第3話 くそったれ


空は、珍しく雲1つない快晴だった。

それゆえ、すぐに黒い点が2つ、ネオタウン方面から飛んで来るのが分かった。そして、黒点2つから、なにかが放たれた。放たれたソレは、みるみる接近し、ミサイルだと理解した時には、直撃していた。


『こちら討滅用ヘリネオラプターA。目標にミサイル命中。そっちはどうだ。』

『こちら討滅用ヘリネオラプターB。同じく目標に命中を確認。さらに接近し、視認する。』

『了解。しかし気をつけろよ、新型のアイズらしいからな。ミサイルこれごときでやられたとは思えん。』

『了解。接近する。』


ネオラプターが黒煙を掻き分け視認する。そこには、佇む黒い影があった。

『目標視認!討滅ならず!しかしダメージはある模様!』

『了解。引き続き目標に攻撃する。』

『いや待て!様子が…』

その人型アイズは、よろよろと前進し、倒れた。

『や、やったぞ!討滅成功だ!』

ヘリが2台着陸し、中からは武装した男達が銃を模目標に向けながら、3人ずつ出てきた。2mまで近づくと、アイズだったモノは、人の姿に戻った。

「なに!?こいつは…人間か…!?」

「わ、分からん!本部に連絡する!」

そう言って男は後ろを向き、本部とやらと通信する。

『…こちら本部。どうした、ネオラプター部隊。』

通信に出たのは、ネオタウン最高責任者であり、世界で最も偉い女。エルトゥール•シェリング総司令だった。

『は、人型アイズだと連絡があった個体は、ミサイル2発で撃沈。現在接近したところ、人型に戻りました!』

『なに…?人に戻った…だと…?冗談はよせ。』

『冗談などではありません!お待ちください、今映像を…あ、がぁっ!!』 ベギャッ!


…ツー…ツー…ツー…

「…なんだ…?何が起きている…?」

「指令!連絡があった地点で、強力な《ストーム》の発生を確認しました!通常型の、約8倍の数値です!信じられません…!」

「…直ちに付近の部隊を呼べ!奴を必ず討滅しろ!」

「げ、現在、付近の部隊は他アイズと戦闘中!招集できません!」

「ぬ…う…奴は放ってはおけん…誰かいないのか!」


…しばしの沈黙…。


『お困りのようですね~?私が行ってもよろしいですかね?』

憎たらしい口調で通信が入る。

『リリー…貴様今どこにいる?』

『い~ま~は~現地に向かってるところで~す。

私もお話聞いてて興味持ってさ~?困ってるみたいだし、ちょうどいいかな~って。』

『フン、まぁいい。任せたぞ、リリー。』

『あいあいさー♪』

ブツンと通信が切れる。


「よ、よかったんですか?彼女に任せてしまって。」

「状況的には仕方ないが、奴ならば任せられる。

憎たらしいがな。」

「とか絶対言ってるな~あの人。」

と、文句を呟きながら重力反発式単車レギュレーターで砂漠化した大地を爆走し、連絡があったポイントへ向かう。ドライバーは、赫い髪を後ろで束ね、軍服を羽織った、サングラスの女だった。

