キミへの返事

北きつね

まだ、私のこと・・・。好き?


「キミが好きだ。付き合って欲しいとは言わない。僕が、キミを好きな事を知って欲しかった」


 僕は、なけなしの勇気を振り絞って、キミに告白をした。


「え?」


 困惑しているキミに申し訳なさがこみ上げて来る。


「困るよね?」


「ううん。嬉しい」


「ありがとう」


 僕は、キミから”嬉しい”と言われただけで満足だ。


「待って!」


「え?」


「返事・・・。ちょっとだけ待って・・・。欲しい。君の誕生日に・・・。返事をする。から、電話を掛けてきて・・・。欲しい」


「わかった」


 僕の初めてで、最後の告白は、終わった。


 キミは、ご家族の都合で、僕の誕生日前に引っ越してしまったね。

 僕は、キミからの返事を待っている。


 あれから、何回寝たのか覚えていない。

 僕は、また一つ年齢を重ねたよ。


 鳴らないはずの電話が・・・。誰?


「もしもし」


『・・・』


「もしもし?」


『解る?』


 心臓が”ドクン”と跳ね上がるのが解る。


「もちろん」


 言葉が出てこない。

 もう聞けるわけがないと思っていた声だ。


『まだ、私のこと・・・。好き?』


「え?」


『誰!何!きゃぁぁぁぁ』


 電話が切れた。

 折り返しても、通じない。


 すぐに警察に連絡をする。

 キミの住所は解らない。電話番号は解る。警察に説明する。


 僕は、キミに返事をしていない。


”まだ、好きだと!”


 警察からの折り返しを待っている。

 1分が1時間にも感じる。キミに告白して、返事を聞く為に、キミが居なくなってしまった家まで行った。近くの公衆電話から、キミの家に電話をかけた。むなしいアナウンスを聞いていた時とは違う。


 キミの声が聞けた。

 キミが話しかけてくれた。

 キミが僕の電話番号を覚えていてくれた。

 キミが・・・。キミが・・・。






 僕は、キミが居ればよかった。僕の側に居なくても、キミが幸せなら・・・。


 僕は、キミを・・・。

 違う。僕の告白の結末を台無しにした奴を許さない。


 何年。何十年。

 キミからの電話を、警察からの電話を待った時間に比べれば、短い。





 覚えている?

 君がやったことを?


 君が出て来るのを待っていたよ。


 そうだね。君は僕を知らないよね。

 でも、僕は君をよく知っているよ。大丈夫。君がやったことを君自身に体験してもらうだけだよ。



 やっと、僕はキミに返事ができる。

 そうしたら、キミは僕の告白への返事を聞かせてくれるのかな?

 あの時には返事が出来なかったからね。


 そうだ。

 まずは、邪魔をした者に報いを受けてもらおう。


 この日のために、準備をしてきたよ。


”僕は、キミが今でも好きだ”


 ねぇ君は、なんで僕から彼女を奪ったの?

 ねぇ僕はこの何十年。充実していたよ。君を待っていたからね。

 ねぇ何で黙っているの?君が彼女を僕から奪ったのだよ?


 君を探すのは簡単だったよ。


 彼女は、あの時に僕に聞いたよ。


”まだ、私のこと・・・。好き?”


 僕はね。彼女の問いに答えられなかった。君が邪魔したからだよ。彼女の悲鳴が、僕の返事をかき消した。


 ねぇなんとか言ってよ。黙っていたらわからないよ?

 腕の一本くらい気にならないでしょ?だって、僕は君を待っていたのだよ?


 彼女を助けられなかった。

 お義母さんを助けられなかった。

 お義姉さんを助けられなかった。

 お義父さんを助けられなかった。


 君を殺したかったよ。でも、出来なかった。君は、僕が見つける前に、国に保護されちゃったよね?

 裁判にも行ったよ。君は、形だけの謝罪で許された気になっていたよね。退廷するときに、へらへら笑っていたのをしっかりと覚えているよ。


 え?何?

 違わないよ。君が行ったことを君に感じてもらうために用意した場所だよ。


 大丈夫だよ。

 どんなに泣いて叫ぼうが、周りには聞こえないからね。僕と彼女が住んでいた町には沢山の山があってね。その山を買い取って、奥地と呼ばれる場所だからね。誰も来ないし、叫んでも、誰にも聞こえないよ。あぁもしかしたら、野犬とかが居るかもしれないけど、君が喰い殺されたら困るから、しっかりと野犬避けはしてあるから安心してくれていいよ。


 始めようか?


 え?

 これが気になる?


 これは、君に楽しんで貰おうと準備した物だよ。

 大丈夫。ナイフや包丁は、刃を潰してあるよ。ほら、あまり切れないだろう?


 煩いな。頬に傷が付いた位で叫ばないでよ。


 安心していいよ。

 君は、死にたいと言っても死ねない状態にしてあげるからね。


 そうそう、そのために、僕は勉強を頑張ったよ。

 君に邪魔された告白の返事を聞く為に、君が邪魔だからね。でも、簡単に死なれても困るからね。彼女とお義母さんとお義姉さんとお義父さんにしたことを君が味わってもらわないとね。


 知っていた?

