第35話 エピローグ

「めいみゅうすごいな。投げられたスパチャ、応援だけじゃなくアンチのコメントも全部読み上げるなんて」

「トレンドにも上がってる。めいみゅう最強って」

 めいみゅうは言っていた通り、その日の内に配信した。

 ファンと向き合い、嘘偽りなく答えたことから、人気が再上昇していた。


 めいみゅうはたった一人のために配信してるって言ってたけど・・・。

 おそらく雄太は、一生気づかないと思う。


「よかった」

 雄太がコーヒーを飲みながらふぅっと息をついた。

「結局、俺がやったことも無駄だったな」

「でも、めいみゅうが元気になってよかったでしょ?」

「何よりだよ。めいみゅうってこんなに強かったんだな。頭もいいし、話も旨いし、癒されるし、やっぱ推しは最高だな。ごめんね、せっかくみんなが集めてくれた情報も使うことなかったよ」

「ううん・・・・・・」

 魔王リカリナと目が合った。


 めいみゅうが私たちと雄太がやったことを全部知っていることは、秘密のままにしている。

 魔王リカリナは特に顔に出やすいから、いつまで嘘を貫き通せるかわからないけどね。


「そうだな・・・何も言ってないのだ。私は嘘はつかないのだ」

 今もうずうずしているのが伝わってくる。

 いつ口を滑らせてもおかしくない。


「で、めいみゅうはこの部屋をちらっと見て帰っただけなんだよね?」

「そう言ったでしょ?」

「だよなー。まさか、夢とはいえ、俺もあんなことを言うなんて・・・しかも、めいみゅうが・・・いやいや、マジで頭おかしくなってきたかもしれない。最近ゲームばっかやってたから」

