夜散歩

歩いてサヤカのバイト先にむかうあいだに

僕は何故サヤカのために寒い中歩いていかなければいけないのか、考えていた。


そもそも、

サヤカの依頼を受けて

僕は破格の安さでボコボコにされて

散々な目にあったのなぜ……


前なら腹が立って仕方がなかったような事になにも感じなくなっていたり、不思議すぎる。


サヤカのせいなのか、おかげなのか、

僕は混乱していた。


サヤカから

「おわったよー。セイタの用事は済んだ?」とメールがきた。


「おつかれ。今向かってる」と返信するとすごいスピードで、


「すぐ帰る支度します!」と返ってきた。


5分後バイト先に到着した。

すでにサヤカは待っていた。

「寒いんだから中で待ってればいいだろ?」と声をかける。

「来てもらってるのに待たせるのって悪いじゃん」


(たまに、こいつまともなこと言うよな)


「たしかに、さぁ帰ろう。」

二人は歩き始めた。

無言で歩いていると、サヤカ話し始めた。


「ねぇ。なんか話さないの?」


「いや、そっちが話があって迎えにこさせたんじゃないのかよ」


「まぁそうだよね。あのさ、変なこと話してもいい?」


「ん?いいよ。」


「森のことなんだけどさ、最近また連絡が来るんだよね」

僕にまだ残る傷が少し疼いた気がした。


「そうなんだ。どんな連絡?」


「今何してるの?とか、可愛いねとか、いろいろ」


「それが、嬉しいんだよねって話だろ?」


「ちがう!ちがうんだけど、やっぱり私好きだった人からそういうふうに声かけられるとさ。気持ちが揺らぐんだよね。セイタがやめとけって言って止めてくれたのもわかるし…」


これだから女は面倒くさい。いちいち僕を呼び出してする話がこれかよ。

僕が知っている女とこいつは結局同じだった。


「そうなんだね。いいんじゃない?自分の気持ちは大事にするべきだよ。」

と、言いながら頭の中では俺を襲った時のことが再生されていた。

心配なんかすんな。お前はいいように使われて結局女は同じこと繰り返して傷つくんだ。それが普通なんだ。と何回も心の中で自分に言い聞かせた。


「やっぱりそうなのかな?私はまた森を好きになってもいいのかな…?」

サヤカはどうでもいい質問を繰り返した。


やっぱり今夜のお迎えは断るべきだった。

僕の答えはこうだった。

「好きだったら、最後までそれを貫きなよ。それがちゃんと実っても実らなくても、サヤカは一人の男の人をしっかり愛せたんだからさ。」と伝えた。

そして

「でも…わかんないけど、確かなのは俺は森よりもきみを大切にできると思うよ」

追加した。


これは嘘じゃない。

本当の話だ。

僕はサヤカと知り合ってほんの少し生活も人付き合いも変わった。

そこは感謝もしているし、できるだけサヤカには笑っててほしいと思っている。

その気持ちを込めて本音で話した。


この夜の散歩も楽しかった。今日限りで終わりだ。


それを聞いたサヤカは一瞬驚いて、すぐに笑った。

「ふふ。わかるよなんとなく。きみは私が知りうる男で一番優しいよ。きみが私を大切にしてくれるというならば私は森と連絡をとるのをやめよう。」

と、からかった。


僕は

「わかったよ。大切にしてあげるから、もうあいつと連絡すんな。約束しろ。悲しむ顔を見たくないから」と伝えて歩き始めた。


サヤカは嬉しそうに巻いていたマフラーを口元まで上げて、僕の横まで早歩きできて速度を合わせた。

そのままくだらない話しをして

家まで送り届けた。


変なことになったなぁ…

とほんの少しだけ後悔しながら、タバコに火をつけて歩き始めた。


サヤカからすぐにメールがきた。

「きみタバコやめなよ」と書いてあったので、僕は「考えとくよ」と返信をした。


タバコをやめるつもりはない。

思い切り肺に煙を吸い込んで寒空に吐き出した。


心の中で僕はつぶやいた。

「悪いな森、僕の勝ちだ。」

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