最低浮気男(勘違い)と勝気ツンデレ女軍人が痴話喧嘩してるだけの話

ラムココ/高橋ココ

(1話読切です)

名前は最後の方で出てきます。それまでの名称の区別。


男:ウィル。サリアの婚約者

女:サリア。ウィルの婚約者

女性:ウィルの友人の従姉 名前なし

男性、彼:サリアの保護者 名前なし


──────────



とある日の王城の角にて。


「ッ最っ低!!」


バチーンッ


「あんたみたいな奴となんて、こっちから婚約破棄よ!」


「・・・・・フン、俺も同感だ。だが俺と婚約破棄したら、お前みたいな暴力女なんて誰も貰ってくれないだろうがなぁ」


真っ白なTシャツに簡素な麻色のズボンを履いた女に叩かれて赤くなった頬を押さえ、言い返す男。男の首元には口紅のキスマークが付いていた。


「そんなこと? 別にいいわ、私も男なんて懲り懲り! もう二度と恋なんてしないわ」


「恋? 二度と? はぁーん。お前、俺に惚れてたのか? 毎度暴言を吐かれた記憶しかないんだがね」


「・・・・・・は? なに言ってんの? 勘違いも甚だしいわね。あんたに私が惚れる? 世界がひっくり返ってもありえないわ!」


そう吐き捨て、女は男に背中を向けた。


「なんで・・・私のこと見てくれないのよ・・・・・」


去り際に女がボソッと言った言葉は、不機嫌な表情で黙り込んでいる男には聞こえていなかった。


男がなんで不機嫌な表情なのか、女にはわからなかった。



また別の日には。


「素敵なお嬢さん。今日の夜、一緒に晩餐でもどうですか?」

「まあ・・・・お嬢さんだなんて・・・・」


男が二十台後半くらいの女性をナンパしていた。しかし、その場に不運にも遭遇してしまった女がいた。


「な・・・な、何やってんのよぉ!?」


男の婚約者だ。


「あ? なんだよ、今いいところなのに・・・・」


「いいところ? オバさんをただナンパしてるだけに見えるけど?」


「お、おばさん!?」


女におばさんと言われた女性はあからさまにショックを受けている。(いや、そこは怒ってもいいのでは?)


「あんた、女なら何歳でもいいのね。軽蔑するわ」


「そりゃ、もうすぐアラサーのお前に言われたきゃないね。もっと若い時にそういうのは言えよ」


「なんですってッ!? 私はまだピチピチの25歳よ! 30まであと5年もあるわ!」


「ピチピチねえ・・・・そろそろほうれい線も見え始めてるのはピチピチっていうのか? 言わねえよなぁ。5年後には一体どれだけ老けちゃってることか」


「・・・・・・・・」


「わ、私は一体なにを見せられて・・・・・」


「お、どうした。図星だったか? なら肌のケアとかサボんなよ〜?」


「・・・・・・・・・・あなた。デリカシー、って言葉知ってるかしら」



どうやら男のあまりの言いように女は切れてしまったようだ。

いつにないハイライトの消えた鋭い瞳でで射抜かれた男は、硬直する。男の方も仮にも軍人のはずだが、日頃から真面目に鍛えている女の殺気に冷汗が流れる。


「な、なんだよ? いつも暴言吐かれてばかりいるからそのお返しだよ、お返し!」


幼稚な言い訳。だが、女はそこでいつものように言い返さず、そのまま去ってしまった。

女とて、なんの理由もなしにそのまま帰ったわけではない。あることを、女は企んでいた。


しかし、そんなことを男は知るよしもない。



ある日の王城。


「う、うぅ・・・ぐす・・・・・」


テラスで一人の美しいドレスを着た女が啜り泣いていた。

そこに泣いている女をほっとけない優しい男性が声をかける


「どうしたんですか?」


ハンカチを差し出す男性。


「うぅ・・・・あ、ありがとうございます・・・・」


「よければ、何があったか聞きましょうか?」


その言葉に女は顔をうっすらと上げる。

声をかけた男性はその横顔に思わず息を呑む。光に照らされた女の横顔がとても美しかったからだ。


耳の横のサイドだけ編み込まれた簡単な髪型だが、ふわっと癖のある薄い金髪が光に照らされ輝いていて、幻想的に見える。薄く化粧の施された顔は色白をより際立たせている。


女がハンカチを受け取った時、男性はその白い細い腕に目を奪われた。

しかし、手は絹の手袋で隠れてしまっており、白魚のような手を見ることはできなかった。(男性の想像です)


「・・・・そんなに面白い話じゃないわよ?」


女は男性に励まされ元気が出たのか、揶揄うような笑みを浮かべて言った。


「それでも話を聞くだけで美しい貴女の笑顔が見れるというのなら安いものですよ」


さらりと口説くようなことを言う男性。

女の婚約者である男とは違うタイプの、優男タイプの遊び人だ。男はどちらかと言うと、荒々しい俺様(?)

