真面目

右手の人差し指と中指の間にタバコを設置して、親指は眉間のあたりを押しながら、

「うぅ〜」と唸っていた。


朝起きて少しずつ昨日のサヤカへの対応が恥ずかしくなってしまったのだ。

確かに嘘をついたわけではない。

いつもの女へのリップサービスとかじゃない。


『真面目』に伝えた。


その『真面目』が恥ずかしい。


タバコの煙がねじれるように流れていった。

とりあえず学校にいこう。


サヤカからメールがきた。

「はやくでてきなさい。学校いくよ」

僕は焦った。

(迎えにくるパターンは知らないぞ)



そして支度をして家を出る

目の前にはサヤカが当たり前のように自転車にまたがって待っていた。


「おはよ。」


「おはよう。きみのせいで遅刻しちゃうよ〜はやく行こう!」


といっても

二人は、たいして急ぐわけでもなく、学校にむかった。


下駄箱まで一緒にいくと、サヤカにはサヤカの友達が、僕にはナオキが声をかけてきた。

僕はナオキになにか悟られるのが嫌で、すぐにその場を離れた。


ナオキはチラッと僕の肩越しにサヤカを見てから話し始めた。

ナオキと彼女は安定していて、とても仲良くいれているらしい。とてもいいことだ。


そして

その彼女の友達が彼氏が欲しいということで僕が候補にあがったらしい。

ナオキとしては自分の彼女の友達と僕が付き合えたら色々と盛り上がると踏んでいるようだった。


「だからさ!今日学校終わったら会いに行こうぜ。どーせセイタ暇だろ?」


「まぁ用事はないけど、、、」

サヤカの顔が浮かんでいた。

(昨日の話って結局どういうことで終わったんだ?お互い好きだという話でも無かったし、なんならサヤカは森がまだ好きみたいなことも言ってたよな…でも、お付き合いをしている訳ではないよな)


僕は悩んだ挙句、会うだけなら別にいいだろう。と思い


「わかったよ。とりあえず会うだけな。」と、返事をした。


休み時間にサヤカが会いにやってきた。

なんでもない会話をして、教室へ戻って行った。

一日が無難に終わり、帰り支度をしているとメールが入った。

サヤカから

「今日の予定は?一緒に帰ってもいい?」という内容だった。


「今日は用事がはいってるから帰れないや。ごめん。」と返した。

「そっかー残念…わかったよ〜」

と返信がきた。

なんとなく、今から知らない女と会うことを伝えるのは後ろめたかった。


ナオキから待ち合わせの場所が指定されていたのでそこに向かった。

待ち合わせの時間ギリギリに喫茶店についた。



「おーい。セイタこっちだよ〜。」

ナオキが手招きをした方へ歩くと

例のお人形のように仕上がったナオキの彼女とその隣にこれまたモデルのような雰囲気の女が座っていた。

「この子が朝話してた子だよ」

ナオキが紹介してくれた。

「あ、はじめまして」

「こんにちは。」


「セイタくんの身長が高いからさ、並んだ時にバランスがいいと思うんだよね〜」

ナオキの彼女は意外と喋る子だった。


「身長いくつなんですか?」

「俺は83ありますよ」


「あー大きいですね〜。リナ160以上あるからちょうどいいかも!」

(この子自分のことを名前で呼ぶタイプか…ちょうどいいってなんだよ…喉が乾くな…)

「そうなんだね。みんな何飲んでるの?俺ジンジャーエールもらっていいかな?」


「えー私たちコーヒー飲んでるよ!喫茶店でジンジャーエールなんだぁ笑 なんか子供だね」

(いきなり距離詰めてくるなよ)


「あー。ごめん。好きなんだよ。ジンジャーエールが。」

「へぇ。セイタくんはなにか好きなことないの?」

「俺が好きなものか…そうだなぁ。映画を見るのが、好きだな。」

「映画リナも好き〜!最近何みたの?」


「おー好きなんだ。つい最近『レナードの朝』を見たよ。」


「レナード?なにそれ〜リナ知らないなぁ笑」


「そっか。ちょっと古い映画だからね。」

「古い映画ってつまらなくない?」


だめだ。この子苦手だ。

間にナオキもナオキの彼女も入ってくれたがチグハグな会話が続き、

ジンジャーエールの残った氷が溶けて半分水になったころ解散となった。


帰り道ナオキから

「リナちゃんどうだった?むこうはいい感じだったらしいよ。連絡先交換しとけばよかったのに〜奥手だねぇ」とメールが来た


返信するのが面倒で無視をした。


時間的にそんなに遅くなくても、今の時期は暗くなるのが本当に早い。

サヤカが今なにをしているのかが気になった。

いきなり電話はさすがに迷惑だからメールできこう。


「おつかれ!今何してる?」

しばらく待ったが返事はない。


家についたころに返信があった。

「お疲れ様ー!今まで暇だったから映画を借りてきて見てたよ〜」

「そうなんだね。映画いいね!何見たの?」

「このあいだセイタが言ってた『レナードの朝』だよ〜!」

「え。まじで!どうだった?」

「面白かった。レナードとポーラのダンスのところがすごい切なかったよ」

正直嬉しかった。


「そうだね。あそこのピアノの曲がいいよね」

「うん。私これ返しに行くから、一緒に行かない?オススメの映画教えてよー」

「了解!支度して行くよ。」

「なんか今日セイタ優しいね笑」

「そう?わかんないや」


急いでサヤカの家に向かった。

途中で近くのコンビニが待ち合わせ場所に変わったからそちらに急いで行くとサヤカが待っていた。

僕は赤いプーマではなくグレーのアディダスで行った。

「きみはジャージしか持っていないのかな?」

「きみだって変なトレーナーじゃないか。」

サヤカは古着で大きめの緑色トレーナーを着ていた。

「きみ。うるさいね。ほら、買っておいてあげたよ」

と、飲み物を渡された。

「あ、ジンジャーエールじゃん。」

「前にきみの自転車のカゴにジンジャーエールのペットボトルが入ってたから、好きかなと思ってね。」

「ありがとう。きみ。気が利くね」

「どういたしまして。はい!じゃ行こう!とびきりのオススメを期待してるんだからね」

「うん。見ながら決めてもいい?」

「もちろん。ゆっくり探して」


2人で歩いてレンタルビデオ屋に向かった。


歩きながら僕は思った。


僕はサヤカが好きだ。

『真面目』に言ってる。

僕は恋をしている。



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途切れた煙の行方 河童敬抱 @ke222ta22

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