「あの人、人使い悪いんだよなー。もうちょいなんとかならんかね~。お、見えた見えた。」

大型の人型アイズが視認できると同時に、回りには無残な姿に成り果てた隊員やアイズが転がっていた。

「おぉ~だいぶ派手に暴れたねぇ~。じゃ、いっちょやりますか!」

そう言うと、女はそのままバケモノにレギュレーターで激突した。衝撃で掴まれて隊員が吹っ飛んだ。

「お~助けにきてやったぞ~諸君~」

「「リ、リリー様!」」

彼女がやってきたことで心底安心したのか、皆胸を撫で下ろした。


「ふーむ…見たところただの人型アイズとしか見えないな~…ほんとに人間に戻ったの…?」

「はい!この目で見ました!普通の少年のように見えました!」

「ふ~ん…少年ねぇ…」

その人型アイズはリリーを敵とみなし、襲いかかる。

烈風が頬を撫でる。かすり傷が頬を伝う。

服も少し破けてしまい、白い肌があらわになる。

「おや?ワタシのカラダに興味があるのかい?」

リリーは確実にふざけている。

しかしそのおふざけが、彼の人間部分を引き出したのかもしれない。


「ウ…ゥ…ゥ…あ…んた…」

「お、喋った!」

「「アンタは…何シにきたんだ…?俺を…殺しにきてるんじゃあない…他ノ奴らとは違う…のカ…?」

「自己紹介か?私はリリー。リリー•クラン。私はキミに興味を持ったから来ただけだぜ?少年は?」

「「じゃあ…あんたは敵じゃあない…どいてくれ…」

「おいおい、少年~自己紹介には自己紹介で返すモンだぜ~。教えてくれよ、キミの名を…」

その言葉の終わらない内に彼は隊員に向かって動き出した。その爪が隊員を貫く。と思われた時、隊員が消えていた。


「オイオイ、どこ狙ってるんだ?ここにいるぜ。」

声の方に向くと、リリーが隊員をお姫様抱っこしていた。そして手をくいくい、と挑発する。

「こいつらを殺りたいんだったら、先ずは私を捕まえてみな。出来るんならな。」

「「…ゥ…邪魔…するナ…失せろ…!」

一匹の獣と化し、襲いかかる。しかし、リリーには当たるどころか烈風もかすりさえしない。

「オイオイオイオイ、これで終わりかい?なら、こっちの番ってことで。」

変わらず襲いかかる。が、当たらない。しかし、先程と違うのは、彼女が攻撃してきていることだ。

しかも、堅く変化した皮膚の上からでもダメージを与える程に重い。急接近からのアッパー、そのまま飛び上がり一回転して踵落としを受け流し、反撃をいれようとするとリリーは空中で身を翻し、右回し蹴りが綺麗に頭に命中した。仕掛けているのはこちら側なのに、いつの間にか追い詰められていた。

「少年。そろそろ観念しようか…」

「「ゼェ…ゼェ…ゼェ…ウ…ぁ…」

「じゃあ、終わらせようか。」

リリーが歩み寄る。そして、間合いに入る。



……


シャァァァッッ!!!

先に仕掛けたのはこっちだった。

しかし、彼女の手は、既に彼を抱擁していた。

肩を爪がかすり、血が吹き出す。


突然の抱擁に混乱する。

「少年。捕まえたぜ。とりあえず話を聞いておくれよ…。私はな、キミを助けにきたんだ…。他の連中はキミを危険物とみなして殺そうとするけど、私は違う。キミに可能性を感じたんだ!…それに…戦うキミは、苦しそうだった。悲しそうだった。何か…あったのかな?」

化け物の姿に優しく寄り添われ、驚く。

「か、悲しくなんて…」

「じゃあ、その涙は何かな…?」

「え…?」

涙が流れていた。今流れた物じゃない。彼女と戦っている時に既に流れていたものを、今、やっと気づいたのだ。自分が、人の姿に戻っていることを。

「ほら…少年…君の名前は…?」

「俺…の…名前は…

 バギュン! と銃声が鳴り響く。

銃弾は空中から脳天を撃ち抜いていた。


「…キサマ…他部隊は手がつまってるんじゃないのか…!…ギリィ」


上空に新たに現れた物資移動用ヘリネオポートが降下し、杖をついた老人が顔を出した。ちりぢりの白髪にギロリとした眼。体は細長く手足は折れてしまいに細い。

「生憎、これは私部隊でね。まぁよかったじゃないか、目標は沈黙した。これで本部へ運べるだろう?」

「ジジイ…テメェ…EYES完成させたからって調子に乗るなよ…」

「…ほう?…調子に乗っているのはどちらかね?

 リリー嬢。私の足元にも及ばぬムシケラめ。」


…このジジイはクロンバット=アルベール。憎たらしいことにEYESを完成させた張本人だ。おいそれとは手を出せない。

「ほら、早くコイツを連れていくぞリリー嬢。上司に迷惑をかけたくはないだろう。」

「ッッ……はい……。」

拳を握りしめ過ぎて血が滲み出ていた。





……くそったれ…


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EYES【アイズ】 だぐだぐ @dagudagukazuki

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