最強の剣聖は転生して二度目の人生を謳歌する

勇者れべる1

第1話 最強の剣聖、転生する


剣聖・・・それは剣を極めし者。

ワシの名はフォルス・サヴァント。

巷では特級剣聖等と呼ばれておる。


ゴホゴホ


「大丈夫ですか、師匠!」


しかし老衰には勝てず、最強の剣技を何の役にも立てぬまま最後を迎えるのだ。

後任も育てたし、戦場にも身体が動く限り出陣し貢献した。

しかしワシも剣聖である前に一人の人間、もう少し時間を有意義に使えなかったのだろうか・・・と今更ながら後悔している。

ワシの目の前には麗しい金髪ポニーテールの美少女がおる。

彼女は貴族でありワシの最強の弟子「アリシア・シャールロッテ」じゃ。


「剣以外何も教えてやれなくてすまなんだ・・・」


「何を言ってるんですか!」


もしワシが冒険にでも出て行ったら・・・彼女を一緒に連れて行けたら、広い外の世界を見せてやれたかもしれない。

貴族としての贅沢もワシの真似をして質素な暮らしに等拘らなければ、贅沢な暮らしを満喫できたのかもしれない。

ただただこの弟子が不憫でならないのが心残りだった。


「ワシの心残りはそれと最終奥義を教えてやれんかった事じゃ、ごほごほ」


「身に余るお言葉。ですが今は静養なさって下さい」


「そうか・・・そうさせて貰おう」


それがワシの最後の言葉となった。



「もし、そこのご老人?」


「・・・ワシの事かな?ここはどこじゃ?」


「ここはエスペリア、英雄達が息絶え辿り着く楽園」


「おお、ここがかの楽園か」


「・・・どうやらご不満のようですね」


「うむ、現世に残して来た弟子の事が気がかりでの・・・」


「なるほど、なら現世に転生されますか?」


「なに?そんな事が可能なのか?」


「私は女神ですよ?そんなの朝飯前です。なんならおまけも付けちゃいます」


「おまけ?」


「全盛期の青年期の姿に転生させて差し上げます。無論剣技や肉体も当時のままで&記憶は死後直前の感じで」


「それは願ってもない事で!さっそくお願いしますじゃ!」


「はい、それじゃあ契約成立ね」


「!?」


眩い光がワシを襲い何も見えなくなった。



気付いて目を開くと辺りには荒野が広がっていた。

そしてワシの腰には愛刀の聖剣ブリュンヒルデがあった。


「あの女神様、随分サービスがいいな」


ワシは手を軽く握ると身体に力が戻ってるのを実感した。

確かこの位の年齢の時は素手で熊を倒していた筈。

などとワシが修業時代の懐かしい思い出を振り返っていると村の方から悲鳴が上がった。

その悲鳴の先には巨大な羽の生えた爬虫類の魔物、ドラゴンがいた。

鱗の色からして上級のアークドラゴンと言った所だろう。


「お願い、助けて!」


あどけない質素だが美しい顔をした村娘がワシの肩を掴んでくる。


「まあまあ慌てなさんな、お嬢さん」


全盛期の肉体と精神であるワシにとってこの程度の魔物は雑魚当然だった。

怯えるどころか転生後初めての獲物に心躍っていた。


「あの、私・・・」


「お嬢さんは下がっていなさい」


ワシは愛刀ブリュンヒルデを抜いた。

ドラゴンの後方に素早く回り尻尾を切り落とす。

ドラゴンがわめいている間に両の翼も切り落とす。

そこには先程の威厳など微塵も無い翼と尻尾をもがれた哀れなドラゴンがいた。


「さて、最後に新技の練習台になって貰おうかのう」


ワシは呪文を唱えるとブリュンヒルデに炎をエンチャントした。

剣聖は剣だけと思われがちだが、当時のワシは気まぐれに魔術も極めていたのだ。

剣聖の名が重くて人前で使う事はなかったがの。


「煉獄灰塵剣・・・!」


超高熱の炎で熱せられたブリュンヒルデがドラゴンを一刀両断する。

ドラゴンは断末魔を上げる暇もなく、強固な鱗は見事に溶け、その見事な切り口は合わせれば元に戻るかの如く綺麗であった。


「ふぅ・・・久々に使ったんで骨が折れたわい」


「あの・・・ありがとうございます!」


助けを求めて来た村娘がワシに駆け寄り礼をする。

