り始めた。

頬張る優奈はさておき。


「まず、前提として君たち一族はこの魔法陣と繋がっている。

それはつまり、世界の全ての情報を把握・閲覧が可能としている空間にも、その媒体そのものが『抹消』でもされない限り、通じているという事。

この現象は、君たちの遺伝子を密度関係なく受け継いだ者達にも言える。

簡単に、現世で肉体と云う器を失くした場合、魂・思念がそのまま通じてこちらの空間に一方通行で移送されるシステムだと思ってほしい」

「でも、その理屈だと呼び戻せないよね?」と、直ぐ様に優奈がティーカップをそっと置き、胡乱に見据えた眼で訴え、指摘をする。

だが優花が、冷静に「その点を考慮して、《権能》を使うのでしょう。

要するに、貴方が《権能》を行使してその難解な部分を補い、呼び戻す。違うかしら?」と澄み切った瞳に、詰問口調で確認を取る。

その態度からして、事の内容次第によっては間違いなく激怒するオーラが漂っていた・・・・・・。

それには思わず、「ああ、全くもってその通りだ。

それと、もう一つ伝えておくと、これから呼び戻す人たちからは既に了承を得ている」と冷や汗を掻きながら早口に重要な補足部分も伝える。

「そう。

なら次は、呼び戻す理由だったわね。

続けて話してもらえる?」


一変して、瞬く間に緊迫した空気が漂う中、静かに頷き、続けて応えた。


「理由は三つ程ある。

まず、君たちの叔父を捜索する事。

次に発見した際、不足の事態に備え対処する人員。

最後に、この《第六次世界大戦》を終決にする為。

・・・・・・・・以上が、彼らを現世に戻す理由だ」

「待って、残り二つは確かに状況的に分かるけど、最初の一つは貴方が対処できないの?」と即座に優花が、疑問を呈した。その反応に、気不味く思い視線を逸らす居候の《悪魔》。

一方で、二人を差し置き優奈は「九条さん、次はチョコのロールケーキを頼める?」と、まだ食する気なのが窺える様子。それに軽く頷き対応する九条、会話を邪魔しない為に無言での応答。


すると少し間を空け、鼻で息を吐くと、下唇を噛み悔しさが滲み出た顔色をした居候の《悪魔》は「・・・・・・この約二十年ほど我々は幾度も《権能》を行使して捜索をし続けたが、痕跡すら発見する事は出来なかった」と、沈みそうな表情で告げる。


「っ・・・・・・それが、呼び戻す人たちには可能だとでも言うの?」

不明瞭な部分に優花は剣呑な表情で尋ねると、「頂きま〜す!」と言う声が耳に響いてくる。

丁度、妹の優奈が頼んだロールケーキが目の前に差し出されたのである。しかし、本題に関係が無い為、無視して返事をする事に。


「ああ、どうやらその変わり者には妙案があるらしいのでな」


返答が余り望ましいものでは無かった為か、険しい顔付きになる優花。

自分ですら曖昧で懸念点を挙げたら一体どれ程までになるか定かではないと思える対処法に、目の前の少女は向き合い右手の人差し指と親指を顎に添え、真剣に考えてくれている。

もう一人、瓜二つの顔をした少女はお菓子ばかり食べている様子なのに。

すると、「・・・・・・いいわ。

大方だけど、理解はした。

早速、始めて頂戴!」


その了承に口元を僅かに綻ばせ、静かに頷く。

それから、両手を翳すと瞬く間に人型の姿・形と衣服などが三つ程現れ形成をし始めてゆき、それらは右側から順に短めの茶髪に茶色の瞳の女性・桜色の長髪に深緑色の瞳の女性・闇色混じりの銀髪に碧眼の男性が瞼を閉じたまま居候の《悪魔》の前に現れ、息を吹き返すと瞼をそっと開く。控えめに美男美女揃いだった為か、惚ける姉妹。

