適材適所
山小屋新聞事件から三ヶ月後、お父さんが山小屋を本格的に壊す話をしていた矢先、学校でクラスメートの山口くんが僕に話し掛けてきました。
「和樹。あの100%の話は本当なのか?」
もう僕は100%というアダ名では呼ばれなくなっていたが、100%という単語を聞くだけで体がビクッとなります。
「僕は実際に見たわけじゃないから知らないけど、父さんがそう言ってたんだ。眉唾に思うかもしれないけど父さんは嘘をつかない人だよ。」
僕だって半信半疑だけど、事実だけを山口くんに話しました。
すると山口くんは「そうか」と言って暫く考えたあと、僕に「折り入ってお願いがあるんだけど」と言ってきました。
それから数日後、とある夫婦が僕の家を訪ねてきました。父さん、母さん、僕、そして何故だが話を聞きつけた早苗がその場に居合わせてます。
その夫婦というのは山口くんのお母さんの妹夫婦で、今日は山口くんの紹介で我が家に来ています。
「狭いところですがどうぞ。」
「失礼します。」
母さんが愛想良く接客をし、ご夫婦を居間に通しました。
奥さんの方は40歳らしいですが、お歳の割に若く見える長い黒髪の美人で、旦那さんの方は少し小太りですがニコニコしていて優しそうな人です。
居間に6人は少し窮屈ですが、母さんが全員分のお茶をコップについで持って来たのを皮切りに、奥さんが話し始めました。
「今日は突然の訪問してすいません。ですが私達夫婦も切羽詰まっていまして、あの山小屋の話を聞いた時、藁にもすがる気持ちでココを訪ねようと思ったんです。」
ペコリと奥さんと旦那さんは頭を下げましたが、父さんがすぐに「気にしないで下さい。頭を上げてください」と言いました。
奥さんは頭を上げ、今度は本題を話し始めます。
「もう話は聞いているかもしれませんが、私共には子どもが出来ず、避妊治療も行っているのですが中々上手く行きませんでした。代理母出産や体外受精など考えたのですが、やはり愛する夫の子供を自然な形で身ごもり出産したいという気持ちがありまして、そんな折、子供を身ごもることの出来る山小屋の話を聞きました。どうかお願いです。その山小屋を一晩私共に貸してくれないでしょうか?もちろんそれ相応のお金は支払わせてもらいます・・・どうかお願いです。」
最後に振り絞るような声を出して、奥さんは土下座で父さんに頼み込みます。旦那さんはそんな奥さんを慈しむような顔で見つめ、その体を抱きしめました。
夫婦の切実な想いが伝わってきて、僕は胸がギュウっと締め付けられる気持ちになりました。
だから自然に父さんにこう進言出来ました。
「父さん、山小屋を使わせてあげようよ。」
「・・・。」
父さんは暫く無言で考えていましたが、その内に意を決した様に喋り出しました。
「まだ、寒いですからストーブが入りますな。あと毛布と布団も運びます。和樹手伝ってくれるな?」
この父さんの言葉が何を意味しているのかが分からないほど僕は野暮じゃありません。つまり御夫婦に山小屋を使わせてあげるということです。
「・・・うん。分かったよ父さん。」
御夫婦は山小屋が使わせて貰えることを喜び、「ありがとうございます」と何度も僕たちにお礼を言ったあと、二人で手を取り合って喜びました。
まだ結果はどうなるか分かりませんが、今は御夫婦に子供が出来ることを切に願うだけです。
ちなみにお父さんはお金は頂きませんでした。
それからまた三ヶ月後、僕は中学三年生になりました。
それで御夫婦から奥さんに子供が出来たという嬉しい連絡があり、そのことを学校で早苗に話しました。
「へぇ、良かったじゃない。」
早苗は結構素っ気ない態度でしたが、御夫婦のことを記事にしようなんてことを言い出さないあたり、この女にも分別というものがあるのが伺えます。
「でもこうなると、ますますあの山小屋の力が信憑性を帯びて来たわね。」
フッフと笑みを浮かべる早苗。何か良からぬことを考えているようで怖いです。
一つ報告することがありまして、あの山小屋を取り壊すのは無しになりました。今回のこともありましたし、もしも子供が出来ずに困っている人が居たら、その助けになるだろうと父さんが考えてのことでした。
あと取り壊すのが無しなったあと、母さんがこっそり耳打ちしたことがありまして、どうやら僕も山小屋ベビーのようです・・・血は争えませんね。
「ねぇ、和樹。」
早苗が悪戯っ子のように僕に声をかけます。嫌な予感しかしませんね。
「ん?なんだよ早苗。」
「あの山小屋を将来二人で試してみようか?」
「へっ?・・・ば、馬鹿!!何言ってんだよ!!」
「あはは♪冗談よ♪」
そう言って顔を赤くしている早苗の胸がブルンと震えたのを見て、慌てて目を逸らす僕。
まだ中学三年生なのに、適材適所の負の遺産に厄介になるのは、まだ時期尚早です。
適材適所の負の遺産 タヌキング @kibamusi
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