第2話 沼にハマったのはどちら?

「ありがと親友ー! 助かったわ!」


「ったく、嘘ついてまでプロポーズを回避しようとするなんてバッカじゃないの!」


「だってさー、まだ遊びたいじゃん? それに、彼より良い男と出会うかもしれないしさー!」


「二股なんてやめなさいよ!」


「そんな事しないよ。バレたら終わりじゃん。もっと良い男を見つけたら、またいつもみたいに上手くやれば良いんだし」


「お得意のアカ特定? ったく、騙して鍵アカ開けようとするなんて信じらんない! バレたらどーすんの?! 一気に嫌われるわよ!」


ごめんよ。親友。

貴女はいつも正しい。


けど、私は親友みたいに真っ直ぐ生きていけないんだよ。好きな人がみつかると、いつも裏アカを探してた。おかげで、アカウントの特定は得意になった。この親友は、私の悪癖を知ってるからSNSはしていない。


私みたいなのがいるから、絶対しないって言ってた。だから安心して、親友と過ごせる。


「大丈夫。プロポーズしようと思ってんだもん。バレてないよ」


「結婚するなら、バレないうちにアカウントを消しなさい。スマホから証拠を全て削除するの」


「やだ! だって、カズくん恋人なのに鍵アカ教えてくんないんだよ! 聞いたけど、SNSは嫌いだからやってないって言われたんだもん!」


「これからも見るの?」


「……うん。だって、見て! 私が作った肉じゃが載せてくれたの! 美味しいって書いてあるじゃん!」


「味、濃かったって書いてあるね」


「だからね! 次は少し薄味にしたの! そしたら今まで食べた肉じゃがの中で一番美味しかったって!」


親友はため息を吐いて、私の肩を掴んだ。


「アカウント見るのやめな。結婚するんでしょ? このアカウントだって、本当に彼のものか分からないじゃない。よく見なさいよ。皿だってありふれたもので特徴はない。肉じゃがを作ったタイミングは合うけど、この世界に晩ごはんに肉じゃがを作る家庭がどれだけあると思う?」


「……それは、そうだけど……。これは彼のもので間違いないわ!」


「エミリにしては不安そうね。確実に、彼のアカウントなのよね?」


「フォローしてるのは彼の好きなアイドルだし、このアカウントに載ってるもの、全部好きだって言ってたわ。だから、すんなりお付き合いできたのよ!」


「コレ、よーく見るとフォローしてんの芸能人だけなのよね。ねぇ、このアカウントを彼のものだと思った理由があるわよね? 教えて」


親友の真剣な表情に、どんどん不安が募っていく。


「彼のスマホを……見たの。そしたら、このアカウントがあったから覚えて……探したわ」


「なるほどね。最後の忠告よ。今すぐ架空のアカウントを消しな。アカウントを見るより、現実の彼と向き合う方が良いわ。結婚したら、毎日一緒にいるのよ。そのうち絶対バレる。夫婦関係を壊したくないならやめな。でなきゃ、友達やめるわよ」


「……私がやってる事、そんなにひどい?」


「犯罪じゃないけど、嫌がられるのは確かよ。私はもし彼がエミリと同じ事してるって知ったら、別れるわ。それにさ、芸能人しかフォローしてないのになんでエミリは相互フォローになってんの?」


「ホントだ……!」


「案外、彼も気がついてるのかもね。アカウント、消しなさいよ」


「やだよー……バレてたらアカウント消した途端にフラれたりしない?」


「知らないわよ。私だったらSNSだけの偽りの関係なんて要らないわ」


「SNSが本音って事もあるじゃん! その繋がりに、支えられる事もあるのよ!」


「そんな風に使ってればね。エミリは、そんな健全な使い方をしてるとは思えないけど。分かってる? SNSは、ずーっと文字が残るのよ? デジタルタトゥーって知ってる? 消したって、コピーされてるかもしれないわ」


「……けど、これのおかげでカズくんと付き合えたのに……!」


SNSで本音を確認して、現実と向き合えば失敗しない。裏アカを特定して学生時代の女の争いを回避してきた私は、SNSに書かれた事が本音だと思っている。匿名だからこそ、言える事もあるじゃん?


ピロンッ……!


通知音がした。


『彼女にプロポーズしようとしたけど、うまくいかなかった。これはまだ時期じゃないって事なんだろう。半年後、彼女の誕生日にスイートのホテルを予約した。ここでプロポーズに失敗したら、彼女の事は諦めよう』


「半年後……って書いてある……」


「みたいね。コレは、エミリに向けたメッセージなのかしら。それとも単なる彼の愚痴?」


「分かんない……! どうしよう……!」


さっきまで、彼をキープしてもう少し遊ぼうと思ってたのに彼に捨てられるのが怖くてたまらなくなった。


「もしもしカズくん! 今から会いたい!」


気が付いたら、彼に電話をかけていた。

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