 裁判では語られなかったけど、彼女は君が火を付けた時には、まだ生きていたのだよ。君が、そこで彼女だけでも外に連れ出してくれたら、彼女は・・・。


 いいよ。そんなに感激して泣かなくても。

 君にはしっかりと楽しんでもらえるように考えているから、安心してね。


 まずは・・・。

 彼女が約束した、僕の誕生日まで、君には楽しんでもらう。


 大丈夫。たったの30日だよ。

 僕が、君を待っていた期間に比べたら、あっという間だと。


 僕も頑張ったのだよ。

 いろいろ勉強したからね。


 あっ逃げてもいいけど、近い民家まで、徒歩だと6時間くらいかかるからね。

 手枷と足枷は特注品だよ。苦労したよ。首輪もしっかりしておいてあげるからね。


 それじゃ10日後にまた来るね。

 水や食料は、そこにある物だけだよ。大丈夫。しっかりと計算されているよ。






 やぁ久しぶり。

 ん?まだ元気だね。


 君の腕くらいなら簡単に折れるよ。

 いい音だね。


 そんな叫ばないでよ。

 彼女やお義母さんが止めてと言って止めた?止めてないよね。


 なんで、君がしなかったことを、僕がしてあげる必要があるの?

 君を助けても彼女は戻ってこないよ?彼女を返してくれるの?お義母さんを返してくれるの?お義姉さんを返してくれるの?お義父さんを返してくれるの?


 ねぇ答えてよ。

 黙っていたら解らないよ。君は助かりたいのでしょ?

 彼女もお義母さんもお義姉さんもお義父さんも死にたくなかったよ?なぜ、考えなかったの?ねぇ、なんとか言ってよ。黙っていたら解らないよ。


 ほらここをよく見てよ。君の汚い鼻血で、彼女に見せようと思っていたズボンが汚れちゃったよ。どうしてくれるの?


 汚いな。なんで君は殴ったら血が出るの?君に血は必要ないでしょ?


 そうだ。君は彼女たちに火を付けたよね。

 僕は、君に水をプレゼントするよ。大丈夫。大丈夫。これから暖かくなるから、多少寒くても平気だよ。外の雪を溶かして作った水だから冷たいと思うけど、平気だよね。


 それじゃまだ10日後にくるね。

 簡単に死なせないよ。自殺ができない様にしようかな?






 久しぶり。


 何?死にたい?殺せ?


 ははは。面白いことをいうね。

 死のうと思ったら、舌を噛み切ればいい。他にも、頭を柱に打ち付ければ、傷がついて出血や化膿で死ねるよ。


 頭?大丈夫?

 君の頭には何が詰まっているの?あぁゴメン。ゴメン。頭の中まで精子が入っているのだったね。


 君の告白を聞きたいわけじゃないよ。

 戯言と同じレベルで、僕には必要ない。今更、後悔しても遅いよ。本当に、何も考えていなかったのだね。


 君の両親を見つけたよ。

 そうそう。君を必死に探していたよ。


 もう一つ、教えてあげるよ。

 君の妹。そうそう、君が凄く可愛がっていた妹さん。僕の誕生日が結婚式なんだって。偶然だね。


 そんな顔しないでよ。怖くて、手元が狂ってしまうよ。


 何をしているのか?

 君を探しているご家族に、君を見せてあげようと思ってね。


 大丈夫。大丈夫。

 ご家族には手は出さないよ。僕の邪魔をしたのは、君だからね。僕は、君の代わりに、君の妹さんを祝ってあげようと思っているだけだから安心して。


 そうそう。

 次は、6日後に来る。いろいろ準備が必要になってしまったよ。楽しみにしてくれていいよ。きっと、君も楽しめると思うよ。




 久しぶり。

 今日は大荷物でごめんね。何?助けて欲しい?


 ははは

 何度も言わせないでよ。許して欲しければ、彼女を返してよ。できないでしょ?

 だから、僕の為に君は生き続けないとならない。


 大丈夫。大丈夫。僕に任せてよ。君を死なせないよ。


 まずは、指を切り落とそう。


 え?何?

 許して欲しい?


 ゴメン。何を言っているのか解らない。君は、助けて欲しいと言った彼女に何をした?

 お義姉さんも犯して殺したのだよね?


 知っていた?お義姉さんは、殺された翌月に結婚が決まっていたのだよ?

 え?相手?

 知っているよ?君を呪いながら自殺したよ?僕の計画を聞いて、眠るように死んでいたよ。

 僕も彼も、お互い以外には、何も・・・。そう、君に奪われてしまって、何も無い。でも、君には心配して探してくれる家族が居る。そういえば、君と一緒に悪さをしていた友達も居たね。


 本当に、煩いな。

 足の指が無くても生きて行けるよ。


 次は、手の指だ。

 大丈夫だ。両手のバランスが取れるようにするからね。


 録画もしているから、泣き叫んでいいよ。

 裁判で語っていないことがいろいろあるよね?


