「僕」は、自家製の唐辛子を育てることを決意します。よく作る料理に欠かせない食材の、コストを抑えるために。

慣れない栽培に奮闘する男の物語と、一言であらすじを表わすのはためらわれます。夫を見守る妻の絶妙な距離感が温かく、日常のささやかな幸せが目の前に迫ってきました。一つ一つの文章が優しくて、時間に余裕があるときにゆったり読みたい作品になりました。急ぎ足で読んでしまうと、本当にもったいないです。噛めば噛むほど味わいが広がる唐辛子のように、繰り返して読んだ回数だけ深みが増すのですから。

高校国語の教科書に掲載してくれないかなぁと思う、現役国語教師です。

にこやかに笑う奥さんに美味しいペペロンチーノを食べさせたい。
その一念で作り始めた唐辛子。
ようやく手に入れた唐辛子でペペロンチーノを作ります。

相変わらず、にこやかに笑う奥さん。
ルーティーンは幸せな日々の追憶か、はたまた奇跡を願う祈りなのか。
変わらぬ日々がどれだけ貴重かを痛感する一編です。

初めて挑む唐辛子作り。
手探りで始めた小さな園芸。
優しい奥さんに見守られながら。
さあ、唐辛子を育てよう。
きっと美味しいペペロンチーノができるだろう。
きっと奥さんも、喜んでくれるから。