伍-6
清流の
「……もっと丁寧に、適切な手当てをしていれば、ここまで傷が残ることはなかったでしょうに……」
源新が眉根を寄せると、柊哉は笑った。
「あと
夜。山の中腹の洞窟に、火を
寝返りを打った拍子に、ふと目覚めた源新は、隣で眠っているはずの白い背中がないことに気付き、上体を起こした。
洞窟の入り口、
「眠れませんか」
源新が言葉を掛けると、柊哉は背を向けたまま、少しな、と短く返した。
「私も、そちらへ行っても……?」
「……ああ」
声音からも、様子からも、源新を拒む気配はなかったので、源新は柊哉の隣に、けれど近すぎないよう、人ひとり分の距離を空けて、座った。
望月が、南の空高くに浮かんでいる。
東寄りに目を移せば、月の光に
「梅雨入り前の、最後の満月ですね」
半ば独り言として呟きながら、
「御守りですか」
問いかけではなく、確認の声音で、源新は言った。柊哉は、ちらりと源新を見て、小さく
折り鶴を見つめる柊哉のまなざしは柔らかかった。温かく、優しく、それでいて遠い昔を慈しみ
彼の生が末永きものであれと、願った者がいたのだ。
「貴方の一族が受けた呪いは……どうしても解けないものなのでしょうか……」
柊哉が何の目的で
「幼い頃、一族の書物庫にあった記録を全て読んだ。私の世代まで、数百年、解く
「……では、貴方は……」
言いかけた唇を、源新は引き結んだ。視線を上げた柊哉の瞳が、源新の唇を縫い留めていた。言うな、と。暴かないでくれ、と。
――望む死に方をするために、生きておられるのですか?
柊哉と出会った日、彼に尋ねた言葉を、思い出す。その問いに対し、彼が返した答えも。
――望む生き方が、望む死に方なのだ。
願いを叶えるために旅をしているのだと、彼は言っていた。そして、その願いは、もうすぐ叶うのだと。
「……その鶴を折ったのは、貴方と同じ一族の方……」
「ああ。……弟だ」
柊哉は静かに微笑んだ。源新が初めて見た、彼の、兄としての微笑だった。
あぁ、どうして……。柊哉の瞳を見つめる、源新の喉が震える。吐息が揺れる。
彼の瞳には、こんなにも深い悲しみがあるのに、こんなにも
どうして、彼は今、独りなのだろう。独りきりでいるのだろう。
源新に
「もうすぐ会える。……次の祠で最後だ」
折り鶴を、そっと懐に収め、柊哉は笑った。月の光よりも淡く、優しく、温かい、それは、星の光のような微笑だった。願い星のような、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。