第308話 合流先は混沌

 俺等の……と言うよりも、きっとカーク隊長の姿を見てザワ付いているんだろう。まだ、広く誤認逮捕だった知らせが回っていないだろうからな。


 しょうがない…異世界にはSNSねぇし。


「カ、カーク…隊長。何故ここへ………」

「ああ……容疑が晴れたんでな。御領主様にその報告もあって来た」

「……白、白」


 カーク隊長には、以前と同じ様に『看破』で衛兵の状況を知らせ、大丈夫なホワイト衛兵には、さっと例の動画だけ見せておく。下手な猜疑心を持たれても困るからよ。

 

「……何と!ジケイナめ……この様な卑劣な手段で隊長を罠に嵌めたのか!」

「しかし、この隊長のナイフは、確か隊舎の隊長室にあったのでは?」

「ああ。ランゾフが持ち出して、ジケイナに渡したのが分かった。その対価を受け取っていた事もな」


 身内に共謀していた者がいたと知って、その門兵達は少なからずショックを受けていたが、それがランゾフだと聞くと、『ああ〜!』と、合点がいったのか声を揃えて納得していた。


 そうして領主館の奥へ進むと、廊下の端で壁にもたれ掛かり、顔を覆った人物が1人いた。調べてみると『ジケイナ買収済(悔恨中)』と出た。

 カーク隊長にもそれを伝え、悩める人物の側に行って声を掛ける。


「どうかされましたか?」

「…あっ?!カ、カーク隊長?!何故ここへ??」

「容疑が晴れたので、御領主様が暴走する前に落ち着いて頂こうと思いまして」

「……そうでしたか。私は……先程ノクイルヨン様に『真偽』を使われ、ジケイナに……買収された事実を認めました。そして、私の判断がランティエンスを潰しかねない、とても愚かな選択だったと、知らされたのです。ノクイルヨン様は既に他の大臣達の元へ行かれています。護衛は付いておりましたが、大臣達もお抱えの私兵と、一部の衛兵も同席していたはずです。カーク隊長も早く合流された方が良いかと……」

「ありがとうございます。分りました、直に向かいます」


 悔恨中の大臣は、そう言って先にある扉を指し示した。あそこが、買収大臣共の集会所か?

 その部屋に近付くにつれ、喧々囂々けんけんごうごうとした声がドア越しにも聞こえて来る。


「……中々白熱してんな」

「そうだな…。入るのが少し怖いよ」

「悟郎さん、念の為フードの方に入ってて!」

「ニャッ(わかった)!」


 意を決してカーク隊長が扉を開けると、騒がしかった声が止み、中にいた人達の視線がこちらへ集まった。


 そして、カーク隊長が来た驚きで、再び騒ぎになり『なんで貴様がここにいるんだ?!』とか『捕まったはずでは?!』と、サプライズな登場人物に大臣共が一気に五月蝿くなった。


「阿呆共、黙れぇぇぇ!!!」

「「「「え?!」」」」

「私が『真偽』で、確認している最中に喧しいわ!!次のお前、さっさと答えよ!!」


 どうやら、途中参加の俺達に、中断された事でお怒りの様ですが……?おい!2人して固まらないでくれよ!


「…あら、丁度良かったシロー君もいたのね。こっちに来て、返答を愚図った者を『看破』で見てくれるから?」

「あ、はい………了解しました……」

「街での事は聞いてるわよ?罠に掛けられて捕まる衛兵隊長や、禄に動かないギルド長より、余程良い働きをしているから助かってるわ!」

「あ……ギルド長はともかく、カーク隊長はちゃんとやっていると……思いますが?」


 ギルド長に背中をバシバシ叩かれたが無視をして、領主さんにも、カーク隊長が嵌められた経緯の動画を見せる。

 少しでも落ち着いてもらおう……大臣達と俺に対する言動のギャップ具合が大き過ぎて怖ぇんだよ〜〜!


「……ふぅん。カーク隊長、あなたの部屋は鍵での施錠が可能だったはず。それに退出の際は、施錠が義務付けられてもいる。なのに、このナイフを盗まれたのはどう言う事だ?経緯を私が納得出来る様に説明してくれないか?」

「………はい」


 ガクッと肩を落とし、カーク隊長は経緯を説明し始めた。


 俺ってば、親しい間柄だから『カーク!無事で良かったわ!』的な展開をちょっと想像してたんだけど、激甘だったな。


「なるほど?既に衛兵の中にも、買収されている者がいると知っていたのに、迂闊にも『少しだけ確認をして貰いたい事が…』なんて言葉で釣り出され、直ぐ戻るからと、ドアの施錠を怠ったと……」

「はい…………」

「分かった。カーク隊長の処分については、追って決めさせて貰う。それにしても、隊長ともあろう者が、随分と古典的な手に掛かったのだな?」

「誠に申し訳ありません!」


 この場面を見て、遣る瀬無く感じても良いよな……俺、カーク隊長って格好いい大人の部類に入ってたんだよ……。ギルド長みたいにチャラくねぇし。


「さて、待たせたな大臣。続きと行こうか!」

「ノ、ノクイルヨン様、我々は……」

「シロー君、今、私の質問に答えなかった大臣を『看破』で確認頼む」

「……はい〜………ジケイナ買収済です。受け取った額は言いますか?」

「ああ、聞かせてくれ」


 そして、そこに居た大臣やその私兵、衛兵全てに、領主さんの『真偽』か、俺の『看破』が使われた。


 元より買収大臣の集会だったから、間違い無かったかとは思うが金額はマチマチで、しかも中には役職を報酬としているケースもあり『副領主』の役職に至っては4名も該当者がいた。


「あの………領主さん。質問いいですか?副領主って、複数人でなるもんですか?」

「いや、1名のみだが?………該当者が複数いたのか?」

「はい、4人いますね」


 そして、分かりやすくリアクションをしてしまった該当者達。あのクソたぬきジジイに上手く騙されたのか、買収額を上げようとして、対価を『副領主』の地位で示されたのかは知らねぇけど、そんなの信じる方が悪いよな〜。


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