第1章 純白の少年 第03話 リーマンショック

帰ると仕事に行ったはずのあの男が家にいた、ただならぬ雰囲気の中母は言った。

「あのね、お父さんはお仕事を辞めないといけなくなったの。

それでね、会社が貸してくれているこの家とも出ていかないといけなくなったんだ」


高度経済成長の終焉がリーマンショックで表面化した、いわゆるバブル崩壊である。

あの男は設計の腕は確かだが、正論を振りかざし上司に噛みつき嫌味を吐き捨てる、上層部から嫌われるタイプの人間だった。日頃の行いが祟り真っ先に切り捨てられた。

「これからどうするの?」

「分からない、とりあえず住む場所を探さないと」

「よく分からないけど、それって大変な事なんじゃないの?」

「大丈夫、お父さんは絶対に2人を助けるからな」

正直な所、私はこの状況を楽観視していた。この両親なら何とかしてくれると、出来ないはずなど無いのだと…。


次の日の朝、明日香にその事を話した。

「それって、会えなくなるってこと?」

彼女は速攻で泣いた、2歳の子供には重すぎる内容である。

「そう、なのか」

言われて初めて気づく

「やっと、幼稚園まで一緒に行けるようになったのに…」

徐々に私も涙が出てくる、3歳の子供には重すぎる内容である。

「ごめんね」

「嫌だ、嫌だよ…」

2人で泣きじゃくる、永遠と続く筈だった日々は永遠の涙へと変わった。

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