トンビから産まれた鷹は、トンビの世話はしない。
赤羽 倫果
オレたちの前から、アニキが消えてからのある日に……
年が明けてから一月あまり、ここは東北六県の中でも雪は少ない都市だけど、春はまだまだ遠い。
『ボクは絶対にあきらめない。アイツより、才能があるって証明してみせる!』
ブログにそんなことを書きかけて、アニキは一人旅立った。
偏屈な性格が災いしたのか、アニキはいつも一人。両親自慢の秀才も、二十代半ば過ぎから、扱い難い『お荷物』に成り下がった。
「うわ、さみィ」
朝はまだまだ、真冬から抜けきらない。
あれから一年か。今日みたいな底冷えの朝にアニキは、一人暮らしのアパートで死んでいた。
三十になったばかり。死因は心不全だったとしか聞かされていない。
几帳面な性格をあらわすように、アパートは片付いていた。それでも、結構な量の私物を処分するハメに。
不況の最中、非正規で食いつなぐアニキだったが、大学卒業の年に、ナントカって小説の賞を取った経歴の持ち主で、賞金の一部は、おふくろにあげていたらしい。
「あの時のお金、使わずに取っていて正解だったわ」
賞金をおふくろ名義で貯金していたおかげで、処分費用の負担は少なくて済んだと。
つい最近になって、おふくろは寂しそうにこぼした。
件の安アパートは、今もオレが住んでいる。アニキがいた頃より散らかっているけど。
オレは万年床に身を預けて、読みかけの分厚い本を投げ置く。
『今、何している?』
「アニキが残したヤツ読んでる」
『オマエ、読めるのかよ』
悪友の通知なんざ既読スルースルー!
オレの頭の塩梅でも、大まかなストーリーは入っているのに、失礼極まりねぇわ。
本として、書店に並んだのはこれっきり。
実家近くの本屋がもてはやすから、変な勘違い起こしたんだよなぁ、アイツは。
好奇心から手にしたスマフォで、賞の名前をクリックする。
アニキの受賞した回、最終候補者の名前に心当たりが。
「この間、観に行ったヤツって」
検索結果をスクショして、メッセージアプリに添付したついでに、
『コイツって、この間の映画の原作者か』
とだけ、カノジョに送った。
『そうだけど、急にどうした?』
「ならば……」
頭ではなくて、指が勝手に文字列を作り出す。
『そう! 今、一番の売れっ子だよ』
『サンキュー』と返事のすぐ後、いつものスタンプが画面に躍り出た。
ブログに書いてあった『アイツ』って、映画の原作者なんか? だとしたら、偏屈な性格が拗れるのも無理ねェか。
「相手にされないの、自業自得……おふくろから?」
『哲也の遺稿を自費出版したらどうかと……』
はあ? 何考えて……サギになんか引っかかって、どうすんだよ。
『そんな金あるなら、おふくろたちの老後に使えよ。死んだヤツには線香だけで間に合っているんだから』
これで、目を覚ましてくれたらいいけど。
オレは画面の通知を、ため息と同時にクリックした。
トンビから産まれた鷹は、トンビの世話はしない。 赤羽 倫果 @TN6751SK
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