第4話

 サラから電話があった。

 いつもメッセージのやり取りなのに、電話なんて珍しい。

「どうしたの?」

「逃げて! 早く!!」

突然の叫び声に驚く。

「シールを……あの、シールを盗られたの」

声が震えている。

「盗られた?」

「黒いスーツの男たちが3人来て、囲まれたと思ったら、バッグを盗られて、その場でスケジュール帳を抜き取って、中を見てさ……」

「財布とかは?」

「財布目当てじゃなかったみたい。スケジュール帳を調べてたの。」

手帳を調べる?どういうことだ?

「『手帳はどこだ?』って言われて、中に挟んであったシールだけ盗られた。」

手帳……もしかして、このクレイジーボーダーのスケジュール帳のことだろうか?

「拳銃を向けられて脅されて……私、あなたの住所や名前を……」

「え?」

「その手帳は危険かもしれない。今すぐ手放したほ……」

途中から声が途切れた。電話の向こうで、テレビでしか聞いたことのない、サプレッサーをつけた拳銃のような音がした。

「サラ!! サラ!! どうしたの?! 何が起きてるの?! サラ!!」


 電話から、サラのものではない、低い男の人の声がした。

「この女と同じ目に遭いたくなかったら、大人しく手帳とシールを持って来い。」

「待って!! サラに何したの?! サラは無事なの?!」

「詳しい場所を言う――」



 私は手帳をバッグから取り出す。恐らく、彼らの狙いは、この手帳とシールなんだろう。これらを渡しさえすれば、私は助かる。

 でも――

 サラはどうなっているのだろう?あの時に急に途切れた彼女の声……。


 私は思った。サラを助けよう! 手帳を渡すのはそれからだ。

「サラは助かる。変な男たちに追い回されてもいない。」

今日のスケジュールのところに書き込み、シールを貼った。



 待ち合わせ場所は、私が住むアパートからそう遠くはなかった。サラから私の住所を手に入れたのだろう。しかし、こんな人気ひとけのない場所では、殺されていてもすぐには気付いてもらえそうにない。


「なんで殺されないといけないの?」

呟く。


 全くだ。店で買ったから手帳を持っているだけ。おまけだとプレゼントしてもらったから、シールを持っているだけ。願いが叶うというから、おまじないとして貼っているだけ。


「それのどこがいけないの?」




「お前は、叶えてはいけない願いを叶えてしまったんだ」

私の呟きに答えるように、背後から声がした。

「!」

驚いて振り返る。黒いスーツ姿の男が二人立っていた。

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