第1章 純白の少年 第08話 借金有り所得無し

私が小学校入学を待つ間、あの男はハローワークに通った。

「どうだった?」

「今回は書類落ちだった、そもそも求人が少なくてそこにみんな殺到しちゃう」

「そっか、借金もあるしこれからどうしよう」

「大丈夫、俺の座右の銘は「捨てる神も居れば拾う神も居る」だから、信じよう!」


だが不景気で退職者が大量に出た時代、なかなか仕事は決まらなかった。

「今日はどうだった?」

「3社送ったけど、全部駄目だった」

「やっぱり難しいのかな」

「…」

後から履歴書を見たが自己アピールには「よろしくおねがいします」とだけ平仮名で書かれていた、バブルの時代はこれで通ったらしい。


母は精神的に不安定になっていった、いつも自分が悪い事をしていないか無いか気にし始めた。陶磁器のような心をを割らないよう私は本心を隠すようになった。

「味悪くない?」

「美味しいよ」

「このビデオ面白い?」

「面白いよ」

「こんな母でごめんね」

「そんなこと無いよ」

「いつもごめんね」

「大丈夫だよ」


あの男は危険で、母には本心を言えず、明日香とも家が離れてしまった。1人は寂しかったが、今だけは大人になって我慢しようと決めた。

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