第3話 デートなんだけど、なんだか複雑。やっぱ彼女だよね。

「悠平、彼女できたんだって? おめでとう! これでよくわかんないの僕だけだよね」

 坂やんに満面の笑み且つ悲しいと言う謎の表情でお祝いされて複雑な気持ち。えと、彼女と言っても1日だけなんだけど。

「え、うん。まあ、ありがと」

「ホワイトデーにダブルデートしようね」

「あれ? ダブル? トリプルじゃないの?」

「時康の彼女さんバイト抜けられないみたい」

「えっそうなの?」

「でも悠平と一緒で安心」

「そう?」

「僕と同じで付き合い始めでしょ? よくわかんなくって。時康は心強いけどラブラブすぎるし」

 あーなんかワカル。時康は俺らと話してても彼女さんしか見てない感じする。

 でも俺も付き合い始めというより付き合い終わりというか、そもそも付き合ってないと言うか。嬉しそうな坂やんに嘘ついてるみたいで悩ましい気分になってくる。でも1日は付き合うわけだし、嘘でもないような。

「初めての彼女なのも一緒だね。これからも相談していい?」

「え、うん」

 今更駄目とは言えない。

 なんかちょっと、窮屈だ。坂やんはずっと俺氏に彼女がいる前提で話してて、俺のことなのになんか入り難い。やっぱり嘘ついて混ざってるようで違和感山盛りだ。


「悠平の彼女はどんなのが好きなんだ?」

「え? どんな?」

「ホワイトデー何かプレゼントするんだろ?」

「ええと、ciwtシウィット? そこの服が好きっぽい」

 ツインタワーにある服屋らしい。

「ciwtか。可愛い系シンプルだな。悠平金ある?」

「ない……」

「うーん、じゃあ合うアクセとか」

「この間、茶色いシュシュ? あげたら喜んだ」

 そういうと、時康はますますノッてきた。

「悠平にしてはやるじゃん。じゃあわりと好みわかりやすいかも。この辺とか、2000円くらいだけどどう」

 時康のスマホにはシンプルなシルバーチェーンのブレスレットが表示されている。いいような、どうでもいいような。ちょっと投げやり気分になってくる。

「イメージ違う?」

「いや、違わないけどなんていうか」

「煮え切らない奴だな」

「俺、里織さんがそんなに好きなわけでも」

「わかる。でも付き合い始めだろ? 合わなかったら仕方ないけどさ」

 それは時康が告られるままに付き合ってたから発生した価値観でさ。


 えっとイベント的にプレゼントをあげたかっただけで、1日彼女だからなんていうかそんな真剣には考えてなかった。だからすごく気まずい。でも普通は相手の好みを考えてあげるもんなんだよね?

「えと、ちょっと考える」

「わかった、なんでも相談乗るからな」

 時康は俺の背中をバンと叩く。

「僕はこれにしようと思うんだけどどうかな」

「ハンドクリーム?」

「中根さん奇麗好きだから」

「いいかもな」

 坂やんと時康がちょっと遠く感じる。俺が彼女いないときより彼女いる分状況は似てるはずなのに、何故だか余計遠ざかっている感じ。

 これまでは俺を気にしてくれて俺の前では彼女トーク全開してなかっただけなのかな。疎外感が溢れてくる。もう本当は彼女じゃないって言っちゃおうかな。でも坂やん楽しみにしてるし。でもそもそも彼女じゃないのにダブルデートってなんだか嘘っぽくてで気まずくなってきた。本当の彼女じゃないわけだからやっぱ嘘?

 デート楽しいと思ってたのにおかしい。


 そんなこんな出迎えた当日。

「こんにちは! 小野垣です」

「中根です。よろしくね」

 ダブルデート会場は水族館。女子2人がニコニコ話ながら先を歩くのを男子2人でついていく。時康見てると1人でもラブラブってて楽しそうなのに、坂やんと2人で歩くダブルデートって何か違う。2人で魚見てるわけにもいかないし、どうせならゲームしたいよね、と思って坂やんを見たらなんか楽しそうだった。なんで?

「坂やん楽しいの?」

「えっ楽しくない? デートだよ」

「デート?」

「好きな子とお出かけ?」

 その言葉に俺氏は激しい衝撃を受けた。俺氏にはダブルデートの大前提がなかったのだ。気まずい。凄く気まずいぞ?

