第3話 目覚めた力


「あなたは目覚めてしまったのですね」俺の話を聞いて、彼女は言った。「そうなる気がしてました」


「どういうこと?」


「あなたはショックを受けるかも知れません」彼女はためらいがちに言った。「多分ですけど、あなたの祖先は河童と交わっています。だから私はあなたに惹かれたし、あなたは河童の力に目覚めてしまった」


「俺が、河童の子孫だと?」


「いえ、人間と河童のハイブリッドです。まれにいるんです。先祖返りのように力を得る者が・・・」


「俺に一体、どんな力が?」


「それはまだわかりません。でもおそらく、何か強い霊力のようなものです。そういえば私たちの祖先の時代に、長老が盗賊どもを水辺におびき出して、体から電気のようなものを出して退治した、という言い伝えもあります」


 俺はこの先、どうなってしまうのだろうか?




 俺は今まで幽霊を見たことはなかったが、霊気のようなものを感じることはあった。それが今はどうだ、街中の至る所に怪異あやかしの姿が見えるようになってしまった。


 公園のベンチの裏側から、ベンチに座っている人のお尻をつついていたずらをする、小さな犬のような物の怪。


 信号機によじ登って辺りを見回している、猿のような物の怪。


 走っている自転車の荷台の上にまたがっている一つ目の子どものような妖怪。


 交通事故死亡者を悼む花束の上に浮遊する幽霊。


 花壇の上でミツバチに追い回されている、妖精のようなもの。


 ・・・こんなにいたんかい。



 そして俺は、会社でも怪異あやかしを見てしまった。


 そいつは俺の同僚なんだが、最近げっそりとしてきて顔色が良くないばかりか、背中から何か黒い煙のようなものが出ているように俺には見える。


 そいつは「悪い夢を見ているような気がするが、目が覚めると全く覚えていない」という。何か悪い霊にでも取り憑かれているのではないかという気がした。



 彼女に話したところ、おそらくそうだろうと言う。

「多分あなたはその人を救えるはず。私も手伝うよ」


 俺はその同僚をアパートに連れてきた。


 まず、彼女がそいつに催眠術を掛けて眠らせた。・・・そんな力があったんだ?


「意識をシンクロさせてみて」


彼女がそう言うので、俺はそいつの意識を覗くようにイメージしてみた。すると・・・。


 本当にそいつの夢の中へ入ってしまった。


 薄暗い建物の中で、そいつは必死で逃げ回っていた。追い回しているのは、3匹のイノシシのような物の怪。


 この物の怪は真っ直ぐしか進めないようで、あちこちの壁にぶつかっては方向を転換して追い回している。


 こいつは一晩中こんな夢を見ていたのか。どうりでげっそりするはずだ。


 方向転換を繰り返しながら逃げ回っていたそいつは、突然こちらに向きを変えて向かってきた。


 ぶつかる!と思った瞬間、そいつは俺の体をすり抜けていった。物の怪も同様にすり抜けていった。


 そりゃそうだ、ここは夢の中だから、俺は物体として存在するわけではない。だがそうすると、俺には何ができるのだろうか?見ていることしかできないのではないか?


『水辺におびき出して、体から電気のようなものを出して退治した、という言い伝えもあります』


 俺は彼女の言葉を思い出した。ここは水辺ではないが、俺にもできるだろうか?


 俺は精神を集中して、力をみなぎらせた。胸の前で両手の平を合わせ、目を閉じて力を溜めた。


 力が充分に溜まったと思ったとき、俺は目を開くと同時に、両手の平を合わせたまま前に突き出した。


 激しい閃光とともに、稲妻のような電撃が俺の手から物の怪に走った。物の怪は3匹とも黒焦げになって動かなくなった。


 何だこの力は?これが俺の力なのか?


 だが、この物の怪どもは序の口だったようだ。


 廊下側からのっそりと現れたのは、象のような巨大で牙を持った物の怪だった。


 あっ、こいつ知ってる。ばくだ。夢を喰らうという伝説の幻獣。全部こいつの仕業だったのか。


 ばくは象のような鼻をふりまわしてきた。俺は咄嗟に後ずさった。それが当たるはずもないのに。


 いかん、気圧けおされてる。自分の力を信じるんだ、俺。


 俺はもう一度胸の前で両手の平を合わせ、そこに気を集中すると、再び電撃を放った!


 電撃はばくに命中し、ばくはすさまじい叫び声を上げる。


 と、その時、ばくの姿がゆらゆらと揺れたかと思うと、突然消えてしまった。


 しまった、取り逃がした!? どこへ行った?


『こっちだよ!戻ってきて!』彼女の声が聞こえた。


 俺は気を集中して、夢の中から急いで現世に戻る。




 目を覚ますと、彼女がばくの鼻を掴み、黒猫が足に噛みついていた。ばくはもう、大分弱っているようだ。


「離れて!」


 彼女と猫が離れるや否や、俺はとどめの電撃を打ち込んだ。ばくは黒い煙となって消えた。


「やった~!」


 彼女は俺に抱きついてきた。黒猫は俺の足にスリスリしてきた。


 俺はふ~っと深く息を吐いた。






「本当にあんな妖怪がたくさんいるんだろうか?」


「仲間内の口コミでは、結構いるみたいだよ」


「・・・じゃあ、やってみるか。アパートに看板を出すわけにも行かないしな」


 俺はSNSに怪異あやかし相談サイトとそのバナーを作った。


『よろず怪異あやかし相談引き受けます

 飛島高雄とびしま たかお&桜子&クロ共同WEB調査事務所』



   (終)


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オカルトダイバー @windrain

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