肆-3
都を出て、楓真と蓮太は、まず、最も近い北の地、
北上していく春、雪解けを追いかけるように、二人は馬を進めた。ひたすらに前を見据え、一刻も早くと
「お前がその気でも、馬を不眠不休で走らせるわけにはいかないだろう。馬に合わせると思って、お前も夜は、ちゃんと休め」
弟が兄と相討ちになったときのための報告係――それでも蓮太は、自分が楓真に同行できて良かったと思う。楓真は、表向きは至極、冷静だった。曇りひとつなく澄んだ金の瞳は、
それではだめだ、と蓮太は思う。怒りと憎しみにしか、その瞳が輝くことのないのは……喜びにも、楽しさにも、
あのとき、自分は、柊哉を止めるべきだったのだろうか……今でも蓮太は考える。九年前の、あの夜……彼を信じ、弟を預かった。彼の頼みを聞き、何も問わず、誰にも言わなかった。それが、果たして、正しかったのか。他に何か、自分にできることは、なかったのか。取るべき道は、なかったのか。答えは、今も、出ない。
「それにしても……」
夜の森の中、釣った魚を
「どうして、あいつは、九年経った今になって、動き出したんだろう」
九年間、完全に消息を絶ち、影すら
「俺たちと一緒で、どこかで修練でもしていたのかもしれないな……
天蓬を滅ぼしたとき、彼は十二歳だった。そこから九年、さらに修練を積んだ彼は今、どれほどの力を振るえるのだろう。
「……たとえ、あいつが、どれだけ強くなっていたとしても、私が斬ることには、変わりません……刺し違えてでも、あいつを殺します」
揺らめく炎を見つめながら、楓真は言った。殺す、という言葉を、
+
三日と半日、馬を走らせ、さらに半日、山の中を徒歩で進み、楓真と蓮太は、
「……酷いな……」
楓真の隣で、蓮太が息を呑む。
二人の目に映ったその場所は、かつて祠があったことなど信じられないほど無惨に変わり果てていた。辺り一面、落雷に
楓真の瞳の中で、天蓬の宮の焼け跡と重なる。雲が切れ、明るい陽射しが注がれているのに、草の一本も、花の一輪も、そこにはない。命を根こそぎ奪われた土地。息づき染み込んでいた優しく温かな日々の記憶さえ焼き払われ、人々が顔を
「……いくら
蓮太が呆然と呟く。楓真は首を横に振った。
「これは、
楓真は両手で
「……次の
やはり、兄は、
左手で手綱を引きながら、楓真は右手を
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