第6話「次の国王に選ばれたのは……」最終話
「以上で円周率二万桁の暗唱を終わります」
ジェニーが円周率の暗唱を初めてから、まだ二十分しか経過していなかった。
「グラナート公爵、ヤーデ侯爵、フェアトラウェン司教殿、ジェニーの暗唱した円周率に間違いはなかったかな?」
国王が三人に問う。
「はい、陛下。
トゥーゲント・グラナート。
宰相の職とグラナート公爵の名にかけて、ジェニー王女の読み上げた円周率が正しかったことを証言いたします」
「陛下、私もグラナート公爵と同じ意見です。
ラート・ヤーデ。
魔術師団長の職とヤーデ侯爵の名にかけて、ジェニー王女の読み上げた円周率が正しかったことを証言いたします」
「フェアトラウェン。
司教の職にかけて、ジェニー王女の読み上げた円周率が正しかったことを証言いたします」
ジェニーの円周率の読み上げに立ち会った者たちが、ジェニーが読み上げた円周率が正しかったと証言した。
国王も己の目と耳でジェニーの読み上げた円周率が正しかったことを確認していた。
国王は知っていて、あえてこの三人に証言させたのだ。
「陛下、これが私の賢さの証明です」
ジェニーが国王に向かってカーテシーをすると、玉座の間に集まった大臣たちから拍手喝采が巻き起こった!
「素晴らしい!」
「これほどの才女は見たことがない!」
「ジェニー王女こそ本物の天才だ!!」
人々が口々にジェニーを称賛する。
「悔しい!
わたくしだって、あと一か月あればあのくらい暗記できましてよ!!」
セーロスがハンカチを噛み、地団駄を踏む。
一か月かけて、ようやく九九が暗唱できるようになったセーロスに、円周率二万桁の暗唱が不可能なことは誰の目にも明らかだった。
「皆、静かに」
国王が声を発すると、玉座の間は水を打ったような静けさを取り戻した。
「では、余の口から勝者の名を告げよう」
皆が固唾を呑んで王の言葉を待つ。
「この勝負、ジェニーの勝ちとする。
よって王位は第二王女のジェニーに譲る」
国王は満足そうな笑みを浮かべてそう告げた。
国王の言葉にジェニーサイドの人間から歓声が沸き起こる。
玉座の間に集まった大臣たちからも、
「やはりジェニー王女が勝利したのか! 納得の結果だ!」
「ジェニー王女は類まれな天才だ!」
「ジェニー王女なら、この国を正しく発展させてくださるはずだ!」
ジェニーの勝利を称える声が上がった。
「きーー! 何よ! 何よ!
みんなジェニーばっかり褒め称えて!
こんな国の王位なんかいらないわ!
イケメンの王太子がいる国に嫁いでやる!」
セーロスは噛んでいたハンカチを床に落とすと、ヒールのかかとでぐりぐりと踏みつけた。
セーロスはぷんすこと怒りながら玉座の間を出ていった。
彼女を追いかける者は誰もいなかった。
「おめでとうございます!
王女殿下」
「他人行儀な呼び方は止めてルーエ。
幼馴染でしょう」
ジェニーとルーエは手を取り合い、ほほ笑みあった。
この後、王位を継承したジェニーの隣にルーエが寄り添い、王配としてジェニーを支えることになる。
国王となったジェニーは、計算が得意な者を雇い、固定であった土地税を変動性に変え、不作の年には税金の何割かを軽減した。
これにより、不作の年には税金が払えず家族を売ったり、土地を捨て逃亡する者が多かった農民の暮らしは安定することになる。
主食が小麦の場合、国民の九割は農業に従事しなくてはならない。
土地を捨てて逃げ出す農民が多いと、土地は荒れ、食糧の自給率も低下するのだ。
またジェニーは家を継げず、婿入り先の決まらなかった農家の次男、三男を受け入れる学校を作った。
村に未婚の女性がいない場合、次男、三男は夫を無くした未亡人に婿入りする。
農業は女性一人ではできず、働き手である夫を亡くした家は立ち行かなくなるからだ。
婿入り先の見つからなかった者は、村を出て仕事を求めて街に行く。
しかし街には日雇い人足のような仕事しかなく、生活が安定せず、彼らの多くは体を壊し若くして亡くなっていた。
また真っ当に働くことを諦め、盗賊や山賊に身を落とす者もいた。
盗賊や山賊が増えると、街やその周囲の街道の治安が悪化した。
ジェニーはこれ以上盗賊を増やさないために、農家の次男、三男を学校に通わせ、文字の読み書きや算術を教え、商人としての就職先を斡旋した。
学校に通っている二年間は彼らの人頭税を免除し、彼らが気兼ねなく学校に通えるようにした。
また六十歳以上の年寄りの人頭税を免除した。
これにより、人頭税が払えず泣く泣く年寄りを山に捨てていた農民たちは、年老いた祖父母や父母と暮らせるようになった。
これらの改革により、農村を中心に民の暮らしは安定し、クルーク国はより一層の発展を遂げたという。
――終わり――
最後までお読みくださりありがとうございます!
文章のほとんどが円周率というのかズルいこの小説。
ギャグとしてお読みいただければ幸いです。
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「跡継ぎに選ばれたのは、国一番の美女と称される姉ではなく、地味姫と呼ばれ蔑まれていた第二王女の私でした」完結 まほりろ @tukumosawa
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