 雄太が口を押えて顔を赤らめた。


「?」

「・・・・・・」

 女神ルナが目を細めて笑う。


 めいみゅうが雄太に近づいて何をしたかは、私も魔王リカリナもわからない。 

 女神ルナだけが、月明かりでちらっと見えたと話していた。


「2人とも、そろそろバイトの時間じゃないの?」

「おう、そうだな」

「あ! 私、綾小路龍さんにも今回のこと説明しなきゃ。自分のせいだって、すごく心配していたから。今日、来てくれてるといいんだけど。聞いてみようかな」

 スマホを出して、綾小路龍にラインをする。

 一瞬で既読になった。意外と暇なのかな。


「お前も、オークに優しい奴だな」

「綾小路龍さんはいいオーク・・・って、オークに見えるのは、女神ルナがそうゆう魔法をかけたからなんだから。そういえば、女神ルナ、オークに見える魔法は解かないの?」


「んー」

 女神ルナが雄太のほうを見つめて唸った。

 雄太が必死に、めいみゅうのアーカイブを録画している。


「まだなの」

「そう・・・」

 肩を落とす。なんかうまくいったような、いっていないような、もやっとした感覚だった。


 そもそも、くっつくといっても具体的に何がゴールなのかわからない。

 雄太がスパチャを投げなくなったら終わり? なのかな。


「電子空間入るの面白かったけど、代償がでかすぎるな」

「すっかり元に戻ったの?」

「体はね。でも、変な夢見るし、現実と夢の境目がわからなくなったよ。危険すぎる」

 雄太が自分の腕を見つめていた。


「電子空間、移動するの疲れるのだ。普通に魔法を使う方が楽なのだ」

「そりゃ、まだ使い始めだしね」

「めいみゅうがこれだけ元気なら、しばらく使うこともないの」

 女神ルナがゆらゆら揺れながら言う。


「あ!」

 雄太が思い出したように、こちらを振り返った。


「俺、バイトするんだ。ちょっとだけ」

「えぇっ!?」


 どさっ


 私と魔王リカリナが同時にカバンを落とした。

 女神ルナはお茶をこぼしている。


「雄太が仕事を」

「する?」

 天と地がひっくり返りそうなほど、驚いていた。


「前の会社の長谷川が起業するらしくてさ。軌道に乗るまで手伝うことになったんだ。ま、このPCとUSB借りる交換条件でもあったんだけど・・・」

「待って待って!」

 前のめりになる。


「は・・・・働けるの?」

「あれだけ無職最高って言ってたのに」

「無職最高なことには変わりないって。別に正社員でもないし、ただバイト程度に手伝う感じだけどさ・・・」

 雄太が頬杖をついて、画面に映っためいみゅうを見つめる。


「推しに本名を名乗れる自分になりたいんだよね。太郎じゃなくて、ゲームクリエイターでいつもコメントしている雄太だって。まぁ、言ったところで誰? って感じかもしれないけど」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 もう、完全にバレてる。

 めいみゅうが内緒って言ったから、内緒にしていなきゃいけないんだけど。


「雄太、めいみゅうはな、その・・・」

「魔王リカリナ、早く行こう」

「んぐ・・・」

 魔王リカリナの口をふさいで引っ張った。


「今日は魔王リカリナがVtuberとして配信する予定でしょ?」

「うわー忘れてたのだ。でも、ガンプラのためだ。頑張りどころなのだ」

「前々から気になってたんだけど、ガンプラ集めて何をするの?」

 女神ルナがこぼしたお茶を拭きながら、首をかしげる。


「ふふふふ、我が魔王軍を作るのだ」

「魔王軍?」

「10体のガンプラから成る魔王軍・・・ここに並べるつもりだ。かっこいいのだ」

 うっとりとしながら言う。

 帰り道に、10体のガンプラの説明をしてもらったけど、全部同じにしか見えなかった。


「はぁ、一体だけでもこんなに尊いなんて。ガンプラは偉大なのだ」

「そうなの?」

「この良さが伝わらないとはな。私はガンプラのために働いているのだ」

 女神ルナがきょとんとしていた。


 メン地下アイドルのむうたくんの祭壇にあるペンライトの位置を直す。

 今は、並べたチェキもオークにしか見えなかったけど、めいみゅうと雄太をくっつけて、ちゃんと女神ルナの魔法を解かなきゃ。


 ライブに通って、いつかツーショットチェキを撮る。


「みんな趣味があってうらやましいの。私も趣味を作りたいの」

 女神ルナが窓枠に座って足をプラプラさせていた。


「あ、そろそろ行かなきゃ」

「あぁ、行ってくるぞ」

「配信楽しみにしてるの。ここでリアタイしてるの」

 にこにこしながら手を振った。


「うっ・・・お腹が・・・・」

「めいみゅうが来てくれるから大丈夫。私だってどうにかなったんだから」

 魔王リカリナがお腹を摩りながら、ドアに手をかける。


「いってきま・・・」

「あ、ティナちゃん」

 雄太が呼び止めてきた。


「ん?」

「・・その・・・めいみゅうに、頑張ってって伝えておいて・・・」

 視線を逸らしながら、小さい声で言う。


「はーい」

 瞼を重くして、微笑んだ。


「つか、本当に、本当に、この部屋見て引いてなかったんだよね? なんかこの量のグッズあったら、俺がストーカーみたいに思われそうなんだけど、大丈夫?」

「大丈夫だったの。何度も言ってるの」

「うーん、なんか、体が戻ってきてから調子が悪いな。もう、あんなの二度とやらない。また、変な夢見るかもしれないし」


「どんな夢見たの?」

「めいみゅうが俺に・・・って言うわけないだろ! 危ないな」

 女神ルナがまったりしながら笑っていた。

 雄太は完全に遊ばれている。


 女神って実は元々、意地が悪いのよね。

 雄太が寝ながら自分の気持ちを話していたのも、もしかして・・・。


 女神ルナならやりかねない。


「勇者ティナ、置いていくぞ」

「あ、今行くって。いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 家を出て、駆け足で、狭い路地を入っていく。

 今日も混みそうだな。


 秋葉原のビルのVtuberの広告に、光が差しているのが見えた。

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女神の加護を受けし女勇者、史上最強の女魔王、36歳無職の秋葉原ライフ ゆき @yutsukimidayo

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