第12話:さっぱりおいしく!塩ヨーグルトの生ソース

2023年5月7日


「おはようございまーっす!」

「おはよう! すっかり日焼けしたみたいだな」


 いつものように後輩が来る日曜。だが今日はいつもとはちょっと違う。ゴールデンウィークを使って沖縄旅行に行っていたのだ。今日は連休最終日なので、帰宅ラッシュを避けるために昨日のうちに帰ってきたと聞いている。


「楽しかったですよ沖縄! 海水浴にはまだ早いんですけど、水着でビーチバレーとかやってました」


 彼女は焼けた肌によく似合う、鮮やかな花柄のシャツを着ている。アロハシャツならぬ、かりゆしウェアというやつだ。


「そうそう。お土産もありますよ」


 シーサーの絵が描いてある紙袋を手渡してきた。中には箱に入った泡盛、そして香辛料の小瓶がいくつか。


「先輩、お菓子よりもこういうやつのほうがいいかなって思いまして」

「これは……島七味というのか」


 島唐辛子やヒハツなど、沖縄特産の香辛料を混ぜた特製の七味唐辛子のようだ。


「初めて見たよ。ありがとう。泡盛も結構いいやつじゃないか?」

「普段お世話になってますからね。あと一応、お菓子もちょっと持ってきました」


 彼女はバッグから沖縄銘菓「ちんすこう」の個包装をいくつか取り出す。


「これ、クッキーみたいなんですけどラードが練り込んであるんですよ。はい、どうぞ」

「そうなのか! 聞いたことはあるけど食べるの初めてかも知れない。さっそくいただこう」


 クッキーの一種のようだが、噛んでみるとやや粗目の食感に素朴な甘みがある。


 *


「沖縄、飯も美味かったか?」

「もちろん! 沖縄そばは3件くらい食べ比べましたし、豚の角煮とか豚足とか、あと新鮮なお刺身とか!」


 これについては旅行先から写真が送られているのだが、改めて聞いてみたところだ。


「そうか。じゃあ今日はさっぱりしたやつのほうがいいかな。ヨーグルトソースなんてどうだ?」

「パスタにヨーグルト? 意外な組み合わせですね」


 もちろん、このメニューも旅行先での食事を見ながら思いついたものだ。


「今回は普通にパスタを茹でる」

「あ、手伝います」


 俺が冷蔵庫から材料を用意する間に、鍋にお湯を張って火にかけてくれる。


「ヨーグルト、一人前あたり大さじ3から4杯、50ml程度だな」


 2つ用意した深皿に、それぞれプレーンヨーグルトを取り分けていく。


「本当は水切りしたほうが良いんだけど、まあいいだろう」


「フライパンでソースを作るかと思ったんですが、生なんですね」

「乳酸菌をそのまま活かしたいからな。これに塩を3グラム弱、小さじ半分弱ってとこだな。そこに味の素を少々。ソースの量としては濃い目に味付けていく」


「ソースというより塩ヨーグルトって感じですね」

「そうだな。トルコ料理で使うというやつを参考にしてみた。ニンニクも入れるか?」

「今日はチューブのおろしニンニクなんですね」

「ああ。生だと刺激が強すぎるから、こういう場合はかえってチューブのほうがいいんだ」


 ニンニクは栄養価が高いが、生で摂取すると胃腸を痛めることがある。なので、加熱せずに食べる場合は基本的にチューブを使用するようにしている。


「あんまりたくさん入れても仕方ないぞ。小さじ1杯くらいがいい」

「ニンニク、匂いが平気なときはついつい多めに入れちゃいますからね」

「この前もらった新玉ねぎも使おう。小粒だから半分ずつくらいかな」


 皮をむいて縦に半分に切り、さらに縦向きに薄切りにしていく。


「とりあえず、これを混ぜれば基本形は完成だ。あとはスパイスなどをお好みでな」

「しょっぱいヨーグルト、初めて食べるんですけど意外と馴染みますね」


 後輩が、混ぜたヨーグルトソースをスプーンですくってなめながら言う。


「まあな。言ってみればチーズに近いからな。旨味成分は味の素で補っているし」


 チーズは昆布などと同様、グルタミン酸が豊富に含まれている。味の素をヨーグルトに加えることで擬似的にチーズを再現することができるのだ。


 *


「そろそろ茹で上がるな。よく湯切りして、っと」


 水っぽくならないように念入りに湯切りしたパスタを、半分ずつ深皿に入れる。


「あ、水で締めたりはしないんですね」

「サラダ用ならそうしてもいいな。ただ、程よく温かいほうが好みだ」


 ヨーグルトソースは、どちらかといえばドレッシングに近い。冷製パスタとの相性も悪くないだろう。


「あとはよく混ぜて、出来上がりだ!」

「いただきまーす! うん、さっぱりしておいしい!」

「新玉ねぎもシャキシャキだし、まるでサラダみたいだな」


 *


「ところで先輩、アレンジってありますよね?」

「ああ。例えばバジルやパセリを入れてみたり、ガラムマサラを入れればライタっていうインドのサラダ風になるぞ。今はどれも無いけどな」

「辛いのはどうですか?」

「もちろんありだな。ただ、今日は胃腸をいたわるために程々がいいと思ったんだ」


 実際、トルコでは刻んだ生唐辛子をたっぷり入れたりするらしい。


「ねえ先輩。私の持ってきた島七味、絶対合うと思うんですけど」

「そうだな、ちょっと試してみるか」


 ふたを開けて封を切ると、エキゾチックな南国の香りが漂う。


「やっぱり、相性抜群です!」

「まろやかなヨーグルトには強めの香りがぴったりだな!」


 結局俺たちは、パスタを食べ終わったあとも「おかわり」としてヨーグルトサラダを作って食べた。今度は塩もみして水切りしたキュウリを使ってみたが、こちらも島七味によく合う。


 *


「ごちそうさまでした! 塩ヨーグルト、この夏は何度もリピしちゃいそうです」

「アレンジは無限大だから色々試してみるといいぞ」


「そういえば連休中、先輩も旅行に行ってたんですよね?」

「旅行と言うか、里帰りだな。去年の正月以来に帰ってきた。こんなのも持ってきたぞ」

「それは……圧力鍋?!」

「当たり! 母親が買ったけどろくに使ってないみたいだからもらってきた」


 圧力鍋があれば料理のレパートリーが広がる。短時間でいろいろ作れるのは嬉しいところだ。


「あと、これはお土産だ」

「リキュールですか? きれいな色してますね」

「ああ、地元特産の果物のな。もらった泡盛に比べたら安物かも知れないが、なかなか美味いぞ」


 *


「それじゃ先輩、また明日! 新料理にも期待してますよ!」

「ああ、いろいろ試してみるからな!」


 彼女を見送って、圧力鍋を改めて見る。沖縄料理として送られてきた数々の写真のうち、ぜひ試してみたい料理がある。来週までに形にして、ついでにパスタにアレンジできないかと考えてみるのであった。


***


今回のレシピ詳細

https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330656908359269

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る