 里織さんは1日限りで特に好きなわけでは、ないわけで。彼女のフリして楽しそうな坂やんにも嘘ついてるわけで。妹にも坂やんのためって言って里織さんにも協力してもらってでもそれもそもそも嘘だし。

 だんだん悪いことをしてる気がしてきた。あれ?

 そもそも俺が悪いのだ。彼女欲しさに坂やん口実に里織さんとデートしてるわけだよな? でも彼女じゃなくて、本末転倒。

 ダメダメこれはダメ。どうしよどうしよ困る俺氏めっちゃ居心地悪い。楽しくなるにはどうしたらいいんだ? 1日彼女でずっと彼女じゃないところが嘘だから、里織さんがずっと彼女ならいいのかな。いいんだよね。当初目的に戻って嘘じゃなくて里織さんと本当に付き合えばいいのでは。いい子っぽいし。こないだあげたシュシュ付けてくれてるし。よし、そうしよう!

「坂やん、俺、里織さんと付き合う」

「何いってんの?」


 そうして迎えたデートの終わり。ゴトゴトゆれる電車で中根さんと里織さんが話してるのをぼんやり眺めながら決意を固めていた。俺氏、デートが終わったら里織さんに告る。今ではない。何故なら中根さんと里織さん、俺氏と坂やんが電車のシートに向かい合って座っているからだ。

 最近ますます日が落ちるのが遅くなって、電車の窓の女子のいる方は半分オレンジ色で俺らがいる方は半分藍色になっていた。夕日をぼんやり見つめながら今日はたいして楽しくなかったことを思い出す。そもそもデートなのに里織さんとほとんど話してない。

 でもデートの雰囲気はちょっとわかったかもで、里織さんは現在俺の身の回りに希少な身近な女子になっているわけで、俺に他に出会いはない。ってことは告って彼女にしないとますます駄目じゃないかと思ってきた。

 1日彼女OKならずっと彼女もOKなんではなかろうか。俺氏、甘い?


 駅についてバイバイしようかって時、意を決して里織さんにちょっとお礼したいってご飯に誘った。定番のnumber19っていうお洒落カフェ。里織さんはいいよって気軽に言ってくれたから、ひょっとしたら脈があるのかも。あるよな? ホワイトデー用に結局買ったチェーンのブレスレットも渡そうかなと思ったし。初彼女に初プレゼント?

 ちょい高のハンバーガーに財布にダメージを負いつつどうやって切り出したものか考えてると、じりじりと時間がすぎていく。マンボウとかかわいかったような気もするけどええとそんな話題じゃなくて。すっかり食べ終わってじゃあまたね的な空気が流れたのでめっちゃバクバクする心臓で口を開く。

 やべ、こんな緊張するの初めてかも。その前に女子と2人なシチュも初めてかも。

「あの、里織さんにお話が」

「ん? 何々?」

「えと、その、付き合ってくれませんか?」

「他の日もあるの?」

「そうじゃなくて、その、彼女として?」

 急にキョトンとする里織さんの表情に嫌な予感を覚えた。

「あれ? 聞いてなかった?」

「何を?」

「私、高校から東京に行くんだよ。だから今日1日限りなの」

「まじで?」

「ごめんね。でも楽しかったよ。ありがとう悠平さん」

 その笑顔のありがとうはもはや俺にとって何の価値もなかった。

 つまるところ撃沈した。俺氏と里織さんの間には、もともと彼女になる要素がなかったのだ。

 でもなんか、ほっとした残念な気持ちになった。嘘をつくのは終わったからからかもしれない。よく考えたらそもそも里織さんのこと好きなわけでもなかった。好きだから付き合うんだよね。彼女ってよくわからん。

 渡すタイミングを失ったブレスレットは妹に取られた。


「それで結局坂やんと中根さんは付き合ってるのか?」

「え、どうだろ。悠平どう思う?」

「フラれた」

「ええ!? 僕フラれたの!?」

「坂やんじゃなくて俺がフラれた」

「まじか」

「ま、まぁ元気だして」

 でもメアドは交換してもらえたし嫌われたわけでもなさそうだからよいのだ! それから時康と坂やんとの間に嘘がなくなったからいいの。

「やっぱ女子はわからん」

「まあそのうち悠平にも彼女できるだろ」

 そうだそうに違いない。きっとそのうち本彼女ができるに違いない。

「結局、僕と中根さんが付き合ってるの?」

「よくわからんない」

 まあ俺がそれどころじゃなかったので。


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放課後のホワイトデー ~東高の愉快な日常 Tempp @ぷかぷか @Tempp

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