第2話 俺氏はホワイトデーまでに彼女を作るのだ! そうに違いない。

「そんで彼女ってどうやって作ったらいいの?」

「やっぱりかよ」

 結局の所、彼女がいたことがない俺は時康に頼ることにした。

「悠平はいつも彼女欲しいって言ってるけどさ、どんな子が好みなんだ」

「かわいい子?」

 時康に鼻で笑われた。

「俺も昔はそう思ってたけどさ、本当に好きな人ってのは」

「ちょ、ま、時康。俺氏まだ恋愛経験未なので真実の愛に出会うより前の時康でお願いしゃす」

 長くなる予感がしたので慌てて遮ると、時康は少し不機嫌になった。

 時康は去年真実の愛に目覚める前もモテまくっていた。なぜだ。顔だ。顔に違いない。えっそれじゃ俺はどうしたらいいのさ。怒り。時康に呆れた顔で見られたけど呆れられるのは彼女がいる奴の特権である。俺氏はどんなんでも彼女が欲しい。どんなんでも? ええと、一応そこは撤回しとく。


「彼女の友達紹介してよ」

「前もしたじゃん」

「俺を好きになってくれそうな子」

「お前ゲームの話しかしないじゃん無理無理。だれかゲーム好きの女子いいないの?」

「オフ会? 企画して変なの来たら困るじゃん」

「うーん、まあ」

 でも改めて考えても出会いってなくないか?

 時康の今の彼女はカフェのバイトしてたのを一目惚れしたって聞いたような。他の女子とデートしてた時に。ずるい! いやでも時康も俺と同じ帰宅部だろ?

「時康はどこで女子と出会ってるんだよ」

「歩いてたらその辺でコクられる」

「リア充爆発しろ!」

 何かそもそもベースが違う気がしてきたな。時康は貴族なの?

「あの、時康さま。昔お付き合いされていた女子をご紹介していただけないでしょうか」

「さすがにそれは……」

「だよねー」

 はぁ。でもナンパとかはハードル高すぎるしどうやっていいか皆目検討つかないし。俺の周りには女子がいないぞ。女子、女子か。それが問題だ。坂やんの彼女カッコカリの上に接点が全く無い中根さんくらいしか新規女子に繋がる人がない。他に女子……。


 そう思った俺はとりあえず玄関で土下座した。

「妹よ。俺に女子を紹介してください。お願い致します」

「ハァ? 何言ってんの?」

「どうしても女子が、ホワイトデーまでに」

「きっしょ」

「何でも致しますから」

「何でも?」

 なんか急に声がキランとした。

「あ、あのお金は2000円くらいしか持ち合わせが」

「しけてんな」

 妹よ、兄に舌打ちは酷いと思う。兄の財布はコンビニ経由でガチャに直結なのだ。

「てかなんでまたホワイトデーなの」

「それは坂やんが彼女とデートするのにダブルとかトリプルデートとかにしたほうが誘いやすいわけでして」

「坂やん? 坂本さんか。坂本さんのためなら一肌脱いでもいいけど」

 妹の声がちょっとだけ柔らかくなった。

 時康と坂やんは幼馴染だからよくうちに遊びに来る。そして2人とも俺より俺の家族に評判がいい。解せぬ。

「じゃあ1日だけ付き合ったフリすればいいわけ?」

「えっフリ? それは確かにそうでござる本末転倒なような」

「坂本さんのためじゃないの?」

「えっと、坂やんのためです」

「じゃあ1日だけ彼女のフリしてデートに同席すればいいじゃん」

「そんなのアリ?」


 妹氏は俺氏をじろりと睨む。はい、すいません。本当は普通に彼女欲しいだけなんだけど、俺氏坂やん出汁に嘘ついたかも。小さいやつだから言い訳みたいで今更訂正しずらい。デートはしたいし。ちょい複雑。

「わかればよろしい。ちょっと心当たり当たってみるわ。何とかはなるよ」

「えっ本当に?」

「報酬はその子と私にスイーツ奢ること」

「えっ報酬?」

「……さっき何でもするって言った。女子の時間をタダだと思うな」

「すいませんでした」

 報酬とか彼女感ない。でもそんなわけで、俺に1日彼女ができることになった、らしいがなんだかピンとこない。まぁ、まだ会ったことないし。彼女に。


 そんなこんなで気を取り直したらうきうきしてきた翌朝。

「時康、俺、彼女できたかも」

「ハァ?」

「ほんとほんと、だからホワイトデー俺もプレゼントする」

「誰に?」

「彼女?」

 名前も知らないけどそういうことになってる。1日だけだけど。ってことは俺もホワイトデー参加しても良くない? せっかくだしイベント参加したい!

