足跡
「ありがとう。」
いつも通りの目覚めだ。ベットから降りて伸びをし、台所へ向かう。大量にある調味料の中から、コーヒー豆の入った袋を手に取る。ケトルでお湯を沸かし、その間に、豆を挽く。ガリガリという音が部屋に響く。苦味と酸味の匂いがほのかに鼻をくすぐる。汽笛のような音が鳴り、お湯が沸く。以前、海外に旅行した時に買った、骨董品のドリッパーにフィルターをセットし、サーバーの上に置く。ケトルでお湯を注ぐ。湯気が顔を湿らす。染み込むのを待ってから、もう一度お湯を入れる。深い褐色の液体が、一滴一滴溜まっていくのを眺める。最後の一滴が落ち、水面を走って、静かに消える。オレンジの鮮やかな一滴だ。注ぎ終わったコーヒーをマグカップに移し替え、それを持ってもう一度ベットへと戻る。ベットの上にあぐらをかいて座る。着ているパジャマが擦れる。ベット脇のカーテンを開ける。乳白色の光が入り込んでくる。
「満月だ。」
湯気が天に向かって優雅に伸びていく。
「おはよう、有月」
寝静まった街に降り注ぐ光が、少しだけ喜んでいる気がした。
反射代名詞 菅原 或サ @pipinon
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