 え?無い?


 そう?

 次は、小指を落すよりも、潰した方がいいね。

 万力で挟んで力を込めてあげるよ。


 喚いても解らないよ。

 君や、君の仲間や、父親がやったことを告白してよ。


 僕の告白の返事を邪魔したのだから、しっかりと君の告白を聞いてあげるよ。


 そうそう、君の罪を揉み消した話とかに興味があるよ。

 君の家族は、君を探していたのは、君を保護する為で、君の口から、君の父親や妹さんが何をやったのか知られるのを恐れているのでしょ?


 大丈夫。

 僕も、いろいろ調べたからね。まだまだ時間はたっぷりとある。


 僕の誕生日まで、あと3日。もっと解りやすく言えば、3,760分だよ。


 大変だったよ。

 君の妹さんの結婚式場を調べて、式場の人間を買収して、バックドアを仕掛けるのに苦労したよ。


 何をする?

 言ったよね。君の妹さんへのお祝いだと、何度も言わせないで、恥ずかしいよ。




 まだ時間があるよ?


 もう辞めてくれ?

 なんで?僕が辞める必要があるの??意味がわからない。


 君が辞めなかったことを僕が辞める必要性はないよね?


 さぁ仕上げをしよう。


 君の罪の告白も録画できた。僕には必要ないけど、妹さんへのお祝いだからね。ビデオレターは、結婚式の定番でしょ?


 君は、罪を抱えて、生かされ続ければいい。別に僕は、君に罰を与えるつもりはない。


 これは儀式だ。

 僕の告白だ。


 君のご家族が君を見つけて、助けに来てくれれば、もしかしたら腕や足は治るかもしれないね。よかったね。


 そうそう。

 僕は、先日から君が使っていた薬を常用しているから安心して、寝なくても平気なんて素敵だね。君とこうして話し続けられるのだから、君が気を失ったり寝てしまったら、優しく起こしてあげるよ。熱した棒もまだまだあるから安心していいよ。


 右耳を切り落とそう。左耳だけ切り落としたらバランスが悪いからね。鼻も潰しておこう。あと、股間はしっかり念入りに破壊しておくよ。あぁ君がお義姉さんにやったことが残っていたね。丁度いいものが無いから、焼いた鉄の棒でいいかな。これを、お尻の穴に差し込んであげる。嬉しいでしょ?


 忘れていたよ。

 君は、彼女を殴ったよね。忘れていたよ。しっかりと殴ってあげる。あと、お義母さんのお腹を蹴ったよね?


 寝ちゃだめだよ

 髪の毛もまとめて引っ張れば痛いから目が覚めるだろう。お義父さんは、ナイフで刺したのだよね。裁判で嬉しそうに語っていたよね。


 まだ寝ちゃだめだよ。

 これから何が行われるか、しっかりと聞いていなきゃダメだよ。

 その為に、骨伝導で音が聞こえるようにしているのだし、話せるように喉を潰していないでしょ?


 動画を、君の妹さんの結婚式で流してあげる。

 バックドアが仕掛けられていて、電源も別系統にしているから、部屋の電源を落としても意味がないから、面白いことになるだろうね。そういえば、君のお父さんは、議員先生だったね。そして、お母さんは官僚だったね。これが流れたら大変だろうね。


 そういえば、君は犯罪者で人殺しで暴行の常習で放火魔なのに、名前が流れなかったね。不思議だね。

 被害者の名前は、毎日の様に流れたのにね。不公平だから、僕は君の小学校から大学まで全部を詳細に紹介してあげるよ。これで、君も人気者だね。


 あと、小屋が寒いでしょ?

 僕が小屋から出たら、小屋を温めてあげる。50度くらいまで上がるはずだよ。もう、飲み物は飲めないでしょ?自分では死ねない状況で、徐々に死に向かう状況を楽しんでね。

 その為に、薬まで使って、君の精神が壊れないようにしたのだよ。




 結婚式場やネットでこの動画を見ている人たち。


 僕の告白は楽しんでもらえたかな?


 僕は、このまま彼女の下に向います。


 彼女に、告白の返事を聞かなければ、そして彼女からの最後の問いかけに答えを伝えて来る。


 この小屋の下には、熱を発生させるような装置を設置している。

 皆が僕の告白を聞いている頃には、50度くらいにはなっていると思う。寒くないように、温めておいてあげる。

 彼が、どこまで耐えられるか解らないけど、頑張って僕の小屋を探してね。


 彼が死んでいようと、生き残ろうと、僕はどちらでも構わない。










”まだ、私のこと・・・。好き?”


”もちろん。好きだよ”


 やっと、君に答えられる。


 迎えには来なくていいよ。

 僕が、キミを好きなことだけを知っていてくれれば・・・。

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