才能分割機

@ramia294

第1話

 「世界は平等でなければ、なりません」


 テレビの中。

 その美しい少女は静かに主張する。

 争いの絶えないこの世界。

 みんなが平等であれば、世界平和が実現すると、彼女は主張します。


 その通りだとは、思う。


 しかし、現実、

 眩しい世界で活躍するのは、少数の煌めく才能を持つ人たち。

 その少女も最難関大学に在籍して、美しい姿と優秀な頭脳を併せ持つ、煌めく才能を持つ人々の中でも、ひと際輝く存在。


 その瞳は、夜空の星の様に、輝き。

 その声は、夢みる様に、心地良く。

 彼女の存在は、見る人聞く人の心を侵食して、彼女の虜にする。


 

 僕もひと目で心奪われ、彼女の主張を現実化するために、考えました。


 それは、才能分割機。


 世界の平等を目指すため、煌めく才能を分割して、平凡な僕たちに分け与える装置。

 使い方は、とても簡単。

 衛星をハッキング、装置から送信した信号を衛星経由で、地上にばら撒く。

 煌めく才能を分割して、持たざる者たちに分け与える。


 ですが、まず実験。

 彼女と僕で試しましょう。

 スマホの中に、仕込んだ装置から、彼女に向けて、才能分割信号を飛ばします。

 彼女の才能は、分割されて、僕の物に。

 ふたりの才能は、同じ大きさに。


 彼女の才能は大きく、僕は目眩が、

 そのまま気を失いました。

 

 気づいた時は、夕方。

 そろそろ彼女が、テレビに出る時間。

 

 テレビの中の彼女は、普段の様な切れがなく、何やらモジモジしている様子。

 進行のタレントさんも困った様子で、その日の出演を終えた模様。

 

 彼女の才能は、僕に移動。

 その日から、頭脳明晰な僕が、誕生。

 どんな問題にも ハキハキ答えることが出来ました。

 彼女の人気が急激に陰りを見せて、代わりに僕が何故かテレビへ。


 ある日、同じ番組の収録。

 彼女には、笑顔がありませんでした。


「どうしたのですか?」


 僕の質問。


「最近、良いコメントが思いつかなくて、上手く答えられないの」


 彼女の答えは、当然です。

 彼女の才能は、僕に分け与えられています。


「大丈夫ですよ。世間一般的に皆んなそうなのです。あなたも、人は平等であるべきと主張されていたではありませんか」


 マスコミでの彼女の存在感は失われ、これからは一般市民として生きていくようです。


 実験は、大成功。

 僕は、才能分割機のスイッチを入れました。


 たちまち、世界が大混乱。

 

 数学者は、この世界からいなくなり、数学は逆行。

 予想から定理への道は、予想から忘却へとその姿を変えました。

 コンピューターのみが、今はもう、意味の無い知識を留めています。


 世界からミサイルが消失、宇宙開発も消えました。

 音楽は、雑音に、カラオケの点数も、誰が歌っても同じに、人気番組が姿を消しました。


 天気予報は占いになり、ニュースは報道する素材を失くしました。

 

 ドラッグストアには、無料の風邪薬しか存在せず、春は花粉が全て人の思考をさらに、引き下げました。


 戦争は無くなりましたが、人々は餓死への緩やかな道のりを歩み始めたのです。


 財産は一律に分配され、犯罪は消失しました。

 病院から医師が消え、睡眠不足が消えました。


 結婚相手はくじ引きで決めることになり、火葬場はセルフになりました。

 似たような顔の男子と、流行りの髪型の女子のカップルしか存在しない街が、世界共通の景色になりました。


 犬は、嘆き。

 猫は、居眠りをします。


 平和で静かな、しかし、滅びの道を歩む人類。


 僕は、気を失って以来、自分だけ特別に、世界中の人々の才能をほんの少しだけいただく事にしていました。


 街中の人々より、ちょっぴり賢くなった僕は、今では、すっかり普通の女子大生の彼女を訪ねました。


 大学の友人たちと楽しそうにお喋りする姿。

 最初に僕が貰った彼女の才能を彼女自身へ戻しました。

 突然、驚いた顔した彼女。

 僕は、彼女に近づくと、才能分割機の話をしました。


「これで、元の生活に戻れるね」


僕の問いかけに、


「戻らないわ。ここ数ヶ月の楽しさを知ってしまうと、元には戻れない」


 彼女は、みんなの才能を元に戻すのかと訊ねた。

 元の世界へ戻すつもりだと彼女に伝えました。


「そうね。人類が滅びるよりもマシかもね。でも、私は元の生活には戻らないわ。ここ数ヶ月は、生まれてから最も楽しかった」


 彼女は、友人たちの元へもどりかけて、思い直したように振り向いた。


「でも、まだ出来ていない事があるの。協力してくれるかしら?」


 今では、普通の幸せを何より大切にする彼女。  

 僕は、もちろん協力する事を約束しました。


 今、才能分割機は、僕の家の物置で眠っています。


 世界は、再び賑やかさを取り戻し、僕には、寄り添う人が出来ました。



         終わり

 

 


 



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

才能分割機 @ramia294

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