姉の優花は羨望な眼差しで見つめ、妹の優奈も魅了され思わず手を止めた。

一際目立つ、呼び戻された人たちに、前に立たれて隠れてしまった居候の《悪魔》は、目前の三人が自身の感覚を確認する中、咳払いをし振り向かせ「とりあえず、あの二人の向い側の席に着いてくれないか?」と左手で促し、申し出る。

承諾した復活勢の三人は、順に八の席に闇色混じり銀髪の男性、十の席に桜色の長髪に深緑色の瞳の女性、そして十二の位置する席に短めの茶髪に茶色の瞳の女性が、度々動作を確認しながら腰を下ろす。だが、現世の感覚に直ぐに適応し慣れない為か、落ち着く気配が感じられない。


「「・・・・・・・・」」


表現し難い異様な光景を目の当たりにする双子の姉妹。

時間差なのか、漸く徐々に身体の感覚と《権能》に適応、馴染み落ち着いた雰囲気を纏い、穏やかな様子を見せる。復活させた人の対処方法など当然知る由もない為、困惑顔を浮かべる二人。

すると、喉を鳴らす音が響いてきた。

先程と同様に居候の《悪魔》が周囲の眼を引いたのだ。


「紹介しよう。

茶髪の女性は、君達の祖父母で、父方の妹・関城優奈。

隣の桜色の長髪が印象的な女性は、結城ユメノ。

そして、闇色混じりの銀髪が特徴的な彼は、異月ことつき修也。

多少複雑な経緯はあるが、手を貸してくれる者たちだ」


微妙な表情をしながらも、口を噤む紹介された復活勢の三人。

即座に反応した黒坂優奈は「いや、そもそも系譜が複雑過ぎるんだけど!」と、悲鳴の様な声でツッコミを入れる。

それに、冷静な声音で「流石の天真爛漫・自由奔放の黒坂優奈ちゃんでもこの現象の前では、そうなるのね」と、囁く様に愉快な声で口元を右の手で添え、微笑み結城は的確に事実を述べた。

だが、そうすると必然的に「この人、どうして私の事を知ってるの?!」と、黒坂優奈は訝し眼とともに返す。

その言葉に結城は「・・・・・・・・人、認定してくれた」などと感涙した様子で呟く。

時計周りの終始付近で騒ぐ二人を他所に、優花は「結城ユメノ・・・・・・・・・・・・、何処かで聞いた事があるような?」と、一人顎に手を添え疑問符を浮かべ考える。

その反応を見て、更なる補足情報を応える事にした居候の《悪魔》が驚愕の事実を口にする。


「結城さんは、君達の系譜に含まれていない人だよ」


その言葉に双子の姉妹は眼を見開き、何かを口にしようとするが、続けて「その証拠に、彼女は家紋を刻んだアクセサリーを身に付けていないだろ」と、言葉を慎重に選び、告げる。

即座に、確認する双子の姉妹は、関城の首元に身に付けてる赤いチョーカーに鞘に収まり交差する剣がある事を認識、そのまま異月に視線を移すと右腕にシルバーのブレスレットにも家紋が刻まれている事を確認する。しかしながら、ここで姉妹に疑問が浮かぶ。

『呼び戻す』際に、理屈では黒坂家の血筋・系譜に含まれる人たちしか現れない筈で、予定なのである。それなのにも関わらず、当たり前の様に出てきた今や不思議な存在・結城ユメノは苦笑いを浮かべ、気不味い様子を見せながらも意を決してか、深く鼻で息を吸い、吐くと、静かに語り始めようと口を開く。だが、両隣に座る関城と異月の二人がそれぞれ掌を差し向け「これはバグです」と、遮り簡潔に説明する。

直後、結城は不満気な顔をして「ちょっと待って、今の流れは完全に私のシリアス展開じゃなかった?!」と悲鳴の様な声量で抗議した。

それはさて置き、双子の姉妹は「「関城さんと月の一族の彼は間違いなく、家の血筋の人だ」」と、声を揃え、納得した様子で口にする。


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オーダー・ビジョン 瀬戸丸 渉 @Yataga

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