第2話 変貌
微かな意識が、俺を繋ぐ。目が…開かない…手足の感覚がない……そうだ……僕は…アイズに襲われて……あぁ…私は死んだのか…。姉さんには嘘ついちゃったなぁ…。デイビッドには約束…守れなかったなぁ…。みんな…ごめんよ…僕…は…ここ…で………………
バチィ!! 電気ショックが体を駆け巡る。
『いっっっっっっっっだ!!!!』
衝撃と痛みで体が海老反る。
「おぉ、よかったアルネ、蘇生シタヨ。」
「まだだよ兄サン、意識あるか確認しねぇト。」
1人が頬をペシペシ叩く。
「オイ、意識アルか?あるなら返事してくれヨ」
男達はカタコトで喋る。意識はあるが、体が動かない。辛うじて口をパクパク動かす。
「お、意識アルネ。じゃダイジョブアルネ。」
そう言ったのち、俺の体をカートに乗せて乱暴に動かした。
「さっさと帰るアルヨ。
こんなとこいたらすぐ死ぬネ。」
「急ぐヨ兄サン。さっさとずらかるネ。」
そのまま男達は彼を乗せて
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次に気がついたのは朝だった。眼は包帯を巻いてあるらしく、目が開かない。軋む体を起こし、髪をかき揚げる。ふと、違和感に気付く。
『あれ…?俺…腕喰われたハズじゃあ…?』
「お、起きたネ。朝飯ここ置いとくヨ。あとで検査来るネ。あ、目の包帯は取ってもいいヨ。」
あの時の男の声だ。その後扉が閉まる音がした。
違和感を確認するべく、包帯を外す。
すると、両腕の肘より先には、腕があった。肘と肩の間、上腕筋のところに、腕をくっつけたような傷痕がある。
「こ…れは…」
しかも、肘先の腕と色が違う。自分の茶色く薄汚れた肌色の先に、色白で細い腕が無理矢理くっついていた。指は細く、美しい、見慣れた手だった。毎日手を繋いでいた、あの手に恐ろしく似ていた。
「あ、あぁ…そんな…ハズは…」
ふと、朝飯の横に紙切れが置かれていた。手に取ってみると、それは手紙だった。
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ダリオへ
俺だ。デイビッドだ。
今回はお前さんのために体張らせて貰ったぜ。
この手紙を読んでるってことは助かったのか?だったらよかったぜ。俺は説明が上手くできねぇからよ、そこんとこはカミーユに頼んだ。じゃあな。
カミーユです。あなたがこの手紙を読んでいるということは、助かったのでしょう。それは私達にとって嬉しいことです。ですが、今から言う事を良く聞いてください。あなたが重傷を負った時、私達はとあることを決めていました。それは、私達の体をあなたのために使うことです。デイビッドは『老い先短いこの老いぼれを生かす必要はねぇ。この体も売っぱらえば足しにもならぁ。俺はダリオに未来を託すぜ。』と言ってくれました。私も、残念ながら先は短いでしょう。だから、あなたに大切にされていたように、私もあなたにできることにしたかったの。手術代の為、デイビッドは臓器を全て売りました。私はドナーとして体とEYESをあなたに託しました。急なことで理解し難い事だろうけど、私達はもうこの世にはいません。さよならも言わず、先に旅立ってしまってごめんなさい。
勝手なことばかりで、本当にごめんね。
愛してる
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手紙の最後の方には、一度涙で濡れ、乾いたあとがあった。その上に新たな涙が零れる。もう、最後の方は涙が溢れて読めなかった。…この世界で生き残る為に必要なもの、それは金だ。それがないやつは死ぬか喰われるかだ。しかし、ごく稀に、例外が存在する。
自らの命を金に換え、他人を生かす。自分が生き残る為ではない。愛する人を生かす方法。それは、自分が懇願して成すものではなく、慕われていたからこそのモノだった。
「約束を破った…俺に…託してくれた…。
傍にいてやれなかった…僕を助けてくれた…。
守れなかった…私を…繋いでくれた…。」
しかし、感謝を伝える相手は、自分の無事を願った人は、もう、どこにもいないのだ。
「どう…して…こんな…こんな…」
体の奥底から、どす黒い感情が湧いてくる。
がちゃりと扉を開け、男が入ってくる。
「起きてル?検査の時間…ネ…」
「オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ !!!」
何故だ。この世界で必死に生きてきた。恐怖に晒される毎日だった。そして、命を張った結果がこれだ。
この、クソッタレな世界では弱者はいらないらしい。
俺を、家族を殺したアイズに、その元凶であるEYESに、EYESを造った者に、旨い汁を啜って生きているクズ共に、憎悪が、憤怒が、溢れてやまない。
そんな感情に、EYESは敏感だった。憎しみを、怒りを体現するかのように、体を作り替える。
ミシミシと音を立てて腕が太く、強靭になる。
細く、美しかった指は太く、醜い爪と化した。
体が猫背になり、肥大化する。それに合わせ、巨大化した体を支える為に、3倍程にまで膨れ上がった脚。
手足は極光に白く、顔とボディはドス黒く染まった。
そして頭部には獰猛さを表すかの如く生えた立派な角。耳まで口が裂け、中からは鋭い牙が覗く。輪郭は変形し獣のソレへ。EYESを移植した右目は瞳孔が4つに分裂していた。
「オッ オッ オッ ルオオオオォォォォ!!!!」
雄叫びを上げたソレは、まさしく、身の丈2mを越える、人型のアイズだった。
「!オッワ!バケモノ!ワッザッfack!」
男は驚き叫び、周りに叫びながら逃走した。
怒りに身を任せ、目に入るもの全てを破壊せんとした。が、内なる自分が、衝動を抑える。動きが止まり、頭を抱える。しかし、雄叫びを聞き、周辺のアイズが寄ってくる。かつて医院だったところは喰い千切られる音、悲鳴、絶叫。それらが舞う地獄と化した。
「あぁ…あ…あ…ウ、五月蝿イ。」
極太の腕で襲い掛かるアイズをなぎ払う。烈風が巻き起こり、アイズを切り裂き、臓物をぶちまける。
空は珍しく、雲1つない快晴だった。
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