放課後のホワイトデー ~東高の愉快な日常

Tempp @ぷかぷか

第1話 坂やんと中根さんが付き合ってるかってそんなのわかんないよ。

「あーあーあー俺氏です、聞こえますか」

「聞こえるよ」

「なんかつまんない」

「スパイっぽいからやりたいって言ったの悠平ゆうへいだろ」

「うーんまぁ、でもここ寒いしさ」

 俺は高校屋上の給水塔そばにいた。給水塔のそばって湿ってるから超寒い。2月つらたん。でもこっからじゃないと中根なかねさんとさかやんが見えないんだもん。仕方ないじゃんね。


 俺と坂やんと、それから今トランシーバー気分のスマホで話している時康ときやすは幼馴染で東高の1年だ。坂やんが新年に同じクラスの中根さんにコクったんだけど、はっきり返事がなかったから付き合ってるのかどうかわかんないっていう、わけのわからないことを言い出した。だからデートに誘っていいかわかんないんだって。

 それでバレンタインデーの時にさ、いいチョコもらえたら付き合ってる認定できるんじゃないの? って思ってたらわりかし有名どこの店の無難なチョコ。義理チョコありえなくないラインという悩ましさ。

 そんで今、坂やんに付き合ってるかどうか客観的に見てほしいとか言われて見張ってるんだ。坂やんは中根さんと同じ美化委員で校内を回ってるんだけど、付き合ってるかって見てわかるもんなのか甚だ疑問。

 俺、彼女いた事ないしさ。畜生。

 だから彼女がいる時康に聞く。


「なー時康的にはどう思う?」

「わかんね」

「だよなぁ、えーとどっちかっていうと?」

「半々+」

「あてになんね」

「そんなの見てわかるかよ」

 まあねえ。そんなわけで俺は寒風吹きすさぶ校舎屋上から2人を見張って、時康はその辺の校舎の影から2人を見張ってる。なんだかんだ時康もノリはいいのだ。

 でもよく考えたら屋上から見る意味ってないんじゃない? 頭しか見えないしさ。そう考えると寒さでなんだかくしゃみがでた。へくしょん。

 もうさ、付き合うか付き合わないかどっちかにしてほしい。どっちでもいいから。それがわかんないから困ってるわけだけど。


 そんでさ、この前こんな話になったの。

「なぁ時康、ホワイトデーにさぁ、めっちゃ豪華なお返しして初デートに誘ってみるってどう?」

「ありかもな。きっかけになるし。でも豪華なお返しって何想定?」

「え? 豪華っていったら豪華なんじゃん? 坂やんはどんなのが豪華?」

「えっ僕!? ううん、豪華、大きなマシュマロ?」

「ビルの間でノシノシ歩きそうなやつ?」

 この間ニャトフリ見てた時にたまたま予告編目についてさ。面白そうだったから見たらめっちゃダサくて笑えた。でも時康も坂やんも見てないだろうから、と思って絵を描き始めたんだけど。

「悠平、実現可能なラインでいこう」

 せっかく描いてたのに。まだビルしか描いてないのに。

「そもそもだな、マシュマロはどうかと思う」

「ホワイトデーはマシュマロじゃないの?」

「お前らマシュマロもらって嬉しいか?」

「あんま食べたことない」

「僕はちょっと苦手かも。あのふにふにした感じが」

「ふにふに? おっ」

 発言する前に時康にスパンと頭をはたかれた。痛い。

「じゃあ何ならいいのさ」

「最近は菓子じゃなくて物を贈ることも多いと思うよ。俺はマカロンにするけどな」

「マカロンって何?」

「軽いビスケットみたいな奴をクリームで挟んだ菓子?」

「僕、聞いたことある。凄く高いんだよね」

 時康が彼女に贈る予定のやつのURLを見せてもらった。

 ちょっと意味がわからない。4個で2000円? 1個500円? まじで? ガチャ引けるじゃん。


「自分じゃなかなか買えない値段だろ。だからプレゼントにいい」

「僕もそれにしたほうがいい?」

「どうかなぁ。そもそも中根さんはマカロン好きなの? 俺は彼女がこの店好きだからここにするんだけど。西街道のベクセンハウアー」

「あー美味いけどめっちゃ高いって有名な店」

「めっちゃ高いけど美味しい店、だ」

 日本語ムツカシ。でもそれで彼女ができるならプライスレス。

 なんでホワイトデーってバレンタインでもらえた男子しか参加できないイベントなの? 俺も手当たり次第に菓子配っちゃだめなのかな。彼女欲しい。

「中根さんは甘いものは好きな気がするけど、あんまり高いのは買って食べたりしないタイプだと思う」

「うーん、じゃぁパスだな」

「えっ何で。珍しくていいんじゃないの」

「価値がわからないとこ投資しても意味がないだろ。お前らこれいくらなら買う?」

 今やってるゲームのSRキャラ。ガチャチケは1枚500円。でももう持ってる。

「俺は350円なら出してもいい」

「僕は800円くらい?」

「350円と感じるものを贈られてもたいして嬉しくないだろ」

「なる」


 中根さんが好きなもの。なんだか記憶がリフレイン。坂やんに任せたんじゃ付き合ってるのかよくわからん状況が継続しそうな気がする。

 えーと目的は中根さんをデートに誘うことなんだよね。 

「なー、みんなでデートしようぜ」

「みんなでデート?」

「時康と時康の彼女と俺も一緒。そんなら坂やんも中根さん誘いやすいだろ? 俺らがいてもおかしくないし。だいたい屋上から見張って何がわかるんだよ」

「屋上がスパイっぽいって言ったのお前だろ。けどみんなでデートってのは悪くない。けど肝心なところで破綻してる」

「ええと悠平、彼女いないよね?」

 ぐうぅ思い出させやがって。なんだよ坂やんまで! 彼女かどうかわかんないくせに! 彼女いないとデートできないとでもいうのかよ!

 あれ? 俺何言ってるんだろ、いないと無理だよな。ぐぬ。

「作るもん、ホワイトデーまでに作るもん」

「本当に? あと2週間くらいしかないよ」

 時康がため息をつく。こういう時こいつほんとウザい。

「作る! 俺氏はホワイトデーまでに彼女を作るのだ! 絶対!」

「はぁ、わかったよ。それじゃできたらみんなでデートな。坂やんもそれでいいか」

「僕は中根さんがOKしてくれたらもちろん」

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