ワシが軽く手を振り立ち去ろうとすると今度は多くの鎧騎士を引き連れたベテランらしき騎士が道を塞いだ。


「あれをあなた一人で?」


「まあな」


「その若さで・・・まさに剣聖の如しですな」


「いやいや、運がよかっただけですじゃ」


「しかしお主随分と若いのに喋り方が年寄り臭いのう」


「そそそそんな事ないです!」


ワシが転生したとバレたらまた国の為に働かなくてはいけなくなる。

それだけはごめんじゃと思ったワシは言葉遣いに気を付ける事にした。


「お主には見所がある。剣聖の試験を受けてみぬか?」


「え?いいんですか?」


剣聖には級位があり、10級から1級、そしてその上には特級の剣聖が存在する。

転生前の当時のワシが特級でアリシアは1級であった。

この男には見覚えはないがワシの目が節穴でなければ3級相当の実力の持ち主であろう。

そして剣聖にもなれば望めば贅沢な暮らしが約束され自分の騎士団を持つこともできる。

貴族の特権であるソレを一般市民が得られる唯一の方法であった。


「私の名はガリアン。3級の剣聖だ」


「俺の名はフォルス・・・いやルース、ただの剣士だ」


「そうか、ではルース、さっそく城まで来てもらおうか」



ワシはガリアンに城に連れてこられた。

転生前に散々出向いた場所である、迷う事は無い。

修練場までガリアンに同行するとそこには美しい少女が鍛錬に励んでいた。

かつての愛弟子アリシア・シャールロッテじゃ。

彼女と目が合うとじろりと睨みつけられた。

そういやワシ以外とは人付き合いが下手な奴じゃったの。

ワシがしみじみと思い出に浸っているとアリシアが声を掛けて来た。


「貴様がドラゴンを一人で倒したという男か。にわかに信じられんな」


「本当なんだなこれが」


俺が愛刀ブリュンヒルデを抜き華麗な剣さばきを見せるとアリシアは曇った顔で俺にこう言った。


「剣聖はやたらと剣を振り回すものではない」


「ほう、中々言うじゃないかアリシア」


「気安く呼ばないで貰おうか」


「分かりましたよ、1級剣聖様」


「ほう、貴様死にたいらしいな」


二人の間でバチバチと火花が散る。

二人をなだめる様にガリアンは間に入った。


「ところでルース殿、剣聖試験はいつになさるつもりで?」


「試験?ああ今直ぐでいいよ」


筆記試験はかつて自分が考えた物だから楽勝だし、

実技試験は言うまでもなく合格間違いなしだ。

そんな余裕なワシを見てアリシアがぐいっと俺に近付いて来た。

その豊満な胸がワシの胸にあたる。

思わず照れるワシに詰め寄ってキッと睨みつけながらこう言った。


「貴様・・・」


「な、なんだよ」


「貴様、剣聖を舐めているな」


「そそんな事は無いよ」


「いいだろう、貴様の剣聖試験、実技は私が担当してやる」


ああそういやこういう真面目な娘だったけ。

転生前同様にワシは孫娘を見るような感覚で接していたが、どうやら間違っていたらしい。

ここは真剣にならねば。

ワシはかつての剣聖に頭を切り替えると試験会場に向かった。

そこには未来の剣聖候補がちらほらいた。

ああ10級からとはいえさすがに剣聖、そうごまんといるものではないな。

ワシは筆記試験を終え中庭に出向くとそこには既に完全武装した1級剣聖のアリシアがいた。


「キャーっ!アリシア様ー!!」


大量の声援がアリシアに向けられる。

そういえばアリシアにはファンが多いんだったな、同性の。

アリシアは声援の方に軽く手を振る。

そして別方向に一礼した。

そこには剣聖の戦いを見に来た貴族達がいた。

特級の剣聖になるには貴族達の推薦も必要になる為、相当の根回しや実力が必要となるのだが、

元々貴族であるアリシアはその辺り既にクリアしていた。

実力だって十分特級に値する物だ。


「だがわざと負けてはやれんぞい」


「何か言ったか?」


「別に・・・」


思わず心の声を口に出していた様だ。

危ない危ない。


「それでは試合開始!」


「はああああああああっ!!!」