タイプである。


二人だけの世界が出来上がりかけたところで、焦ったような声が突如響いた。


「ッおい! 何やってんだよ、サリア! 見知らぬ男と二人きりなんて何考えてんだッ!」


「え・・・・ウィ、ウィル!? どうしてここに・・・・・」


「何って、友人からお前が企んでることを聞いたからだよ! 男と二人きりなんて・・・・襲われたらどうするんだ!!」


「襲われるって、私が軍の中でもトップクラスなの知ってるでしょ!? いざとなったら撃退するくらいなんてことないわ!」


「おい。襲われるの意味わかってるのか?」


「え? それはもちろん、敵に攻撃されたらって意味でしょ!」


「・・・はぁ・・・・少しは警戒心持てよッ!! こっちは気が気じゃないんだっ!」


いきなり怒鳴ってきたウィルにサリアはムッとする。


「なによっ! いつも憎まれ口ばかり叩くくせに! こんな時だけ私のことがす、好きみたいなこと言って!! あんたのことが分からないわ!」


「はぁ!? 好きとまでは言ってないだろ!? だいたい最初に勘違いしたのはお前だ! あの気色悪い男が無理やり唇を押しつけてこようと・・・・・あとナンパしてたのは演技だ。執着男に追いかけられてる従姉を助けてくれって友人から頼まれたんだよ!」


「!? だったらそう言ってくれればいいじゃない! そしたら私だってわざわざこんなことしなかったのに!」


「言ってもどうせ信じなかっただろッ!?」


「はぁ!? 信じないなんて誰が決めたのよッ!? 」


「そんなの今までのお前を見てればーーーー」


「はいはーい、ストップストップ二人とも!」


横から入った声にこのままでは延々と続きそうだった口喧嘩が止む。しかし、


「なんだ止めるなよ!」

「邪魔しないで!」


ふたりとも口を揃えて文句を言うのは忘れない。


「仲良しなのはいいですが、とりあえず落ち着きましょう」


「「・・・・・・・・」」


「あ、仲良しなのは否定しないんですね」


「「仲良しじゃないッ!」」



ストップをかけたのは先程泣いていたサリアに声をかけハンカチを貸した人だった。


「ウィリアム君。大丈夫、安心して。サリア隊長殿に危害を加える気も襲う気も全くありませんから」


「おまっ・・・・・!」


「私はウィリアム君の友人殿から依頼されたことをしただけですからね」


「まさか・・・・お前らグルだったのか?」


「ええまあ、結託はしていますね」


「それをグルっつうんだよ! どういうことか教えろ」


「私はまあ、サリア殿の保護者のようなものです」


「は? サリア、そうなのか?」


無言で目を逸らすサリアに、ただでさえキツいウィルの眦がつり上がる。


「お前までグルだったのか・・・・!?」


「いや、ウィルが来るなんてことは私も知らなかったわよ!」


「ことはってことはやっぱりグルだったんだな。なんだよ、俺だけ何も知らなかったのか・・・・」


サリアたちに踊らされていたことが分かり、声に怒りを滲ませるウィル。


「違う! 合ってるけど違うわ! 私はウィルに嫉妬して欲しくて・・・・・・」


最後の方はゴニョゴニョと小声になってしまっっている。


しかし、きちんとサリアの言葉を拾ったウィルは怒りの表情から一転、ニヤリと口角を上げ、笑った。


「なんだ。俺のこと好きなのか。そうならそうと言ってくれればいいのに」


「!? あ、あんたこそ私のことす、す、す好きなんじゃないでしょうね!?」


好きという言葉で何回も吃るサリア。そんな初心すぎるサリアを見て楽しんでいるウィル。


「・・・・・・は? 何言ってんだ? 勘違いも甚だしいな。俺がお前に惚れる? 自意識過剰じゃないか?」


恥ずかしさを我慢して叫ぶようにいったサリアだが、前にサリアが言ったことをそっくりそのまま返され、湯気が出るんじゃないかと思うほど顔と耳を真っ赤にした。


「ウィルの、ウィルの・・・・・ウィルのバカァーーーー!!」


声のあらんかぎり思いっきり叫んだサリア。そしてウィルをキッと涙目で睨むと走って逃げてしまった。そんなサリアをウィルは呆気に取られて見ていた。


「あちゃー、今のは完全にウィル君が悪いですよ」


「・・・・・・・」


「で、聞きますが。結局ウィル君はサリア殿のこと、好きなんですか? 好きじゃないんですか? もちろん恋愛的な意味で」


「そりゃあ好きです。さっきだってあなたにめちゃくちゃ嫉妬しましたし」


「おや、敬語使えるんですね」


「使えるに決まってんだろッ!・・・あ、いや・・・サリアの保護者なら将来義父になるかもしれないから・・・・」


「ふふ、そうですか。頑張ってくださいね。それよりもほら、走り去ってった彼女を追いかけなくていいんですか? ますます拗ねちゃいますよ?」


「ッ! お、追いかけます!」


ふふ、と笑った時の目が少し怖かったような気がしたが、はっとしてすぐに走り出した。



「これ以上拗れないといいですが・・・・まあ、あの様子なら大丈夫でしょうね。さて、私はまた仕事に戻るとしますか。まだ書類がいっぱい溜まってますからね」


どんどん小さくなっていくウィルの背中を心配そうに見つめていたが、切り替えとばかりに彼もテラスを去った。



──────────────


<おまけ>


サ「ふふふっ。これでウィルが嫉妬してくれなかったらどうしようかしら・・・・一緒に死ぬ? それとも殺しちゃう? ふふっ。それがダメならウィルを象った人形かウィルの写真を祭壇に飾っちゃう? どれにしようかしら? うふふふっ!」


他「「「「ぶるぶるぶるぶるっ!」」」」


サ「あら、冗談よ。みんな震えてどうしたのかしら」



その頃のウィル


ウィ「ハックションッ!!」


友「どうしたウィル。風邪か?」


ウィ「いや、なんか悪寒が・・・・」


友「やっぱり風邪じゃないか? 気をつけろよ」


首を傾げるウィルであった。



サリアがヤンデレも入っていたとしたら、でした!

ツンデレ+ヤンデレ、作者は好きです。

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最低浮気男(勘違い)と勝気ツンデレ女軍人が痴話喧嘩してるだけの話 ラムココ/高橋ココ @coco-takahashi

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