「2次元?」

「いや違くて、ちゃんと妹の友達」

「まじで? おお! よかったじゃん、やっと春が来たな」

「お、おう!」

 めっちゃ喜ばれててちょい罪悪感。こちらはこちらで1日限りとは言いづらい感。

「そんでどこが好きなんだ」

 え? えっと。まだ会ってなくて知りません、とは言い難い。えっとたまに来る妹の友達は可愛い系が多かったよな。

「えっと、かわいい系?」

「なんだ外見かよ。まあ上手く行くといいな」

「あのそれフラグ」

「あ」


 そんなこんなで妹氏の友達、小野垣里織おのがき さおりさんに会った。妹と同じ空手部で中学3年生。俺よりちょっとだけガタイいい、時康に言ったかわいいとはちょっと違うような、と思ってたら妹氏に睨まれた。あでも顔はわりかしかわいい。

「これ兄貴。バカだけど悪い奴じゃないから」

「了解了解。1日彼女すればいいの?」

「あの、お願いします」

「じゃあこれからデートでもする?」

「えっデート」

「兄貴馬鹿じゃないの? 当日いきなり会って会話とかどうするつもりだったのさ」

「えっ? あそっか」

 普段は俺氏を兄ちゃんと呼ぶくせに外だと兄貴と呼ぶ妹氏にぽんこつ扱いされている気がするけど仕方がない。だって俺氏初めてなんだもん。デートとか。えっとえっと、デートって女子と2人でお出かけするもんなんだよね。でも妹氏もついてきた。あれ?

「兄貴ほっとくとゲームの話しかしないじゃんか」

「はい」

 ソノトオリデス。それで煉瓦倉庫に行くことにした。港にあるショッピング倉庫。雰囲気がオシャレらしい。始めて来たけど建物ででっかい。おしゃれというよりかっこいい。でかい倉庫をほえーと見てると頭をはたかれた。みんな気軽にはたくけど俺氏の頭ははたく用じゃないよ。


「えっとそれでどうしたら」

「ショッピングでしょ? ショッピング」

 先を歩く妹氏と里織さんの後を1メートル半くらい離れて追いかけていく。

 遠くない? いちゃいちゃは?

 倉庫の中は服屋とか雑貨屋とかたくさんのお店が並んでた。俺氏はどうしたらいいんだろ。端っこでゲームやってちゃだめかな。

「あの」

「兄貴も何か選んでプレゼントでもしてやんなよ。デートのときに自慢できるよ」

「えっ俺が?」

「何しに来たんだよ」

 なんかカモられてる気がする。いやでもガチャで爆死するよりは有意義なような。女子にプレゼントってしてみたい。そうは言っても俺氏金ない。ええと、この辺なら。ヘアゴム。どういうのがいいんだろ。くしゅくしゅしててビーズがついてる。

「兄貴趣味悪くないじゃん」

「そう? あの、じゃあこれ」

「えっもらっていいんですか?」

「まあガチャ1回分くらいだし」

 頭をはたく音が響き渡る。お前にデリカシーはないのかと怒鳴られた。ひどい。でもその場で付けてもらうとなんかトキメいた。これが……恋?

 よくわからない心境のまま、高いカフェでランチする。お金が飛んでいく。10連ガチャ分くらい。来月はガチャ禁止気配だ。それで夕方くらいまでぷらぷらして、里織さんと別れて家に帰るバスの中。


「妹氏、デートってつまんないね」

「兄ちゃんには恋愛はまだ早いんじゃね?」

「でも彼女できたし」

「1日限定だろ?」

 まあ、そうなんだけど、なんだか落ち着かない感じ。これが恋? それとも罪悪感? そわそわ。

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