第11話:バター醤油!和風きのこパスタ
2023年4月30日
「おはようございます!」
「おう、おはよう!」
今日も後輩はやってきた。手には大きな袋を持っている。
「先輩、実家から新玉ねぎたくさんもらったんですけど、どうですか?」
「お、ちょうど玉ねぎを買おうと思ってたところだ。ありがとな」
彼女が持ってきたのは、袋いっぱいの小ぶりの新玉ねぎ。これだけあれば当分は困らさなさそうだ。
「ねえ先輩、さっそく作ってくれるんですよね?」
「そうだな。えーっと、何がいいかな……」
期待のこもった眼差しを向けられた俺は、冷蔵庫の中を物色する。シメジがあった。これを使おう。
「味付けはバター醤油でどうだ?」
「いいですね!」
この前の明太子の時に買ったバターがまだ残っていたので使うことにする。
「今日は普通にお湯を使うから、用意してもらっていいか?」
「はーい♪」
俺が玉ねぎを切っている間、彼女が鍋にお湯を張って火にかけた。
「薄切りにした玉ねぎはレンジにかけて、と」
小ぶりの新玉ねぎを2個、だいたい200グラム分くらいを薄切りにして、ラップをかけずに600ワットで2分。
「あ、新玉でもレンチンするんですね」
「まあそのへんは好みだな。シャキシャキがいいって人もいるだろうけど、今日は柔らかくしたい」
レンジにかけている間にシメジの石づきを切り落として、ほぐしていく。
「あ、手伝いますよ」
「悪いな」
切ったそばから、ほぐすのを手伝ってくれる。
「そういえば先輩、きのこって洗います?」
「パックから出したばかりのものは洗わないな。使い残しは洗うときがあるけど」
「私もそうなんですけど、母は気になるみたいなんですよね」
「ああ。たしかに世代によっては抵抗感があるかもな」
もちろん野生のきのこであれば別だろうが、清潔な環境で人工的に栽培されてパック詰めされたきのこは、そのままでも洗う必要はないのである。むしろ、うま味や栄養を流してしまうのがよくないとされている。
*
火にかけたフライパンにバターを落とし、電子レンジにかけた玉ねぎに軽く塩を振って弱火で炒めていく。軽く色がついたところできのこを投入し、醤油を大さじ1杯半ほどかけていく。
「めんつゆでもいいんだけど、新玉はもともと甘いからな。俺は醤油で十分だと思う」
「バター醤油、香ばしくて大好きです!」
「このままご飯にかけてもいいけど、あくまでもパスタだからな」
*
炒めていくうちに、シメジの水分が出てきた。
「この汁もいいんですよね。昔、モヤシとかと一緒に炒め物をした時に、汁を捨てたら母に怒られちゃいました」
「それこそうま味と栄養の宝庫だからな。無駄にするなんて考えられない。おかずにするなら片栗粉でとろみを付けるところだが、パスタなら汁を全部吸ってくれるんだ」
*
パスタが茹だったので、フライパンの中に入れる。湯切りする前に少し茹で汁を取り分けておく。
「今回は普通に入れてもいいが、もし汁気が多かったら少し早めに入れるのがコツだな。残った汁をアルデンテのパスタに吸わせるんだ」
予想よりも水分はむしろ少なめだったので、茹で汁を入れて調整する。
「多めに作ると汁気がたくさん出たりしますからね」
「水分の絶対量は増えても蒸発する量は変わらないからな。さて、仕上げに久しぶりにこいつの出番だ」
俺は味の素の蓋を開け、フライパンの中に6回振りかける。
「そういえば先輩、ケチャップとかのトマト系の時は味の素を使わないんですね」
「ああ。トマトやチーズには同じグルタミン酸が豊富に含まれているからな」
なお、通常ケチャップにおいて「調味料(アミノ酸等)」こと、うま味調味料(化学調味料)の類は使われていない。それにも関わらず「化学調味料無添加」などという優良誤認を行わない(少なくとも俺は見たことがない)ところも、俺がケチャップを好む理由の一つである。これはケチャップの主要客層が、その手のエセ健康情報に踊らされないということであり、つまりケチャップ愛好家は情報強者であるのだと勝手に思っているのだがどうか。
閑話休題。
「さて、できたぞ」
二つの皿に均等に盛り付けた。
「100グラムしか使わなかったんですけど、きのこと玉ねぎは多めに入れたからボリュームありますね」
「だな。そういえばダイエットとか言ってたからちょうどいいなと思ってな」
そして、冷蔵庫からチューブの柚子胡椒を取り出した。
「タバスコでもいいけど、せっかくの和風だからな」
「ありがとうございます! 私、柚子胡椒好きなんですよね」
*
「きのこパスタといえば、私にとってはおばあちゃんのイメージなんですよね」
食べながら後輩が話しかけてくる。
「よく作ってもらったりしてたのか?」
「そうじゃないんですよ。家族でファミレスに行くと、いつもおばあちゃんはきのこソースを頼んでたような気がするんです」
なるほど。洋食や脂っこいものが苦手だと、さっぱりした和風パスタというのはちょうどいいのかも知れない。
「子供の頃は、他においしいものがたくさんあるのに、なんできのこパスタなんだろうって思ってましたが、これもいいものですね」
「そうだな。今回は敢えてベーコンとかも入れずにシンプルに作ったけど、それでも十分美味いからな」
子供の頃は、なんでもかんでもハムやウインナーが入っているほうが好きだったが、今では野菜のおいしさもわかるようになってきた。
*
「ふう、ごちそうさまでした!」
今日も満足そうな笑顔で喜んでくれているのがとても嬉しい。
「そうだ先輩、キノコで思い出したんですけど、マリオの映画がヒットしてるみたいですね」
「そうだな。俺のところにも親からそういう話が来たぞ」
俺たち大学生の親世代はだいたいアラフィフで、子供の頃にファミコンが発売された直撃世代が多い。まさにテレビゲームの進化とともに育ってきた世代だ。とりわけ「テレビゲームの顔」であったマリオへの思い入れは深いだろう。
「ねえ先輩、マリオ持ってましたよね?」
「ああ、ミニスーファミに何本か入ってたはずだ」
俺は、ソフト内臓の復刻版であるニンテンドークラシックミニを棚から取り出す。コントローラも2つ付いている。
「あ、マリオカート入ってるんですね。やりましょうよ!」
「まあ待て、まずは後片付けからな」
パッケージを見てはしゃぐ彼女をたしなめる。ゲームの前にお片付けか。いつの間にか俺も親みたいなことを言うようになったんだなと、妙な感慨にふけるのであった。
***
今回のレシピ詳細
https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330656555528923
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