番外編
鈴蘭のひと
鈴蘭の咲く季節になると、私の記憶の地平に浮かび上がるひとがいる。
私は産みの母の乳を飲まずに育った。私を産んでしばらくの間、母上は起き上がることもできないほど衰弱されていたらしい。十五にも満たない体で私を産まされたのだから、そのご負担は甚大なものであられただろう。だが、快復された後も、母上は私をお近づけにならなかった。私が産まれてこぬように、十月十日、母上は呪い続けておられたという。その果てに産まれたのだから、私という赤子の
しかし私は死ななかった。私という存在を、天蓬は失うわけにいかなかったからだ。乳を与えられなければ赤子は生きられない。乳母として、ひとりの女性が
その方の
その方が、どんな思いを抱き、私に乳を与え続けてくださったのかは、分からない。ただ私は、もうひとりの母として、その方のことを、今でも想っている。
それから二十余年。
生かされ、生きて、辿り着いた北の地。
ここでは、鈴蘭が、毎年よく咲く。
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