ワシがブリュンヒルデを抜くと同時にアリシアが剣を抜き一気に攻めこんできた。

剣聖試験は真剣で行われる。

相手を殺さない技量というのも試されるからだ。


「どうした、攻めてこないのか!」


防戦一方のワシ。

これは貴族様達にアリシアの良い所を見せようと見せ場を作ってあげている・・・訳ではなく、

転生前から数年アリシアの剣を直に受けた事はないのでまずはどれだけ成長したか見たかったというのが一点。

そしてこの身体がどれだけ動けるか試したかったのがもう一点だ。


「素晴らしい、さすが1級剣聖だ」


「候補生の彼には悪いが、まあ頑張った方だな」


貴族達がワシ達の戦いを見て談話を始める。

それを見ていた同じ剣聖のガリアンは違う感想だった。


「あの青年・・・何者だ?」


アリシアの猛攻は全て急所がはずされていなされていたのだ。

感情的に攻撃しているアリシアはそれに気付くことは無い。

アリシアの攻撃が出鱈目という訳ではない、むしろ的確だ。

ただそれ以上にルースの技量が圧倒的に勝っている。

しかもアリシアレベルの剣聖にそれを気付かせないレベル・・・相当の手練れだ。

こんな事ができるのは唯一無二の特級剣聖のフォルス・サヴァントを置いて他にいない。

フォルスは死者な上、ルースとは姿形も違う、あり得ないがガリアンはそう考えていた。


「ふぉっふぉっふぉ、良く成長したのうアリシア」


「え?」


ワシはアリシアの突きに合わせ同じく突きを繰り出す。

互いの剣先がぶつかり合いアリシアの剣が弾かれた。

そしてワシの剣がアリシアの首先に向けられる。


「しかしワシが防御に専念してるのを剣の腕が無いと決めつけたのは早々じゃったのう」


「その喋り方・・・いや、ありえない!」


「転生したんじゃよ。信じるかどうかはお前さん次第じゃがの」


「(転生・・・まさか・・・)」


「あの~そろそろいいですか?」


審判がアリシアとの間に割って入る。


「勝者、ルース!」


声援とファン達のブーイングが混じって聞こえて来る。

この試験を持ってなんと1級の剣聖になることが出来た。

筆記試験は満点、実技も最強の1級相手に勝利したのだ、当然である。

先程までアリシアの戦いぶりに熱狂していたファンや貴族達は既にこの場を去っていた・・・この薄情者め!

ワシが憤慨しているとアリシアが近付いて来た。

今度は怒って等おらず、おどおどとした様子でワシをのぞき込んでくる。


「あの・・・あなた、いえあなた様は本当にお師匠様なのですか?」


「ああ、そうだとも」


「うわあああああああああ!!!」


「!?」


アリシアはルースにかつてのワシの面影を見たのか、涙を流しながらワシに抱き着いて来た。

当のワシはよしよしとアリシアの頭を撫でている。

アリシアとは親子同然の関係だったからのう、こうなるのも仕方あるまいて。


「これからどうなされるのですか?特級になられるのでしたらご助力致しますが」


「いや、いい。特級剣聖生活も疲れるだけでの。冒険の旅にでようかと思う」


「それなら私も・・・」


「お主は家名を背負ってる事を忘れてはいかんぞい」


「はい・・・」


「そう落ち込むでない。お主なら特級剣聖も夢ではないぞ」


「はい・・・!」


ワシに励まされてか幾分か元気を取り戻したアリシアはワシに一礼するとその場を去っていった。

さーてワシも冒険の旅にでるとするかの。


「師匠ーーーーーーーつ!!」


「どどどうしたアリシア!?」


「今実家に帰って事情を話してきました!師匠と一緒に冒険に出るって!」


「そしてどうなった?」


「はい!勘当されちゃいました!」


「ばっかもーん!!」


ワシの怒声が城内に響き渡った。

何度ワシが諭しても一向に離れようとしないアリシアに根負けしたワシは仕方なくアリシアを連れ冒険する事に・・・

先行きが色々不安になるワシであった。


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