13.真の姫<終章>

「アンジェリナ、ひとつ聞いていいか? あんな状況で私が恐くなかったのか?」

 風竜のミストラルが尋ねる。

「うん。不思議と恐くなかったよ。最初にあなたの声を聞いたときから悲しそうだったし……。

それに何かあったら必ずアレクが助けてくれるって信じてるから!」

 そう言ったときのアンジェリナの顔は、とても誇らしそうだった。

(アレクのことを信じてるもん……だって、私の『ただ一人の騎士』だもんね!)

 アンジェリナは、身分など関係なくアレクを『ただ一人の騎士』と心に秘めていた。

 初恋をアレクに悟られないためにも、少々おてんばに我儘にふるまっているのだ。

 

「そうか、お前はまことの姫なのだな……」

 微かに目を細めるミストラル。

「えっ? どういう意味?」

「天真爛漫ゆえに、たくさんのものに守られ、助けられる、まだ子供だと言うことだ」

(ただし、人を惹きつける人徳のある姫のことだ。そして、そのものだけが真の王になれる)

「そうだね。今、私は『姫』とは名ばかりのただの子供だと思う。けど、明日はどうなるかわからない。私は、いつか『姫』と呼ばれるに相応しい姫になりたいと思ってる。国民の力に、誇りに思える姫に……」

 まぶしい朝日を真っ直ぐに見つめるアンジェリナの横顔は、燐として輝いていた。

(それだけ、わかっていれば、十分『姫』と呼ばれるにふさわしいんだがな)

 ミストラルはアンジェリナの行く末を楽しみに思った。

「姫は、まだまだこれからです……もっと強く美しくなられる……」

(そして、いつか手の届かない人になるかもしれない……)

 アレクがそう呟いたのをミストラルは聞き逃さなかった。

「そうだな。お前が仕えるのには十分立派な姫だ。ただ、王になるまではお前たちの力が必要だ。これからも、命がけで姫を守るといい」

「はい。ライトの剣ではなく…アルティの瞳に誓って!」

「恥ずかしげもなくよくいう、いいだろう当分私も退屈しのぎはできるだろう」

 

  *


「姫。城までの馬車を用意しましたよー」

 ランドルクが声をかけた。

「えー。わたし歩いて帰る!」

「姫、結構ありますよ?」

 聞き返したが、姫が言い出したら聞かないのをアレクはよく知っている。

 返ってくる返事は分かっていた。

「大丈夫よぉ!」

 にっこり笑うアンジェリナ。

 その自信がアレクやランドルクに支えられているからこそ沸いてくるのを、姫は今回のことで強く自覚した。

 しかし、その感謝の気持ちを表に出すのは照れくさい。

「ならば、道すがらお前の歌を聞かせてくれ」

 ミストラルの申し出に、アンジェリナは飛び跳ねて喜ぶ。

「分かったわ! 

 う~んと楽しいのを歌うわね!」

 アンジェリナが歌うために、大きく息を吸い込む。

(みんなに感謝を込めて。そして、今日一日が、光り輝くことを祈って歌おう)

 

 まぶしい朝日の中、4人は首都アルティライトに向かい歩き出した。



  ♪ お わ り ♪


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歌う姫~歌姫ではありません!歌が好きなだけの姫です♪~ 天城らん @amagi_ran

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