4話
正直何かの拷問かと思った。
千夏が僕との出会いから、昨日あったこと、そしてそれぞれでどんな風に感じたかを話すのを後ろで聞いているのに耐えられなくなった僕は、未だ話を続けているであろう千夏を置いてリビングに退避していた。
いや、そういう風に思ってくれてたんだ、とか。
同じこと、感じてくれていたんだ、とか。
何ていうか、ちゃんと好きでいてくれて、彼女になってくれたんだな、とか。
まぁ男としてめちゃくちゃ嬉しい気持ちはあるのだけど、居ないはずの家族にニヤニヤと笑われている気がして、気恥ずかしさが聞きたいに
ブブ――――。
テーブルに置いてあったスマホが震えている。
見ると、涼夏さんからだった。
「はい、もしもし」
「あ! 良かった、ようやく出てくれたわ……千夏も出なくて、貴方も電話に出ないから、もしかして昨日からで何かあったんじゃないかと……大丈夫なの?」
「あ、すみません、携帯置いてしまっていて、千夏さんのもここにあります……大丈夫です、特に何もなくちゃんと家に一緒に居ますので」
何度か着信があったのかもしれないが、あっちにいて、全然気づいていなかった。
「そう、良かったわ。…………そういえば貴方達、昨日の夜は…………スマホも近くにあるって、あら、もしかして千夏が出ないのって……?」
「……あの? 誓ってお嬢さんにその、学生らしくないことは、していないといいますか……ええと」
脳裏に、抱き合った温もり、そして、何度か交わした口づけの柔らかさが思い起こされる。
何もしていないわけではないので、ちょっと曖昧な言い方になってしまった。
「あら、ハジメくんならいいわよ? でもそうね、考え方もしっかりしているし金銭的な余裕まであるとは言え、やりたい事が明確にある訳じゃないならきちんと高校くらいは出ておいた方が良いとは思うから、そういうことさえ気をつけてくれれば」
「…………涼夏さん? 僕が言うことではないですけど、娘の彼氏にそういう事を言わないでいただけると助かるんですが」
「ふふ…………ってあら? え!? 本当に?」
涼夏さんのいつものからかい混じりの言葉に、勘弁してくれと思いながらそう言うと、涼夏さんが笑った後に、随分と驚いた嬉しそうな声を出す。
「貴方達……ようやく恋人同士になったのね!?」
「あ…………」
「で? 千夏は? あ……もしかして電話に出ないのはまだお布団の中だったりするのかしら? じゃあ身体が怠いとかそういうこと…………ハジメくんは、まぁ男の子なら初めてでもそういうこともないのかしら? ……そうなると、赤飯を炊かないとね…………あぁ、何で私はこんな時に検査入院なんてしているのかしら」
「涼夏さん? ちょっと! 話聞いてます!? だから…………もう、僕はまだ童貞ですって!!」
「…………ハジメ? 一体何を誰と話してるの?」
電話の向こうで何やら話を聞かずに暴走しているらしき涼夏さんに、思わず僕が変なカミングアウトをしてしまったところで、後ろから聞いたことのないほど冷たい千夏の声がした。
もう色々と最低だった。泣きたい。
◇◆
意味もなく彼女と彼女の母親によって午前中から
時刻は昼過ぎ。本当は昼食を食べてから来ても良かったのだが、ちょっと話を聞いておきたいという、僕の知り合いでもある弁護士さんのスケジュール的な問題で、昼を食べずに来ていた。
「ごめんね、ハジメにまで一緒に来てもらうことになって……もうお母さんったらあんな話までしているし、ちょっと怒らないと」
少し前を歩く千夏は、僕に謝罪の言葉を告げつつ、これから会いに行く涼夏さんに対して怒っていた。でも、おそらく照れ隠しも入っている気がした。
「ううん、もう僕にとっても他人事じゃあないし……その、こっちこそごめんね、何か口を滑らせちゃったせいで、勝手に涼夏さんにも報告することになって」
なので、僕は大丈夫と言いつつ、こちらも謝る。何というか素で口を滑らせてしまったというか、きっと千夏がタイミングを見て伝えるつもりだったのが、即報告みたいになってしまったのは申し訳ないなと思っていた。きっとからかわれるだろうし。
尤も、父親の話をしないといけないので気が重いところを、少し明るい――と思ってくれていると信じているが――話題ができたのは良かったとも思っていた。
「…………ううん、元々ちゃんと報告はしようと思っていた、というか絶対に聞き出されてたと思うから。何ていうか、もっと早くこうしてお母さんと話ができるようになっていればよかったなって思うけど、同時に家族でも必要だったはずの遠慮すらなくなってる気がするというか」
「あはは……でも涼夏さん、気を落としたりしてないかなと思ったんだけど、元気そうで良かったよ。空元気でもそうできるっていうのは大事だからさ」
「そうね……それにハジメとうちのことをからかっているのは、空元気じゃないような気がするし。改めてありがとね、ハジメ」
そう言って、千夏は振り向いて後ろ向きに歩きながら、こちらを見て微笑んで続ける。
「あと……
「…………」
全くもう、そういう事をさらっと言うから僕はいつも、ドキドキさせられてばかりだ。
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